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Peak2Peak通信

Peak2Peak写真山岳ガイド事務所による登山と写真技術のオンライン講座。写真家でガイドの檢見﨑誠(日本山岳ガイド協会所属、登山ガイドステージⅢ)が、山登りと写真撮影のテクニッ…
山と写真撮影の魅力を、テキストと写真でお伝えします。Peak2Peak写真山岳ガイド事務所主催のガ…
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#Peak2peak

三人の赤木沢

<増水> その方と時々一緒に山に登るようになって2年がたった。山歴は長く、経験も豊富で、日々の自己研鑽も欠かさない、80歳近い年齢で現役のクライマーだ。 自分のような無名ガイドでその方の役に立つのかと思うが、安全管理を徹底し、無事に下山していただくことを第一に、毎回ご一緒させてもらっている。今回は黒部の美渓、赤木沢へ、二泊三日でご一緒した。 昨年は悪天候やアプローチに通る有峰林道の土砂崩れで、中止してしまった赤木沢。今年も予定していた日程が豪雨で中止。リスケジュールをし

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スプリング・エフェメラル

山道で出会う花の名前が覚えられなかった。何度も同じ花の名前を覚えては忘れ、忘れては写真と図鑑を見比べて再確認した。暫くすると、花が咲く季節と場所がセットになって記憶に残るようになった。毎年、同じ季節に同じ場所で同じ花々が迎えてくれる。ああ今年もこの花たちに巡り会えた。寒い冬を雪に守られて過ごし、太陽の光を浴びて短い夏を謳歌する花々の姿に、心を動かされる。 スプリング・エフェメラル Spring ephemeral いつのころからか、雪解けと共に咲き、夏が来て植物が繁茂する前

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憂鬱な山

<戦闘的楽観主義を捨てる> 若い頃は、周囲のことに向き合うことを避けていたように思う。人間関係や仕事、目の前にこと、将来のこと、どうにかなるさと、よく言えば「楽観主義」、悪く言えば「その場しのぎ」。そうして多少の冒険主義も失敗も許されたと思ってきたが、山を仕事とするようになって、それが許されないことと実感するようになった。 写真の世界の失敗では、怪我も命も落とさなかったが、事が起こってからでは遅い山の世界で生きるようになって、まだまだ不十分でいつまで経っても未熟ではあること

冬山シーズンイン 完璧なビーナスベルト

<難しい選択> 2021年、コロナに明け暮れた今年も、あとひと月を残すだけとなった11月末。ラニーニャ現象によるドカ雪が北アルプスにもたらされた。登山にもBCスキーにも嬉しい降雪ではあったが、入山日のタイミングは、難しかった。 北アルプス北部では、11月19,20,21日までは好天、22日から天気が崩れ始めて26日まで悪天候が続いた。27日から回復に向かい始め28日にThe Dayを迎えた。 この2021年11月28日は「歴史に残る」一日だったとは、立山を滑ったガイドの言葉。

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北穂高岳

毎年北穂高小屋の営業は11月3日の宿泊までと決まっている。昨年はコロナ禍の影響で営業期間が短縮されてしまい、稜線が白くなる前に小屋が閉まってしまった。今年は10月中旬に降った雪が稜線では根雪となりそうなくらいで、満を持して小屋閉めに合わせて北穂高を目指した。 雪が降ると涸沢から北穂へは夏に使う南稜ではなく「春道」と呼ばれる北穂高沢のルートを登る。涸沢から北穂を見上げると南稜と東稜に挟まれた大きな急勾配のルンゼが見える。これが北穂高沢だ。無積雪期はガレ場で落石も多く危険。バリ

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雲ノ平、花の巡礼

毎年山が花の季節になると心が騒つく。北アルプスの高山帯なら雪渓が溶け始める7月中旬ごろから、太陽の光と雪解け水がそれまで眠っていた花々を目覚めさせる。 高山帯の雪解けは、6月末から7月上旬にかけてどれくらい雨が降るかによって、その時期と残雪の量が変わる。2021年、今年の黒部源流エリアでは谷筋では残雪が多く、稜線の雪は早い時期に溶けていたようだ。7月に入ってから雨が少なかったせいで、残雪が多いエリアもあった。たとえば標高の高い場所でチングルマやハクサンイチゲが咲き始めている

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Peak2Peakのデジタル写真講座第13回「マクロレンズで高山植物」

NIKONのZマウント用のマクロレンズがついに発売された。今回はそのうちの一本、NIKKOR Z MC 50mm f/2.8を使って、マクロレンズの世界を楽しんでみよう。 <最短撮影距離とワーキングディスタンス> レンズにはそれぞれ被写体に最も近づける距離があり、それ以上近づくとピントが合わなくなる。これを最短撮影距離と言っている。例えば、ニコンのZマウント用の標準レンズであるNIKKOR Z 50mm f/1.8 Sの最短撮影距離は「撮像面から0.4m」である。(撮像面と

