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【イチ×ココ#4】「時間がない!」という人のための緩和ケアTips

よく「緩和ケアが大事なのは分かってるんだけど、ゆっくり患者さんの話を聴いている時間もないし…」という言葉を耳にすることがあります。
たしかに多忙な医療現場で、患者さんと話をすることに時間をかけられないということはありますよね。
それは私が働いているような緩和ケア病棟でも実は同じで、外来患者さんや入院患者さん、緩和ケアチームとして関わる患者さん達など全員と、ゆっくり話をしている時間は残念ながらありません。
そこで、自分なりに工夫をしている効率化(=なるべく短い時間で「話を聴いてもらった」という満足感を得ること)のコツをいくつか挙げてみようと思います。
全てお話しするのは大変なので、今回は『悪い病状を医師から患者・家族に説明する』というシチュエーションで考えてみましょう。
医師の設定ですが、他の職種の方にも参考になる部分があると思いますので、良ければ読んでみてください。


1)整理された説明を行うコツ

まず何の準備もなく悪い知らせを伝えようとすることの問題点を挙げてみましょう。
・話題があっちこっちにズレて、そのぶん時間がかかるし論点がぼやける
・伝えるべきことを話し忘れる、あるいは十分に伝わらない
・話し終わった後に、何について話したか思い出せず記録するとき困る
こういったところでしょうか。あるある。
これらの問題点は、事前にしっかり病状説明の準備ができていれば避けられると思いますが、毎回そうするには時間がかかってしまいます。

そこで提案したいのは、説明のテンプレートを作って活用してみるという方法です。

例えば電子カルテに病状説明用のテンプレートを作成しておいて、話すべき項目を先にいくつか挙げておけば、話の筋道がズレにくくなるでしょうし、伝え忘れたり、話した内容を後から思い出せない、ということも減ると思われます。
具体的には、私の場合「医学的状況」「本人の意向や気がかり」「家族の意向や気がかり」「質問事項」「今後の方針について」などのテーマを羅列したテンプレートを作成して、話した内容をそこに書き込んでいくという方法をとっています。
もっといい方法があるかもしれないので試行錯誤中ですが、そうするようになってから、以前より説明やその後の記録にかかる時間が短縮されたと感じています。
テンプレートを作成するのに時間はかかりますが、長い目で見れば、結果的に時間の効率化に役立つのではないでしょうか。
ちなみに、シビアな病状をコンパクトに話し合うための「Three-stage protocol」というフレームワークもありますので、そういったものを参考にされても良いかもしれません。

 Lu E, et al. Mayo Clin Proc. 2020 Aug;95(8):1589-1593.

2)話を聴くときのコツ

患者さんや家族の話が「長いな…」と感じても、話を途中で切ることは容易ではありませんし、大事なことを話しているのであれば、なおさら聴くしかありませんよね。
もちろん、できるならじっくり話を聴いてあげてほしいのですが、ただ時間をかければ良いというものでもありませんし、以下のような工夫をしてみるのはどうでしょうか。

①患者さんや家族にも準備してもらう
先程、準備なしに説明しようとする際の問題点を挙げましたが、準備なしで話そうとすると話題があちこちに飛んだり、大事なことを聞けなかったりするのは、患者さんや家族も同じだと思います。
ですから、できれば腰を据えて話すタイミングを前もって約束しておいて、それまでに「何を話したいのか・聴きたいのか」ということを考えてきてもらうか、紙に書いてきてもらうのも一つの方法です。
ちなみに「今日は○○分しかお話しできません」というように制限時間を予め伝えておく方法は、積極的にお勧めはしませんが、どうしても時間がない場合は使っても良いかと思います。ただ、あまり急かすような態度は避け、落ち着いて話せる個室を準備して座って話す、時計をチラチラ見たりせず患者さんや家族の目を見て話すなどの配慮はいつも以上に必要となります。

②聴く⇒話す⇒聴く
病状説明というと、医療者から説明をしなければいけない、という先入観に捉われがちですが、経験上、先に患者さんや家族の話を聴くことから始めた方が上手くいく気がします。
「まずはご自身が今一番気がかりな事について話していこうと思うんですが、いかがですか?」「ご家族の目から御本人を見て、どのように感じていらっしゃいますか?」など、ある程度は話の方向性を指定しつつオープンクエスチョンを行い、まずは患者さんや家族の気がかり・認識を確認する。
それに合わせて説明すべきことを話し、さらに質問や他に気になることがないか聴く。
という「聴く⇒話す⇒聴く」の手順を心掛ければ、自然と患者さんや家族の気がかりが話の中心になるでしょうし、そうした方が「聴いてもらった」という満足感を得やすいのではないかと思います。
時間の短縮になるかと言えば微妙ですが、同じ時間でできるだけ満足度を高めるという意味では、試してみる価値のある方法だとは思います。


3)多職種で協力する

時間に追われる中で説明をしようとすると、なかなか患者さんや家族の理解度を確認しながら話を進めるのは難しいかもしれません。
(それでも「ここまでの説明で何か疑問や分からない点はありませんでしたか?」くらいの声掛けは挟みながら話を進めたほうが良いかと思いますが)

そこで重要になってくるのが、多職種での連携、特に「説明前後の理解・認識の確認」だと思います。
医師には言いにくかったり、咄嗟に口に出せなかったりした疑問や思いも、看護師さんら他の職種のスタッフには言ってくれるという患者さんも多くいらっしゃいます。
なので、なるべく大事な説明の後には、医師以外のスタッフが「今日はどんな話をされましたか?」「大事だなと思ったことや、何か疑問に思ったこと等はありませんか?」と理解・認識の確認を行ってもらい、それを医師にフィードバックすることが重要かと思います。
ただ前提として、医師は「重要な説明をする」ということを前もって看護師らスタッフに伝えておく必要がありますし、できれば説明の際には同席してくれるよう予め頼んでおくと良いと思います。

ただ間違っても、話を聴くことを他職種に丸投げにするようなことは避けてほしいなと思います。
時間がないのはどの職種も同じなので、他のスタッフから情報が欲しければ、自分からも情報共有を進んで行う必要があると思います。
医師であれば、先程述べたようにテンプレートを活用してなるべく短時間で記載できる工夫をするなどして、自分が記録すべき情報はしっかりカルテに残しましょう。
せっかく時間をかけて話し合っても、カルテに残っていなければ、客観的には「話していないのと同じ」ということになってしまいますので。


4)まとめ

ということで色々書いてきましたが、お気付きのように、説明してきたのは明らかな「時短」のテクニックではありません。
ただ、「時間がないからできない」と言ってしまう前に、簡潔かつ整理された話し合いを行うための工夫を行いましょう、という提案をさせてもらいました。そのためには、

・テンプレートを活用する
・患者さんや家族にも話したいことを整理してもらうよう促す
・「聴く⇒話す⇒聴く」で相手の気がかりにフォーカスを当てて話す
・多職種で役割分担・情報共有を行う

という点を工夫してみると良いかもしれません。

かけるべきところに時間をかけられるよう、どうすれば効率的にコミュニケーションを行えるか、私も引き続き試行錯誤を続けたいと思います。

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