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私の成人式、雪。

今日、仕事に行くために駅に向かったら、振袖をきた人が何人かいて、ああ今年もこんな季節なのかと思った。去年もそんなふうに思った気がする。ということは去年はコロナがすごく大変だったけど振袖を着た人を見かけていたということだろう。

新成人の皆様、おめでとうございます。私のような大人にはならないほうがいいです。楽しいけど大変です。あと雪降らなくてよかったね。

今日は私の成人式とそれの準備の話をしようと思います。ちゃんと最後に私の成人式の写真もあります。


振袖決めの戦争

私が二十歳になる頃の新成人の文化として、振袖を着る文化があった(今もある)。その振袖は、一年ぐらい前から準備してレンタルだの購入だのをして調達をした。クリスマスケーキは10月半ばから予約を始める人がいるが、振袖は早い人で一年半前から予約をする。ちなみに私も一年半前に予約をしていた。

私は振袖を着ることに最初興味はなく、どちらかというと成人式で久しぶりに中学の友達と会えることを楽しみにしていた。

大学1年生の5月ごろだったと思う。母親が成人式用の振袖が載ったパンフレットを数冊渡して

「成人式の振袖を選びに行こう」

と持ちかけた。まだ18歳なのにと思いながら、パンフレットをぱらぱらとめくる。どれもあんまり好きではない。だって派手だから。

そんな中で一冊だけ気に入ったのがあった。その和服屋さんのパンフレットは、洋風な柄の振袖にハットを被ってコーディネートしてあったり、なんだか他のものとは違う感じがしたから。

ここがいいと私は伝えて、母親はその和服屋に選ぶ日を予約した。そして6月に和服屋に振袖を選びに行ったのだった。


振袖屋に行くと、母親と同じ歳かそれよりも上くらいの、いかにも着付けできますという感じのおばちゃん店員さんが対応してくれた。

どんな色がいいかしら?帯も選べるのよ。あなたの年代の人はまだ選び始めたばかりだから、選べる種類がかなりあってきっと気にいるものが見つかるわ。そんな感じで店員さんは私に好みを聞いてきたので

「この店で一番柄がないのください。色は赤で」

といったら、母親と店員さんはすごく驚いた顔をして

「どうして?!!?!」

「人生で一度きりなのよ!?!!?!!」

と言ってきた。派手なのが嫌いだからできるだけ地味なのがいいと言うとより問い詰められた。問い詰めるというより責め立てる感じだ。

それから店員さんは柄がたくさんあるものをたくさん用意してきて、これがとても素敵だとか、この柄は縁起がいいだとか、自分の中のありとあらゆる知識と表現を使って"柄のある振袖の良さ"を熱弁してきた。母親もそれに合わせて「ほら可愛い!」「これにしなさい!」とか言う。母親も子供の中で初めての新成人である私を前にし、必死である。

だが私はそれらを見て派手なものがどんどん嫌になってきて、

「どれも好きじゃないので店の中で一番シンプルな赤い振袖出してください」

と言った。もう二十歳になるのだから意見ははっきり言わなくてはならない。まだ18だけど。それに二十歳は人生で一度きりなのだから

結局しょうがなさそうに店員さんが赤い色の面積が比較的大きな振袖を出してきた。小さめの花の絵が散りばめられている。どの振袖もだけど、裾にむかえばむかうほど柄が多くなる傾向があり、この振袖もそんな感じだったので、

「これより地味なのはないんですか、というか無地ってないんですか?」

って聞いたら、そんなものないし、無地なんて新成人が着るもんじゃないんだよと怒られたので、しぶしぶこれにすることにした。


それからレンタルプランの確認になった。

その振袖のレンタルプランには、振袖(と着付けるためのいろんな下地類)・帯・履物・当日の着付けヘアメイクに加えて、前撮りまでついていた。

振袖に付属するいろいろなものも全てセットになってるのでご安心ください〜と店員さんがご丁寧に説明してくれた。しかしそこで気になることが。新成人が首に巻く白いモフモフしたやつをつけたくなかったのだ。

これもセットになっているので大丈夫ですよ!と言う店員さんに、いやこれ要らないんですと言うと、店員さん、

「いやこれは絶対につけないと寒いです!ただでさえ振袖の着付けを全てやっても防寒はゼロなのに、これを外すなんて!!!絶対につけないと寒いです!!!!!」

すかさず母親も

「成人式1月だよ!!!これ以外に寒さ凌げないんだってよ!これは巻いて行きなさい!!!」

と言う。絶対に嫌だこんなダサいものつけたくない!!!と抵抗する私。ダサいと言われて一瞬固まる店員さん。

母「ダサくてもこれないと寒いのよ!!つけなかったらどうするのよ!!!」

店員「ほらこんなのもあるわよセットじゃないから少し高くなるけど」と茶色いモフモフを出してくる店員さん。白いのよりマシだがこれはこれで嫌だ。

私「それも嫌だ!モフモフは絶対につけない!!!たった一日だし寒いほうがずっとまし!!!」

このやりとりが10分くらい続くが、店員さんの「つけてもつけなくてもセット料金変わらないので一緒に入れて配送しますね!!!」の一言で戦争がどうにか終わった。


前撮りの戦争

私の戦争?はこれでは終わらなかった。前撮りだ。

前撮りはスタジオを半日ほど貸し切って、プロのヘアメイクをしてもらい、カメラマンとアシスタントが手際良く写真をめちゃくちゃ撮っていくのだけど、今考えるとあまりの手際の良さと、親の心の揺れ動きかたがやばいので、すげえ商売だなあとしみじみ感じる。

