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【イチ×ココ#11】神経ブロックってよく聞くけど…イメージが沸かない!?

私の住む地域では今年は梅雨入りが早く、そのためか雨の降らない日も多めで、間延びしたような印象の梅雨になっています。
今朝も天気が良かったので、ふと思い立って近くの河川敷をブラブラ散歩してきました。
どうしても毎日パソコンの画面ばかり見てしまいがちなので、目の保養に川や緑や空なんかを眺めることができて良いリフレッシュになりました。

仕事や家事やら色んなことで時間に追われている!という人も多いかと思いますが、週に1時間、無理なら30分でも自分をメンテナンスする時間を確保するのは大事なことかもしれません。


【緩和ケア領域の神経ブロックについて】

さて本題ですが、今回は神経ブロックのお話です。

神経ブロックと言っても実は相当色々な種類があるのですが、今回取り上げたいのは、主に緩和ケアの臨床で行われることのある神経ブロックです。

神経ブロックは手術麻酔の一環として行われることもありますが、その場合は手術中~手術後の強い痛みを取ることが目的なので、①主目的は痛みの知覚の軽減 ②効果持続時間は数時間~数日で十分 という特徴があります。

それに対して緩和ケアにおける神経ブロックは、①主目的はQOLの向上 ②効果持続時間はできるだけ長期間が望ましい という特徴があります。
①に関しては、痛みを軽減させる=QOL向上なんじゃない?と思われるかもしれませんが、例えば痛みが取れても副作用の麻痺が(一時的にでも)出てしまうと、患者さんは強い不安を感じてかえってQOLが下がってしまうこともあるので、緩和ケアにおいては神経ブロックのデメリットに関して、より慎重になる必要があります。

ペインクリニックにおける神経ブロックも上記の①②は同様ですが、患者の全身状態や生命予後による影響が大きいという点が異なります。

やはり神経ブロックというと、針を刺す=侵襲的ということで「最後の手段」というイメージを持たれやすいのですが、特に緩和ケアにおいては、最後の手段だと思って実施のタイミングを待ちすぎると、全身状態が悪くなりすぎて実施できなかったり、亡くなるまでのごく短期間しか効果が得られなかったり…と、あまり良い結果にならないことがあります。

まさにこの実施のタイミングの難しさが、緩和ケア領域で神経ブロックがあまり一般的になっていない理由の一つになっているかと思われますので、ここからは比較的よく行われる神経ブロックについて概説していきたいと思います。
紹介する順番は(個人的に)侵襲性など諸々のハードルが低く実施しやすいと考えられる順番なので、そう思いつつ読み進めてください。


【トリガーポイント注射】

これは神経ブロックに含めるかどうか微妙なのですが、最も手軽にベッドサイドで行える手技なのでご紹介しておこうと思います。
トリガーポイント注射は、特に筋膜性疼痛症候群(MPS)などと呼ばれるような、筋固縮・血流不全による体表面局所の痛みに有効です。
(※MPSについては、PCOPサイトの「非オピオイド」のスライドを参照)

痛がっている肩・背中・腰に、圧痛を伴うコリコリした硬結を触れたら、その場所の皮下1cm程の深さに1%キシロカインを1箇所辺り1~2mLずつ注入するだけ(キシロカインの極量には注意!)。
文字で見るとピンと来にくいと思いますが、一度見るとすぐ出来るようになると思います。深く刺し過ぎないようにだけ気を付ければ、安全性も高いので麻酔科医など専門家でなくても実施可能と思われます。
使うのが局所麻酔薬のキシロカインなので効果は数時間しか続きませんが、場合によっては筋固縮そのものが改善して、もっと長く効果を実感するということもあります。

【不対神経節ブロック・仙骨(硬膜外)ブロック】

これはいずれもお尻に行うブロックですが、不対神経節ブロックは主に会陰部の痛みに効果のあるブロックです。交感神経ブロック(=運動神経をブロックしない)なので、基本的に麻痺をきたさないのが安心感のあるところです。
慣れないうちは透視下で行うと良いと思います。まずはキシロカインで効果を確認し、効果があれば後述のアルコールブロックを行うことも可能です。

仙骨(硬膜外)ブロックは硬膜外ブロックの一種ですが、脊髄や多臓器の穿刺リスクが低いので比較的施行しやすいと思われます。効果のある範囲もやや広く、キシロカインの注入量によって腰~下肢まで効かせることができます。ただ運動神経もブロックされて下肢麻痺が起こりうるので、注意が必要です。清潔野を確保すれば処置室でもベッドサイドでも行えます。

