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【イチ×ココ#13】緩和ケア病棟での検査のタイミングと、忘れた頃にやってくる”あの病態”

たまに「緩和ケア病棟に入院したら、検査も何もしない」と思っている人がいるのですが、そんなことはありません。

確かに、週に何度も採血をしたり、抗癌剤治療中のように頻繁にCTを撮ったりはしないのですが、理由は大きく2つです。

1)患者の身体的・精神的苦痛になりうる
2)緩和ケア病棟入院料はどれだけ検査を行っても一定

逆を言えば、患者への負担が少なく、費用面で許容範囲内であれば、緩和ケア病棟でも検査は行って構わないということになります。

担当医師の考え方や施設の方針にもよりますが、個人的には、以下のようなタイミングで検査を検討することが多いです。


①治療可能な病態がないか確認したいとき
今まで無かった症状が現れたり、急に悪化したときなどは検査を行おうかと思うタイミングです。
例えば、悪心や食欲不振、倦怠感などが出現・増悪したときは採血を検討します。なぜなら、脱水、電解質異常、貧血など、改善の余地がありうる病態が見つかる可能性があるからです。
また、呼吸困難や咳が出現したときは、胸写や胸部CTを撮ります(エコーもアリです)。たとえば胸水が見つかれば胸腔穿刺、癌性リンパ管症が見つかればステロイドで改善の可能性があります。
そのように、症状が現れたときに治療可能な病態があり得ると考えたら、検査は行ってみても良いのではないかと思います。

最近実際にあった症例ですが、食事がまったく入らずグッタリした状態で転院してきた患者さんがいて、前医でかなりの量のステロイドも使われていたけれど効果がなく、意識も朦朧としていて…という状態で、これは予後も厳しそうだと思われました。
しかし念のため採血を行ってみたところ、補正カルシウム値 16mg/dLという著明な高カルシウム血症を認めたので、急いでゾレドロン酸を投与しました。(※ちなみに前医ではカルシウム値は測定していませんでした)
すると3~4日した頃から食事を摂るようになり、意識レベルも改善しました。
採血でカルシウム値はルーティンで検査しないこともあったりするのですが、担癌患者さんの高カルシウム血症は忘れた頃に現れて、食欲不振や倦怠感、せん妄などの原因となります
ちなみに私は癌患者さんばかり診ていますので、採血するときはカルシウム値は必ずチェックするようにしています。


②治療の効果・副作用を確認したいとき
たとえば浮腫や胸水・腹水が溜まったときに、利尿剤が処方されることがありますが、当然ながら水と一緒に電解質が排泄されて低ナトリウム血症・低カリウム血症などを誘発する可能性があります。
そういった治療による悪影響が起こっていないか確認することは、治療を行った者の責任として必要かと思われます。
けっこう忘れがちなのが、便秘に対して酸化マグネシウムを使っているときの、血清マグネシウム値のフォローです。
酸化マグネシウムは便秘に対してはマイルドに効きますが、副作用もマイルドというわけではありません。漫然と投与し続けていて、気付いたら高マグネシウム血症に…という可能性には注意が必要です。


③予後予測に利用したいとき・病状の悪化を患者や家族に伝えたいとき
緩和ケア領域で用いられるPaPスコアPiPS-Bといった予後予測ツールは、白血球数などの採血データを必要とします。
そのため定期的に採血を行って予後予測をしている施設もあるかもしれませんが、採血データを要さないPalliative Prognostic Index(PPI)PiPS-Aなどの予後予測ツールもありますし、ツールはあくまで参考の一つなので、必須とまでは言えないかと思います。

もう一つ、現在の病状をデータとして可視化することも検査の意義かと思います。
医療者の側は看取りの経験を積むと、検査を行わなくても「ああ、これはそろそろだな」と分かってくるのですが、患者さんやご家族にはピンとこないこともあります。
特に、コロナ禍であまり面会ができないと余計に患者の状態悪化が伝わらず、いざ急変したときに家族がビックリ…ということもありえます。

そういうとき、「この数値がこんなに悪くなっているので…」「この部分がこういう状態なので…」というように、検査データを利用することで、今の病状や今後の予測を伝えやすくなることもあるかと思います
気を付けたいポイントとしては、検査データを伝えるだけで終わらず、「それがどんな意味を持つのか」「だからどうすれば良いのか」まで説明するように心がけることが大事かもしれません。
採血や画像のデータは、情報が伝わりやすい分、それによるインパクトが大きすぎて、ただただショックを与えるだけになってしまったり、患者や家族がその数値ばかり気にするようになってしまったりします。(腫瘍マーカーの値などはその典型で、定期的な腫瘍マーカーの測定を切望される患者さんはけっこうおられます)
できれば、その情報を利用して今後どうすれば良いのか(家族の付き添いを検討した方が良い、遠方の家族に来てもらった方が良い、等)まで話し合えると良いですね。


3つほど緩和ケア病棟で検査を行う意義を挙げましたが、いずれの場合も、当たり前かもしれませんが、患者さんの苦痛にならない範囲で、ということが重要です。
検査データがなくても、ある程度結果の予想がつくなら「○○という病態が予想されますが、それを明らかにするより本人に苦痛を与えないことが重要と考えますので、あえて検査は行いません」と説明する勇気も必要な場面があるかと思います。

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