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歯医者から出てきた敗者

外出先で、どんな場所であっても扉から屋外に出ると多かれ少なかれ開放感を感じるものだ。
買い物ができるお店だったら「あー買ったぁ」とスッキリするし、病院だったら「薬もらったから何とかなる」と思える。

ただ歯科から出てきた人はなぜか浮かない顔をしていることが多い。
胸に何かが詰まっているような、スッキリしない顔。無表情の、営業回り中のサラリーマンみたいな、まだまだ何かを抱えているような顔。

そういうわたし自身も歯科から出て、「あースッキリしたぁ!」と言えたためしがない。
なぜか歯科の治療はキリがなく、延々と次の予約を入れさせられる。仕組みはレンタルDVDショップと似ていると思う。潔い決意がないとなかなか抜け出せないループ。
それか、絶妙に残った麻酔の余韻の気持ち悪さや、来た時と同じものだと思えない自分の口内の異物感を否応なく感じてしまう。
海から上がった後の体みたいな。居心地悪さと異物感。

歯科から出ると、なぜか自分は敗者だと思ってしまう。打ち負かされた感。
歯医者にというよりも、わたしの口内を蝕むいろいろな細菌たちに。
風邪症状や発熱、腹痛に対しては「しょうがない…流行っているし」とか「まぁ疲れてたしね…」と開き直れるのだが、歯の症状に対しては「わたしの愚かさゆえに…情けない」と自分を責め立ててしまう。

わたしはいつか歯科の磨りガラスのあの扉を、勝者のように飛び出してみたいと思う。
打ち勝ってやったぞ、というスッキリした顔で。

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