【神経根ブロック・腹腔神経叢(内臓神経)ブロック・上下腹神経叢ブロック

これらは透視下(あるいはCTガイド下)で行う、体幹部のブロックです。
神経根ブロックは特定の神経支配領域に局在する痛み、腹腔神経叢ブロックは上腹部内臓の痛み、上下腹神経叢ブロックは下腹部~骨盤内臓の痛みに効果が期待できるブロックです。

これらは体幹の比較的深い位置にある神経根や神経叢をターゲットにするので、他の臓器や大血管の誤穿刺リスクは稀ながらあります。
なので局所麻酔薬を使うとなると短時間しか効かないため、ちょっと割に合いません。
ということで、神経根ブロックではパルス高周波腹腔神経叢・上下腹神経叢ブロックでは無水エタノールを使って、効果に持続性をもたせる工夫がなされます。

私はよく内臓神経ブロックという腹腔神経叢ブロックの変法を行いますが、効果は数か月、長ければ半年以上続きます。また、腹腔神経叢や上下腹神経叢も交感神経なので、麻痺などの副作用は基本的に起こりません。
意見の分かれるところだとは思いますが、高率に痛みが強くなる膵癌などには、痛みが強くなってきたら早い段階での施行を勧めたいブロックです(私の師匠は「NSAIDsが効かなくなってきたらブロックの適応」と言っていました)。

【持続硬膜外鎮痛・持続脊髄くも膜下鎮痛】

体幹部の手術を行うときによく行われる硬膜外鎮痛(通称:エピ)ですが、同じように体幹部に強い痛みがあるがん患者の症状緩和にも、持続硬膜外鎮痛を行うことがあります。
手技としては清潔野が作れれば処置室やベッドサイドでも可能で、硬膜外腔にカテーテルを留置して、持続的に鎮痛薬(局所麻酔薬やオピオイド)を注入します。
ただし硬膜外鎮痛は、事故抜去や感染のリスクから長期留置は困難です。それらのリスクを低減するため皮下トンネルを作ることもありますが、それでも留置できるのは長くて1カ月程度と思われます。また、使用する薬液が多くなるので、頻繁に詰め替えをしないといけないため手間がかかります。

ということで、長期に留置する可能性がある場合は、持続脊髄くも膜下鎮痛がオススメです。
硬膜外腔のもっと奥、脊髄を取り巻くくも膜下腔にカテーテルを留置することで、少ない量の薬液で十分な鎮痛効果が得られますし、事故抜去や感染のリスクに関しては、CVポートと同じ用量でポートを作ることで低減できます。(なかなか文字だとイメージしづらいだろうと思いますが…^^;)
こちらはポートを作るので、手術室で透視を行いつつ施行します。麻酔は、局所麻酔+鎮静でOKです。

デメリットは、硬膜外鎮痛もそうですが、24時間カテーテルやポンプに繋がれた状態になるということです。注入する薬液の量は少ないので、ポンプも持ち運べる程度の小型のものではあるのですが、それでもQOLの低下は否めません。
そのため、今のところは多少不便でも痛みを取ることが最優先と考えている予後月単位以上の患者が持続脊髄くも膜下鎮痛の適応となっていますが、海外では薬液のリザーバーごと皮下に埋め込む方法がすでに実践されているので、遠くない将来”不便さ”というデメリットは解消されるかもしれません。


【まとめ:神経ブロックは痛み治療の究極の方法か?】

以上、多々ある神経ブロックのうちの一部をご紹介しましたが、重要なのは「神経ブロックを敬遠しすぎてもいけないし、期待しすぎてもいけない」ということだと思います。

神経ブロックをしなくても癌性疼痛の多くは緩和が可能ですし、神経ブロックを行ったからといって必ず痛みが緩和できるわけではありません。

ただ、適切な症例、適切なタイミングで神経ブロックを行えば、痛みも改善するし、そのぶんオピオイド鎮痛薬などの副作用を極力低減できますので、患者さんのQOL向上につながると思われます。

理想としては、難治性疼痛の症例に対して神経ブロックが有効かどうか、適応を検討する時点で、神経ブロックが可能な医師・施設と相談できるようなネットワークが作れると良いのでしょうね。

かく言う私のいる地域もそうはなっていないのが現状ですので、がんばっていかなきゃなぁと、この記事を書きつつ思いました・・・。


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