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Peak2Peak通信

Peak2Peak写真山岳ガイド事務所による登山と写真技術のオンライン講座。写真家でガイドの檢見﨑誠(日本山岳ガイド協会所属、登山ガイドステージⅢ)が、山登りと写真撮影のテクニッ…
山と写真撮影の魅力を、テキストと写真でお伝えします。Peak2Peak写真山岳ガイド事務所主催のガ…
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#山岳写真

スプリング・エフェメラル

山道で出会う花の名前が覚えられなかった。何度も同じ花の名前を覚えては忘れ、忘れては写真と図鑑を見比べて再確認した。暫くすると、花が咲く季節と場所がセットになって記憶に残るようになった。毎年、同じ季節に同じ場所で同じ花々が迎えてくれる。ああ今年もこの花たちに巡り会えた。寒い冬を雪に守られて過ごし、太陽の光を浴びて短い夏を謳歌する花々の姿に、心を動かされる。 スプリング・エフェメラル Spring ephemeral いつのころからか、雪解けと共に咲き、夏が来て植物が繁茂する前

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憂鬱な山

<戦闘的楽観主義を捨てる> 若い頃は、周囲のことに向き合うことを避けていたように思う。人間関係や仕事、目の前にこと、将来のこと、どうにかなるさと、よく言えば「楽観主義」、悪く言えば「その場しのぎ」。そうして多少の冒険主義も失敗も許されたと思ってきたが、山を仕事とするようになって、それが許されないことと実感するようになった。 写真の世界の失敗では、怪我も命も落とさなかったが、事が起こってからでは遅い山の世界で生きるようになって、まだまだ不十分でいつまで経っても未熟ではあること

冬山シーズンイン 完璧なビーナスベルト

<難しい選択> 2021年、コロナに明け暮れた今年も、あとひと月を残すだけとなった11月末。ラニーニャ現象によるドカ雪が北アルプスにもたらされた。登山にもBCスキーにも嬉しい降雪ではあったが、入山日のタイミングは、難しかった。 北アルプス北部では、11月19,20,21日までは好天、22日から天気が崩れ始めて26日まで悪天候が続いた。27日から回復に向かい始め28日にThe Dayを迎えた。 この2021年11月28日は「歴史に残る」一日だったとは、立山を滑ったガイドの言葉。

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北穂高岳

毎年北穂高小屋の営業は11月3日の宿泊までと決まっている。昨年はコロナ禍の影響で営業期間が短縮されてしまい、稜線が白くなる前に小屋が閉まってしまった。今年は10月中旬に降った雪が稜線では根雪となりそうなくらいで、満を持して小屋閉めに合わせて北穂高を目指した。 雪が降ると涸沢から北穂へは夏に使う南稜ではなく「春道」と呼ばれる北穂高沢のルートを登る。涸沢から北穂を見上げると南稜と東稜に挟まれた大きな急勾配のルンゼが見える。これが北穂高沢だ。無積雪期はガレ場で落石も多く危険。バリ

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雲ノ平、花の巡礼

毎年山が花の季節になると心が騒つく。北アルプスの高山帯なら雪渓が溶け始める7月中旬ごろから、太陽の光と雪解け水がそれまで眠っていた花々を目覚めさせる。 高山帯の雪解けは、6月末から7月上旬にかけてどれくらい雨が降るかによって、その時期と残雪の量が変わる。2021年、今年の黒部源流エリアでは谷筋では残雪が多く、稜線の雪は早い時期に溶けていたようだ。7月に入ってから雨が少なかったせいで、残雪が多いエリアもあった。たとえば標高の高い場所でチングルマやハクサンイチゲが咲き始めている

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Peak2Peakのデジタル写真講座第13回「マクロレンズで高山植物」

NIKONのZマウント用のマクロレンズがついに発売された。今回はそのうちの一本、NIKKOR Z MC 50mm f/2.8を使って、マクロレンズの世界を楽しんでみよう。 <最短撮影距離とワーキングディスタンス> レンズにはそれぞれ被写体に最も近づける距離があり、それ以上近づくとピントが合わなくなる。これを最短撮影距離と言っている。例えば、ニコンのZマウント用の標準レンズであるNIKKOR Z 50mm f/1.8 Sの最短撮影距離は「撮像面から0.4m」である。(撮像面と

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Peak2Peakのデジタル写真講座第12回「光を味方につけよう」

<photo+graph> フォトグラフとはphoto=光でgraph=描くことである。光が物体に当たって反射し、その光をカメラは記録する。かつてロラン・バルトは「写真とは全て過去にあったこと」と言ったが、もし未来から届く光があれば、きっと写真は絵画に近づきより自由を得るだろう。しかし、今のところ、写真は過去から届いた光しか、記録できない。 光には色があり、強さがある。角度があり、拡散の度合いがある。朝の光は低い位置から山々を照らし、「モルゲンロート」などと持て囃されるよう

