マガジンのカバー画像

桜の木の下で出逢った女の話

10
運営しているクリエイター

2023年2月の記事一覧

桜の木の下で出逢った女の話 第1話

桜の木の下で出逢った女の話 第1話

一人暮らしに向けて荷造りをしていた時のこと。

ただの物置と化していた
机の引き出しの奥の方に可愛らしい封筒があった。

何年振りに目にしただろうか。

それは封印するかのように
目の届かないところへと追いやったもので───

忘れたくて…
でも忘れられない大切な思い出の綴じてある封筒だった。

何とも言えないドキドキに見舞われながら
その封を開ける。

そこには
一通の手紙と一枚の写真が同封され

もっとみる
桜の木の下で出逢った女の話 第2話

桜の木の下で出逢った女の話 第2話

夜、メールの着信音が鳴りビクッとなった。

携帯電話なんて当時の俺には使い道などなかったが、
ウチは母子家庭で夜働く母親が
何かあった時のためにと持たせてくれていた。

電話帳に入っていたのは
母親、親戚の叔父と叔母、祖母だけという虚しさ。

そんな俺の寂しい電話帳に
この日新規登録がされたのだ。

それは数時間前の出来事。

『───私と友達になって下さい』

人間不信になって久しい俺にとっては

もっとみる
桜の木の下で出逢った女の話 第3話

桜の木の下で出逢った女の話 第3話

ゴールデンウィーク最終日の
午後3時を過ぎた頃、俺は公園へ向かった。

もちろん抵抗はあったが、
架純が『来てくれるまで待ってる』なんて言いやがるから
取りあえず待ち合わせ時間だけ決めて行くことにした。

しかし桜がピークのこの時期。

人が多い。

俺は人混みってやつが嫌いで、
いつからそうだったのかは分からないが、
やはり学校でハブられるようになってからは
ハッキリと人混みが嫌いと思えるように

もっとみる
桜の木の下で出逢った女の話 第4話

桜の木の下で出逢った女の話 第4話

5月下旬。

クソつまらない修学旅行を終えて最初の土曜日、
校区の外れにある公園で架純に会った。

架純の家はこの公園の近くのようで
あと少しズレていれば違う中学校だった。

ふと思う。

もし架純が違う中学校の子ならもっと楽だったのにって。

後にこの懸念は現実になるのだが
それはまたその時に説明するとして
少し俺の修学旅行について触れとく。

ぼっちの俺はもちろん欠席したかったが
親に心配はか

もっとみる
桜の木の下で出逢った女の話 第5話

桜の木の下で出逢った女の話 第5話

架純と一緒にいるところを
不良グループに見られた翌日。

架純には何かあったら
とにかく俺に一報入れるようにと
念を押してはいたが
特に何の音沙汰もなく放課後を迎えた。

そしてその放課後に事は動く。

いつもは真っ先に帰宅する俺だが
この日は少し学校に留まることに。

架純に『何か変わったことあった?』
とメールし、返事を待ってから帰ろうと思っていた。

掃除も終わり、誰もいなくなった教室の

もっとみる