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Peak2Peakのデジタル写真講座第10回:「遠くの風景を撮る方法 笠ヶ岳を題材に」

笠ヶ岳は岐阜の名峰である。北アルプスの南西部に聳える美しい山、飛騨山脈にあって、もっとも飛騨地方にある山だ。(ところで「飛騨山脈=The Hida Mountains」と言えばいいものを、なぜか西洋にあやかりたい日本人は、これを「北アルプス」と呼ぶ。おかしい。)  西穂高岳へ至る稜線からは、西側間近に笠ヶ岳がみえる。たいてい夜明け前に小屋を出て稜線に取り付くと、笠ヶ岳のてっぺんがまず輝きはじめ、長大な東面に落とされた穂高の稜線のシルエットがだんだんと下がっていく。最初見た時

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Peak2Peakのデジタル写真講座第9回:「無人島にレンズ一本だけ持って行っていいと言われたら? 単焦点レンズ一本勝負 」

<ズームレンズは万能か?> 今どき、ズームレンズを使わない人は、いないだろう。そもそもズームでないレンズの存在を知らない人も、いるかもしれない。だが待てよ。スマホのカメラはズームレンズ? そうじゃないんです。スマホのカメラのレンズは焦点距離が固定の「単焦点」レンズです。iPhoneには超広角、広角、望遠の三つのレンズがついています。撮影時にズームできるのは、「デジタルズーム」という機能で、デジタル的に画像データを拡大しているだけです。本来のズームレンズとは「光学的ズーム」がで

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静かな白い立山

11月23日から二泊三日で室堂に行ってきた。アルペンルートの運行期間も終わる11月末の立山は、毎年雪山シーズンインに登る山だ。BCスキーヤーも結集し、ガイドたちも集まってくる。 例年なら山荘では、常連客やガイド仲間が集ってパーティー状態になるのが常だが、今年は新型コロナの影響で静かなシーズンアウトだった。山に登るにはとくに悪いコンディションではなかったが、滑走には不向きな積雪状況で、室堂周辺は岩やブッシュが露出していた。 22日には、雷鳥荘の割合近くで岩に激突して大腿骨骨折の

Peak2Peakのデジタル写真講座:第7回 高山植物の撮影(後半) 光線の使い方と作図

風景写真や山岳写真を撮影し作品として完成させていく時に必要な思考やテクニックを、毎回お伝えして行きます。今回のテーマは「高山植物の撮影(後半)」です。 <光を味方につける> 写真=photographとは、「photo=光でgraph=描く」ことです。光がなければ写真は成立しません。どのような光線を使って被写体を描くか、同じ被写体でも違った光の元では、異なった表情を見せますので、光を意識して撮影することはとても重要です。風景写真の場合、撮影者が被写体を撮ライティングすること

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Peak2Peakのデジタル写真講座:第6回 高山植物の撮影(前半)

風景写真や山岳写真を撮影し作品として完成させていく時に必要な思考やテクニックを、毎回お伝えして行きます。今回のテーマは「高山植物の撮影」です。 <被写界深度と最短撮影距離>  高山植物の花を始めととする比較的小さな被写体を撮影する時に必要なカメラ側のスペックが、この2つです。まず「被写界深度」はピントが合って見える範囲ですが、絞り値の項で詳しく述べたように、これはレンズの開放F値と関係しています。背景をボカして被写体を浮き立たせる場合、開放F値が明るいレンズほど被写界深度

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Peak2Peakのデジタル写真講座:第5回  写真にとって「絞り値」とは何か 後半

風景写真や山岳写真を撮影し作品として完成させていく時に必要な思考やテクニックを、毎回お伝えして行きます。今回のテーマは「絞り値」その後半です。 <日中の明るい戸外の明るさ> 写真の明るさを決めるのは、ISO感度、シャッタースピード、絞り値、この三つです。この三項目の関係を理解しなければ、いくら絞り値についてだけ言っても、先へ進むことができません。 前回、レンズの絞り値について、その値がどのような結果をもたらすかについてお話しましたが、被写体の明るさが一定の時、絞り値を変化さ

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黒部源流域へ 大東新道

8月は黒部川の源流域である雲ノ平周辺をガイドしてきました。雲ノ平は「日本最後の秘境」と言われる場所ですが、プロにガイドになるきっかけを私に与えてくれた場所です。その事は稿を改めるとして、ここでは大東新道について話を進めます。 大東新道は、薬師沢小屋から黒部川を少し下り、やがていくつかの沢を横断しながら高天原峠へ向かう登山ルートです。峠の先には高天原山荘と温泉がありあります。この温泉はおそらく日本でも有数の秘境温泉です。大東新道の由来は、高天原にあった鉱山から鉱石を運び出すた

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