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春の山々へ

<トレーニングを欠かさないお客様と> 新型コロナの自粛で減った山のガイドの仕事も、春の訪れとともにお客様からの問い合わせも増え始め、まだ雪深い山々に出かることが多くなってきた。 2月下旬、八ヶ岳の編笠山。しばらく山から遠ざかっていたお客様と一緒にトレーニングを兼ねて登った。スキー場わきから登山道に入り、樹林帯を登る。日帰りで標高差1200m。 歩き始めるとすぐニホンジカの死骸に出くわした。目を見開いて登山道に横たわる屍の腹は大きく食いちぎられていた。クマだろうか。この冬、

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Peak2Peakのデジタル写真講座:第6回 高山植物の撮影(前半)

風景写真や山岳写真を撮影し作品として完成させていく時に必要な思考やテクニックを、毎回お伝えして行きます。今回のテーマは「高山植物の撮影」です。 <被写界深度と最短撮影距離>  高山植物の花を始めととする比較的小さな被写体を撮影する時に必要なカメラ側のスペックが、この2つです。まず「被写界深度」はピントが合って見える範囲ですが、絞り値の項で詳しく述べたように、これはレンズの開放F値と関係しています。背景をボカして被写体を浮き立たせる場合、開放F値が明るいレンズほど被写界深度

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Peak2Peakのデジタル写真講座:第5回  写真にとって「絞り値」とは何か 後半

風景写真や山岳写真を撮影し作品として完成させていく時に必要な思考やテクニックを、毎回お伝えして行きます。今回のテーマは「絞り値」その後半です。 <日中の明るい戸外の明るさ> 写真の明るさを決めるのは、ISO感度、シャッタースピード、絞り値、この三つです。この三項目の関係を理解しなければ、いくら絞り値についてだけ言っても、先へ進むことができません。 前回、レンズの絞り値について、その値がどのような結果をもたらすかについてお話しましたが、被写体の明るさが一定の時、絞り値を変化さ

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Peak2Peakのデジタル写真講座:第3回  写真にとって「画質」とは何か 後半

風景写真や山岳写真を撮影し作品として完成させていく時に必要な思考やテクニックを、毎回お伝えして行きます。今回のテーマは「画質」その後半です。 マガジンを定期購読すると、全ての記事を読む事ができます。 <画質と創造性は別問題> ここでお話しする「画質」は、前回(写真にとって「画質」とは何か 前半)で述べたカメラの設定項目にある画質ではなく、写真の仕上がりに関する事柄です。 最初に断っておかなければならないのは、「画質が良い写真=優れた写真作品ではない」ということです。「画質

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StayHome チャレンジ03:Peak2Peakのバーチャル登山 奥大日岳

Peak2peak写真山岳ガイド事務所では現在、新型コロナウィルスの影響でガイド山行を全て取り止めていますが、例年なら登っている山で撮影した写真を交えながら、ルートと撮影ポイントの紹介、登山と撮影のアドバイスを書いていきたいと思います。皆様にも机上の登山を楽しんでいただければと思います。第3回目は、残雪期の奥大日岳です。 <信仰の山 剱岳の展望台> 北アルプスでも最も北西に位置する大日岳。信仰登山が盛んだった立山の前衛の山で、無積雪期には称名滝から縦走コースがあり、変化に富

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Peak2Peakのデジタル写真講座:第一回  写真にとって「明るさ」とは何か

風景写真や山岳写真を撮影し作品として完成させていく時に必要な思考やテクニックを、毎回お伝えして行きます。今回のテーマは「明るさ」です。実際に撮影したデータを使いながら解説していきます。今回は、残雪期の鹿島槍ヶ岳で撮影した写真を使って進めていきます。 <256段階の階調> デジタル写真の規格をまず理解しましょう。被写体である風景は無限の明るさの階調を持っています。もっとも明るい部分からもっとも暗い部分まで、明るさはアナログ的に無限のグラデーションで移行して行きます。しかしデジ

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StayHome チャレンジ01:Peak2Peakのバーチャル登山 鹿島槍ヶ岳

Peak2peak写真山岳ガイド事務所では、毎月、山岳撮影に適したルートにお客様をご案内しています。現在、新型コロナウィルスの影響でガイド山行を全て取り止めていますが、例年なら登っている山で撮影した写真を交えながら、ルートと撮影ポイントの紹介、登山と撮影のアドバイスを書いていきたいと思います。皆様にも机上の登山を楽しんでいただければと思います。 第一回目は、残雪期に爺ヶ岳南尾根から登る鹿島槍ヶ岳をご紹介します。 北アルプスで残雪期に撮影で登る山はどこが良いか、ひとつだ

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