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【イチ×ココ#8】熱が出た!進行がん患者さんの発熱、その原因は…?

今のご時世、ちょっと熱が出ると「コロナか!?」と自分も周りもザワザワするので、風邪すら引かないように気を付けないといけない大変な状況ではありますが。
進行がんの患者さん達は、本当によく発熱されます。がん患者に発熱が見られる頻度は約70%といわれ、これはがん患者に痛みがみられる頻度とほぼ同じです。

健常成人が発熱する主な原因は、感染、薬剤熱、膠原病…などとよく言われますが、進行がん患者の場合は、”腫瘍熱”の頻度がグッと増えるのが特徴です。
そのため、進行がん患者に発熱を認めた場合には、基本は大事にしつつ、患者背景に注目して対応をアレンジしなければいけないと思っています。

ということで、今回は進行がん患者の発熱への対応について自分なりにまとめてみようと思います。


STEP-1:発熱の原因をさぐる

当然ながら、腫瘍があるから「腫瘍熱だろう」と決め打ちするのはお勧めできません。
がん患者であっても、発熱の原因として最も多いのは感染症です。
そのため感染症を前提として採血・画像検査・細菌検査は行う必要があると思われますが、どこまで検査を行うかというのが難しいところです。
(ぐったりしているがん患者さんからも、血液培養2セットとるの?とか迷いますよね…)

このあたりの判断に役立つのが、①それまでの病歴・治療歴、②身体所見、③患者の全身状態 だと思います。

①は、初めましてではないがん患者さんの発熱であれば、カルテに過去の病歴や検査所見、治療歴があると思うので、そういった情報からある程度的を絞った検査を行えると思います。
例)腫瘍による胆管狭窄がありステントを入れている
  つい最近、分子標的治療薬を使った       等々…

②は、これも基本ではありますが、どこで感染を起こしているか示唆するような所見がないかを調べます。特に所見がなく、熱だけあるようであれば、尿路感染症や腫瘍熱の疑いがやや高くなります。
例)今まで痛くなかった場所の痛み+発熱がある
  在宅療養中だが、ADLが落ちて寝たきりで褥創ができている  等々…

③は、患者がどれくらい検査に耐えうる状態にあるかということです。進行がん患者であろうと、仮に抗癌剤などの積極的治療を終えた患者であろうと、PSが保たれていれば、ある程度しっかり検査もして良いと個人的には思っています。
しかし、PS 3~4で、浮腫や血管虚脱で採血も難しそうな患者に、内視鏡や血培2セットなど負担の大きな検査を行うべきかどうかは、メリットとデメリットのバランスを考える必要があります。
また患者や家族の意向も関わってくると思いますので、よく話し合う必要がありますね。
診断をつけることが目的なのか、患者の苦痛を緩和することが目的なのか、その違いによっても、検査をどこまで行うのかは少しずつ変わってくると思います。


STEP-2:感染か腫瘍熱か?迷ったときの抗菌薬の使い方

検査を行っても感染源がわからない場合、「やっぱり腫瘍熱?いや、もっと調べたら感染源が分かるかも…」と判断に迷うことがあります。

そんなとき試してみると良い一つの方法は、Time-limited trialです。
これは「期間限定でやってみる」という意味で、断定できないけど感染症かもしれないので3日間ほど抗菌薬を投与してみる、という方法です。

  Quill TE, et al. JAMA 2011; 306: 1483-1484.

何かしら症状の改善をみれば、そのまま1~2週間抗菌薬の投与を継続すれば良いですし、なければスパッと止めます。
抗菌薬は何を使うかというのは悩ましい問題ですが、病院のルールもあると思うので一概には言えませんが、3日間で止めるか、その後de-escaltionをするという前提であれば、ある程度広域な抗菌薬を使ってみても良いかもしれません。
ただ緩和ケア病棟では、一日一回投与で負担が少ない、皮下投与でも効果が期待できる、という特徴からセフトリアキソンを選択することが多いです。

いずれにせよ、効果もないのに漫然と抗菌薬を使い続けるのは、患者さんにとっても苦痛となりますし、耐性菌の出現リスクも気になります。なので、「何を指標に」「いつまで」使うか、出口戦略を持つ必要があると言えるでしょう。


STEP-3:腫瘍熱を疑ったときの対応

感染よりも腫瘍熱を疑うポイントはいくつかあります。
・間欠的な発熱がほぼ毎日、2週間以上にわたって見られる
・発熱以外の身体所見に乏しい
・抗菌薬を投与しても改善しない
・採血で白血球増加よりもCRP増加の方が顕著
・NSAIDsによる解熱が得られやすい
などです。どれも確実な指標とは言えませんが、こういった状況では、原因精査はほどほどにして、発熱による苦痛の緩和にシフトした方が良いでしょう。

腫瘍熱の対症療法の第一選択はNSAIDsです。
特にナプロキセンが推奨されることが多いですが、同じく中時間作用型で消化性潰瘍のリスクが低いセレコキシブなどでも良いだろうと思います。
腫瘍熱は長引くことが多いので、NSAIDsの中でも効果持続時間が長めで、かつ長期投与が比較的しやすいものが望ましいと思われます。

余談ですが、今月新たにジクロフェナクの貼付剤が発売になりました。湿布ではなく、フェンタニルの貼付剤のように、貼れば全身の痛みに効果が期待できるというものです。
今のところ適応が「癌性疼痛」のみで、発熱に関してはデータがないので何とも言えませんが、理屈からいえば腫瘍熱にも使えるのでは…?と思っているので、エビデンスや使用経験の集積が待たれます。

腎不全などがあってNSAIDsが使えない場合は、やはりアセトアミノフェンで代用するしかないかと思われます。
そして、NSAIDsやアセトアミノフェンでも発熱がコントロールできない場合は、ステロイドを検討することになります。

ステロイドは、効果持続時間が長めのベタメタゾンデキサメタゾンを、1日2~4mg程度で使用することが多いです。腫瘍熱には、比較的少なめの量でも効く印象です。
もちろん効果は人にもよるので、抗菌薬同様、Time-limited trialとして3~5日ほど使ってみて熱型が改善しなければ中止を検討する必要があります。

ステロイドの使い方についてさらに学びたい人は、こちらのスライドをご覧ください⇓

それと並行してケアの内容も検討する必要があり、熱が出たらクーリング、汗が出たらこまめに着替えるか、服の中にタオルを仕込んでおいて汗が出たらタオルだけ抜き取る、熱が出る前後で熱がったり寒がったりするので、部屋の温度をこまめに調整する、扇風機を近くに置いておく、軽くて薄めの布団を何枚か用意しておいて温度調整がしやすいようにする…など、工夫をする余地がけっこうあると思います。


ということで、けっこう具体的にがん患者の発熱への対応について語ってきました。
本当はスライドにまとめてサイトにアップしたいのですが、ちょっと本業やら諸々であと1カ月くらいはバタバタしているもので…そのうち公開するつもりなので、しばしお待ちください。

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