私はちょうど成人式の1年前ぐらい、19歳の1月に撮影をした。家から近所のスタジオに出向き、着付けとヘアメイクをして撮影をする。

ヘアメイクのとき、どんな髪型がいいかざっくりと聞かれた。私は当時髪がセミロングくらいの長さだったのだけど、そこでもできるだけ派手にしたくなかったので

「アップは絶対に嫌で、できるだけシンプルにしてください」

と伝えたら、またもヘアメイクさんと母親が「なんで?!??!」と騒いだ。そんなに時間がたくさんあったわけじゃないのでその場は割とすぐに収まった(ヘアメイクさんが任せてくださいと母親にこっそり伝えたりしたんじゃないかと推測する)。

撮影は、プロのカメラマンとアシスタントが本当にすごかった。

「左手に右手を被せて45度首を傾げて目線はハイここでーす!!!」(本当はもっと具体的だった気がする)

と言ってぬいぐるみをふりふりするアシスタントさんの方に向く瞬間をパシャっと撮られる。シャッターチャンスを逃さないってこういうことだと今は思う。

100枚以上撮ってもらったが、どれも完璧な表情と完璧なポージング。本当に写真館の外に飾られてるサンプル画像がずっと続くのだ。見ているこっちが自分じゃないのではと思うぐらいだし、こんなに完璧に踊らされたところを撮影されていたのかと思うととても恥ずかしくなった。母親はすごく感動している。

振袖のセットには、この100枚以上の中から3枚が綺麗に現像され、"今度のお見合いこの娘はどうだ?に使われるやつ"が出来上がる。


ここから3枚に絞る作業だ。いかにもお見合い写真な、椅子に座った写真と立った全身の写真の二枚はすぐに決まった。あと1枚だ。それ以上選ぶとオプションになるため追加料金がかかる。

少しだけ白いモフモフをつけた写真をとった。カメラマンさんとアシスタントさんの手際のはやさでつけられた(逃れられなかった)白いモフモフ。それを使って黒背景で撮影したものだ。

照明の加減が絶妙に当たっていて、白いモフモフは私の顔の周りで天使の羽のようにふうわりと写っていた。しかも顔はドアップ。目線はズバリ、上目遣いである。

この写真を三枚目に決めたいと母親が言い出した。「気持ち悪いから嫌だ」という言葉が出た。こんなに素直な気持ちを素直に言葉に出したの、後にも先にもこれが最後なのでは?と思う。こんなにぶりっこした写真誰が選ぶんだよと思いながら、この写真のどこがいいの???絶対に嫌だから!!!と叫ぶ。

母親も負けない。だって白いモフモフをつけた娘の姿はこれを最後に一生見られないかもしれないからだ。いいじゃないの一枚ぐらい!あと2枚は普通の写真じゃないの!!!ほらこれ可愛いわよ!!!!!

揉めに揉めた。カメラマンさんもアシスタントさんも何も言えない。ただ「ちょっとこれ見せてください」「いやこっちも」でカメラとモニターを操作することしかできない。次の撮影の人がスタジオに来てメイクを始めたけど、なかなかこれはおさまらなかった。


結局母親が折れた。折れたというか、私がどうにかこれを選ばせたくないともう一枚気に入ったものを無理矢理選んで、母親は結果2枚分課金した

よって私のお見合いに使われるあのいいアルバムみたいなやつには、見開きではなく1枚多くページが用意されていて、そこに上目遣いをした天使な私が写っている。成人した今でも、それを見るのが嫌で一度もそのアルバムを開いたことがない。


成人式当日

成人式は大雪だった。埼玉の都心だが20センチは普通に積もるぐらいの大雪。もともと和服を着慣れない新成人のために、会場であるさいたまスーパーアリーナにはたくさんの車がくる予定だったと思われるが、スーパーアリーナ周りは渋滞がひどかった。結果会場まで車から降りて10分ほど歩く。足元は下駄みたいなやつだし、足袋1枚しか履いてないし、びちょびちょだし、散々だった。

さいたまスーパーアリーナに主役で立てた日でもあった。その頃はまだうたを歌って活動するとか全く考えたことはなかったが、そういえばあの日主役でスーパーアリーナに立っていた。

式が終わると電車が止まっていて、友達と合流して一緒に帰る新成人たちはスーパーアリーナの会場から追い出されて立ち往生していた。しかも屋根あるところは少なく、仕方なく傘をさす。振袖はとても長いので、気を抜くとすぐ引きずる。振袖の先がパリパリに凍っていたの、今でも忘れない。


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白いモフモフの代わりに黒い大きなストールをこの日のために購入。手を出す穴がついている。今も普通に使えるので買ってよかった。


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友達と並ぶと自分の振袖の柄が一目瞭然。まだスマホが流行りだしたばかりだったから画質が悪い。


人生で一度きりの成人式、いろいろと思い出深いことがたくさん。毎年思い出す。




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