き く





ばあちゃんに負われ
庭の花を見下ろす
幼い頃の私

日焼けした皺だらけの手が
ジョウロで花に水をやる
黄色い大ぶりの菊
つぷつぷりと水を弾く

ばあちゃん
なんでお花は咲くん?

光る水のつぶを見ながら
ばあちゃんに訊く

考えてもせんねえ
花は咲く事しか考えん
カナちゃんが息するんと同じじゃが


休憩時間
カフェにあった西洋菊を見て
岡山県のばあちゃんの事を
思い出した

東京に来て1年
配属先の部署

女だから
若くはないから
才能がないから
スキルがないから
なんだか最近
色々諦めかけていた

花は咲くことしか考えないのなら
私はまるで、咲けない理由を探す花だ

考えてもせんねえ
花は咲く事しか考えん

ばあちゃんの声がきこえる
考えてもせんねえ
うん、そうだね

咲けるだけ咲こう
自分に水をやるのは
大人になれば自分だ


会計を済ませカフェを出る


空を見上げる
にわか雨


あまつぶが光を弾く
少し雨を浴びてみる


ビルの向こうに虹
口元に笑み


私はあの日の花
弥立つあの日の菊









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