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作文用紙と女性教師

 

高校の英語のとある授業終わり、突然女性教師が発表した。

先生はね英語がスキだったから、勉強できたけど、みんながみんな英語が好きなわけじゃないと思うの。だから、なんとかして英語のことスキになってもらいたいなぁと思うんだけど、先生わかっちゃったの。たぶんね、英語が苦手なんじゃなくて、もしかしたらみんなは日本語も苦手なのかもしれないなって。ねぇ、作文好きな人いる?

(全員、嫌い、と答える)

でしょ?だからね、日本語で表現できないことを、さらに苦手な英語で表現するのってとっても苦痛だと思うの。だから、日本語で作文書いてもらいまぁすっ!

(えぇえええええええー)

提出期限明後日だよー。提出遅れたら居残りねー。これ原稿用紙ねー。原稿用紙二枚分!はい、一人二枚づつねー。


僕はその当時、特に文章を書くことがスキという訳ではなかった。中学校の頃は、クラスの女子を登場させるエロ小説を書いて、休み時間に男子全員で観賞会が開かれていたけれど、(←女性フォロアー減少案件)僕と文章を繋げるものはそれくらいだった。

だから、作文を書けといわれても、特に書くこともない。その英語教師を登場させてエロ小説を書けといわれれば書けたかもしれないけれど。そんなもの提出できるわけがない。

悩みに悩んだあげく、仕方がないので、自宅近くの駅から海に行く道順を作文に書いた。当時書いたことを思い出しながら書いてみる。


無人駅で降りると、静かな住宅街の方へ歩く。吠える犬や、練習のピアノ。ラジオの音。それらを通り抜けると、海の音がほんの少し聞こえてくる。住宅街を抜けると松林。松葉だらけのちくちくふわふわした地面、薄暗い林を抜ける。すると、二車線の道路に出る。さっき聞こえたのは、海の音じゃなくて、車の音。この道を渡り、さらに向こうの松林へ入る。こっちはさらに薄暗い。でも、よく犬の散歩の人たちが林の小道を歩いていて、お互いに小さく挨拶をする。犬はすんすん言う。松林の小道を抜けた先に、砂の坂がある。砂の坂の向こうに、青い空。ゆっくりとその坂を登る。一歩一歩登って行くと、青空に、横向きの線ができる。空に、色鉛筆の藍色で横に線をまっすぐひいたみたいに、そして空が上下に割れるみたいに。海。坂を登りきると、空と、海しか見えない。風の音、波の音が聞こえる。僕はこうやって、いつもここに来る。

というような内容だったと思う。

その作文を提出。作文はそれきりで恒例行事とはならなかったし、誉められもけなされもせず、作文のことはまったく忘れていた。

そしてそれからひと月ぐらいたったころ、友達と地元のうどん屋で食事をして、会計して出ようとすると、英語の先生が家族で来ていた。住んでいた場所は、まったくこの付近じゃないのに。

あ、先生。

あ、あんこ君、こんにちわー。なにー?遊んでるのー?

あ、はい。そうです。先生、どうしたんですか?お出掛け?

あ、うん、そうだよー、この前作文書いてくれたでしょ、あの景色見たくなって家族連れて来たの。駅から歩くって書いてあったけど、子供連れでも大丈夫?

あ、え、あ、はい。大丈夫ですよ。はい。

そっかそっか、ありがとね、行ってみる。

けっこう分かりにくいかもしれないですけど。

うん、大丈夫。探してみる。


そう言って彼女はにっこり笑った。


エロ小説を書くと、性欲のかたまり少年たちは群がったけれど、特に感謝はされなかった。海への道順の作文を書いたけど、特に誉められはしなかった。

でも、文章を読んで、休日に家族を作文の舞台に連れて行く。

作文でそんな行動を起こしてもらえたことが嬉しかった。

このあと、英語の先生が海を見れたのかどうか、記憶にない。海のことを話したのかどうかも記憶にない。

あれから、文章を書いたという記憶はあまりない。大阪時代に少し書いていたけれど、それからは一切書いていない。

こうやってnoteの方々が読んでくれるので、僕は今日も書けるけど、誰も読んでくれないようなら、絶対に続かなかっただろうなぁ、と思っている。僕と文章のエピソードは、たぶん掘り返せばたくさんあるのだろうけれど、一番に思い付く文章のエピソードは、エロ小説と、この英語教師と海の話。だからたぶん、原点とも言えるような出来事なのかもしれない。うどん屋行きたい。




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