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60歳から始めるバックカントリースキー  第3回 立山編

<スキーガイドという職業>
今年の春山は二週間を立山で過ごす計画を立てた。前半はバックカントリースキー、後半は雪山ガイドの日程を組んで、4月19日に立山にはいった。まずは天狗平山荘を拠点に、室堂周辺を滑り倒そうという目論見で、立山と剱岳を知り尽くした本郷博毅ガイドにスキーガイドお願いした。その目的はほぼ達成できた。
自分はスキーガイドではないが、積雪の判断、雪崩回避の方法、もしも雪崩にあった時の捜索方法などは訓練を受けている。が、スキーガイドはさらに、滑走する斜面の雪質の時系列での変化を読むことが要求される。
その日の天候、日射と気温変化、風の強さと向きから、どの方角を向いた斜面が、何時ごろまで滑走に向いているか、クライアントの滑走技術に見合った斜面を選択し、怪我がないように、滑走不向きになる雪質の変化を見極めて、ガイディングを行う。

今回、私を含めてBCスキー超初心者3名のガイドを本郷ガイドにお願いした。我々の表情(急斜面やアイスバーンの恐怖が顔に現れる)や疲労具合をこまめにチェックしながら、一方で滑る楽しみを味わう(=ある程度は斜度がある斜面での滑走)こととのバランスをとりながらのガイドだったように思う。
初日は慣らしで室堂山周辺を滑り、二日目は御山谷と天狗山、三日目は国見岳の山頂近くからと、無事に怪我なく滑り終えることができた。

日本山岳ガイド協会が認定するスキーガイドには二種類のカテゴリーがある。「スキーガイド1」と「スキーガイド2」で、いずれも独立した資格でではなく、「登山ガイド2」と「登山ガイド3」、「山岳ガイド1」と「山岳ガイド2」の付帯資格になっている。「登山ガイド3+スキーガイド1」「山岳ガイド2+スキーガイド2」といった具合で、スキーガイド1はスキー場アクセスで容易にゲレンデや山小屋に戻ってこれる範囲での活動、スキーガイド2はどこでもOK、である。山岳ガイドの資格取得は近年ますますハードルが上がって合格するには大変な努力と修練、時間とお金、技術と経験が必要になってきているが、スキーガイド2はさらに取得が難しい資格と言われている。
スキーガイド2の検定は、残雪期が4日間、厳冬期が7日間に及ぶ。滑走技術、雪の安全管理、雪崩対策、レスキュー技術、ナビゲーション、ビバーク技術、ロープワーク、クライアントの健康とメンタルの管理など多岐に及ぶ。

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(上:国見岳へシートラーゲン / 下:国見岳を滑走するボーダー)

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(上:室堂山はBTから近くメローな斜面。ただしストップスノーの時は要注意)

<ストップスノー>
ストップスノーとは、板が走らない雪質のことだ。カリカリの、表面がクラスとした斜面とストップスノーとどちらを滑るか、と言われたら、カリカリ斜面の方を選ぶ。なぜなら、ストップスノーは、スキーのコントロールが難しく、時に雪に捕まって転んでしまう。春の湿った新雪は、気温や日射次第で、一見パウダースノーで滑りやすそうに見えて、一気にストップスノーに変化してしまう。
今回は、4月25日がザラメで滑りやすかった。翌26日にかけて降雪があり斜面は完全にリセットされノートラック状態となった。勇んでシールをつけてハイクアップしたものの、一本目から完全なストップスノー。一本滑る間に二回転倒して、右足膝内側を痛めてしまった。雪質の見極めは難しい。滑ってみれば分かるが、滑って転んでからでは遅い場合もある。
優秀なガイドがナビゲートしてくれる場合は、ガイドがクライアントの滑走技術や疲労度を見極めて、安全で楽しいラインを指示してくれる。ダメなガイドは、自分が滑れるところを滑って、下で手をあげて合図するだけだ。
(下:新雪でリセットされた斜面)

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<直滑降>
前回の八幡平遠征からいっこうに進歩しない私の滑走技術を見て、本郷ガイドのアドバイスは「勇気を持って直滑降」だった。とくに降雪直後の不安定な斜面での斜滑降は、雪崩を誘発するからご法度。ターンを繰り返すのではなく、なるべく直滑降。
「そこでターンはもったいない!」
そうは言われても、急斜面ではスピードを殺さないとまだ怖くて滑ることができない。それでもなんとか天狗山の北斜面、最大斜度は40度ほど、をなんとか滑って弥陀ヶ原に下った。

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(上:ザラメの日は、雷鳥沢近くの斜面をかなりハイクアップして滑走した)


<板の太さは?>
この時期、立山には全国のスキーヤーが集まってくる。スキーガイドたちも集結。見知った白馬のガイドさんや、上越や水上方面のガイドさん、北海道から毎年やってくる有名スキーガイド、そして地元富山のガイドたち等々、豪華な顔ぶれが並ぶ。皆が泊まる雷鳥荘のエントランスには、スキー板がずらり。どれも太い。
「春の立山ならセンターで110は欲しいですね」事前に本郷ガイドにそう言われていたが、今使っている板の幅は95しかないツアー用だ。滑走技術で補えないこともあり、降雪直後の滑走には細すぎることが、今回あらためて分かった。太い板が欲しい、、、。そして来年こそは、直滑降とパウダー滑走。そう誓って立山を後にした。

<続く>

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