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コロナ禍で一番悲しかったこと

出来なくなった。変わってしまった。
コロナが蔓延してそんなことが山のように増えた。

行きたかった舞台が中止になった、友達と会う機会がぐんと減った、そんな事が思い出せばきっと沢山起きていると思う。

それでも、そこまで落ち込むことはなかった。
別にそれは、慣れたわけでも諦めがつくようになったからでもない。

何よりも悲しいことがあったから。その悲しみを上回ることがないだけ。ただそれだけだった。

私の一番悲しかった出来事は、東大野球部の卒部セレモニーが無くなってしまったことだ。

卒部セレモニーとは、秋の東大最後の試合後に神宮1番入口と集積場の間のスペースを使って行なわれるセレモニーである。
(3塁側の年もあるのかもしれないが)

4年生の選手たちがユニフォームのまま出てきて行われるセレモニー。
選手がそれぞれ一言ずつ話したり、ファンや友人・先輩からプレゼントを渡すことが出来たり、後輩からのプレゼントがあったり、チアが踊ったり、最後には4年生がそれぞれ胴上げをされたりする。

2019年卒部セレモニー


セレモニー後には写真を撮ってもらえたりサインをもらえたりといった夢のような時間もある。
控えめに言って神。


人も密集するこのセレモニー、コロナ禍で出来ないであろうことは春季リーグの頃から薄々気が付いてはいた。

もしかしたら今年は出来ないかもしれない。

そう思ってはいたが、実際に中止を知った時のショックは計り知れないものだった。

選手の引退はこの日しかない。
舞台やコンサートのように何年か後にもう一度、ということはできない。
この日がダメであれば、もう2度とこの年の卒部セレモニーは行われないのだ。

毎年引退する選手がいるのだが(当たり前)、
応援していた選手の引退はなかなか現実味を帯びない。
さっきまでグラウンドで見ていた選手が、次の試合からもういないなんて考えられない。

そんな中セレモニーで選手の言葉を聞いて、ようやく引退してしまうのか、という実感が湧いてくる。

そして、この年の引退する選手の中に
大学1年生の春から4年間応援してきた選手がいた。

1年生の春季フレッシュリーグで初めて投げているのを見た時に、その選手は他の選手が抑えるのに苦労していた立教打線を見事三者凡退に抑えていた。

第一印象は癖のない綺麗なフォーム。
投げるたびに目が離せなくなった。
この選手をもっと見たい、そして沢山活躍してほしいと思った。

次に見たのが、2年生の春季フレッシュリーグ。

その二戦目になんと先発を任されていた。
結果は8回を完投し、自責が3。

試合は惜しくも3-2で負けてしまったが、
やっぱりいい選手だと改めて思った。

その後は夏の京大との試合で勝利投手になったり、七大戦で先発を務めたり、オープン戦のA戦でガンガン投げるなど、リーグ戦に向けて順調な成果を見せていた。

秋のリーグ戦への期待値は爆上がり。

そして秋のリーグ戦が始まった。
期待通りベンチ入りを果たしたが、なかなか登板の機会を得ることはなかった。

そんな中、2018年の10月6日。
ついにリーグ戦での初登板を果たした。
待ちに待ったこの瞬間。本当に待った。
ベンチ入りしてから毎週神宮球場に通い詰めてようやくだった。

1 2/3回を投げて無失点。素晴らしすぎる。
さすが私の推し。天才すぎん?
いや、東大生の時点で天才なのはわかるけどそれでも天才すぎんか???

と、推しを前に語彙力をなくしながら半泣きで応援をしていた。

その後も秋季フレッシュリーグで先発を任されるなど、順調に投球を重ねていった。

三年生になった春季のフレッシュリーグでも
計7 2/3回を投げて1失点と好投を続け、リーグ戦も活躍間違いなし!と思っていたが、春季リーグ戦で投げているのを見ることはなかった。

「僕の野球人生」(という引退前に4年生がそれぞれ書くブログ)を読んで知ったのだが、背中の肉離れに始まりそのあとは血行障害と、怪我が続き辛い日々を送っていたらしい。

そんなことは知らない私は、なんであんな好投してたのに!と見当違いで監督に文句を言ったりしていた。

その後投げているところを再び見れたのが
2020年8月11日。彼が4年生の夏である。

(この年はコロナの影響で春季リーグが延期になり、夏場にやることになったのだ。暑すぎるて)

東大が2点差まで追い上げた重要な場面での登場に、久々に見た嬉しさと、この場面でか!という緊張で心臓が飛び出るんじゃないかというほど緊張した。 
今でもその動画を見るとドキドキしてしまう。

そして迎えた4年生の秋季リーグ。このリーグを持って彼の4年間の大学野球人生が終わりを迎える。
なかなかベンチ入りができない中、最終節でついにマウンドに戻ってきた。

嬉しかった。
もう一度見れた、そのことがとても嬉しかった。

抑えた後に「よっしゃー!」と嬉しそうにベンチに戻ってくる姿。
ベンチで誰よりも声を出している姿。
ベンチから誰よりも早く出ていき守備に入っていた選手を向かい入れる姿。
マウンドでアウトを取った後見せる笑顔。

そのどれもが魅力的でワクワクさせられた。

「もうピッチャーをやめようか」
そう考えたことがあると僕の野球人生に書いてあったけれど、私は最後まで続けてくれて本当に嬉しかったし、4年間のピッチングを見ることができて最高に幸せだった。

彼の最後の言葉を聞くことが出来なくて、本当に引退してしまったのか?もう一回見れたりしない?なんて秋季リーグが終わってからも考えてしまっていた。

もちろん本当に良い選手だったことを改めて本人に伝えたい気持ちもあったし写真も撮りたかった。なんならサインも書いてもらいたかった。

でもそれ以上に本人からもう引退だという言葉を聞いて、引退をしっかり受け入れたかった。

大学1年生の選手を見るという機会が少ない中運良く見ることが出来て、そして4年間応援できたからこそ引退することへの悲しみが大きすぎたのだ。

私が受け入れるかどうかなんて関係なく引退は決まってるのに、その悲しみが頭から離れずに今も心に残り続けている。

長くなってしまったが、いつかまた、神宮の1番入り口と集積所の間を使って卒部セレモニーが出来る日が来てほしい。

コロナめ、早く終息してくれ。

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