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【イチ×ココ#15】緩和ケア病棟ってどんな場所?~後編

前編に続いて、知っているようで知らない「緩和ケア病棟」のアレコレについてお話していきたいと思います。

緩和ケア病棟はどんな場合に利用できるの?

前編で「ケアに特化している」「積極的な症状緩和が行われる」「環境が良い」などの緩和ケア病棟の特徴を説明しましたが、どんなときに緩和ケア病棟に入院することができるのでしょうか。

まず入院のための重要な条件として、がんAIDSである必要があります。昨今では「がん以外の疾患(非がん)への緩和ケア」の重要性が注目されていますが、保険診療上、今はまだ上記2疾患しか緩和ケア病棟への入院が認められていません。さらに言えば、AIDSの患者さんが緩和ケア病棟を利用することは実際かなり稀なので、現実的には緩和ケア病棟を利用するのは”がん”の患者さんだけというのが日本の緩和ケア病棟の現状です。

がんであれば、終末期でなくても緩和ケア病棟は利用可能です。
前編でも述べた通り、手術や抗がん剤治療などを行うために緩和ケア病棟に入院することは原則難しいですが、緩和ケア病棟に入院中でも症状緩和目的の放射線治療は受けることが出来ますし、抗がん剤治療を続けている状態であっても、治療の合間に一時的に入院することは可能です。
さらに、症状を緩和して自宅で過ごせるようにする(=症状コントロール)目的での入院や、介護を担っている家族等が休息をとる(=レスパイトケア)目的での入院も可能で、これらの目的が達成されれば短期間で退院することも可能です。

ただ緩和ケア病棟は病床数に限りがあり、緩和ケア病棟の病床数が足りていない地域もありますので、終末期の患者さんの入院を優先するために、病状が重篤でない方の入院は受け入れることが出来ない、という緩和ケア病棟もあるので、事前によく確認する必要があります。

どんな手順で緩和ケア病棟に入院するの?

がんであったとしても、ある日いきなり緩和ケア病棟のある病院に救急車で向かって「入院させてください!」という事はできません。

緩和ケア病棟に入院するには、まずはがんと診断された病院や診療科、あるいは現在がん治療を行っている病院や診療科の主治医から、緩和ケア病棟に紹介状(診療情報提供書)を書いてもらう必要があります。いつ・何の病気と診断されたのか、今までどのような治療をしてきたのか、という情報がなければ緩和ケア病棟で診療を引き継ぐことはできません。

紹介状のやり取りが出来たら、まずは面談や病棟見学が行われることが多いです。緩和ケア病棟は、一般的な病院のイメージと違って「病気を治す場所」ではありません。そのため、何のために緩和ケア病棟に入院するのかを事前に確認し、行き違いがないようにするための面談が行われるのです。そこで問題がなければ入院の日程調整が行われるか、すぐに入院する必要がなければ外来通院で様子を見ることになります。
ただし、面談や見学を必須としていない緩和ケア病棟もありますし、病状が切迫していて一日でも早く緩和ケア病棟に入院する必要がある場合は、面談を飛ばして直接入院の調整が行われる場合もあります。

ということで、自分や家族ががんで緩和ケア病棟の利用を考えたい場合には、まずは主治医や、担当の看護師・ソーシャルワーカーなどの医療スタッフに相談することが重要です

緩和ケア病棟から退院することはできるの?

緩和ケア病棟というと「看取りの場」というイメージがあるのか、一度入院したら死ぬまで退院できない、と思っている方が結構います。
しかし、先ほど説明したように、症状コントロールやレスパイトケアなどが目的の入院の場合は、目的が達成されれば当然退院できます。
また病状が悪くても、訪問診療や訪問看護など、在宅療養のサポート体制が十分に整えば退院することは可能です。
緩和ケア病棟毎に差はあると思いますが、在宅復帰率が50%を超える緩和ケア病棟もあると聞きます。

一方で、緩和ケア病棟のことを「ゆっくり入院できる場所」と説明されて「ずっと入院していられる」と思っておられる患者さんやご家族もおられます
ただ緩和ケア病棟も”病院”の一部なので、入院が長期化すると診療報酬が減っていきます。なので長期入院が望ましくないのは緩和ケア病棟でも同じだとご理解いただき、医療者の皆さんは説明の際にご注意いただけたらと思います。

緩和ケア病棟とホスピスの違いって何?

これもよく訊かれる質問なのですが、結論から言うと緩和ケア病棟とホスピスはほとんど違いません。簡単に言えば、緩和ケア病棟の原型がホスピスで、少なくとも現在の日本では”緩和ケア病棟”の方が正式な呼び名になっていますが、一部の緩和ケア病棟があえて”ホスピス”と呼ばれています。

少し詳しく解説すると、19世紀のアイルランドでキリスト教の修道女たちが設立した施設がホスピスの原型です。当初は病や貧困で苦しむ人たちをケアするための施設でしたが、シシリー・ソンダースという医師が1967年にイギリスで聖クリストファー・ホスピスを設立し、その当時は見捨てられるように死んでいくしかなかった終末期のがん患者へのケア(ホスピスケア Hospice care)を始めました。
その活動が世界中に広まっていく過程で、ホスピスという言葉が別の言語圏では違う意味に捉えられることがあったようで、代わりに”緩和ケア Palliative Care”という言葉が医療の世界での共通用語として用いられるようになり、ホスピスと呼ばれていた場も緩和ケア病棟と呼ばれるようになりました。

つまり、医療制度上の名称はホスピスも含めて「緩和ケア病棟」なのですが、その中でもホスピスケアの理念・精神を強く残している一部の緩和ケア病棟が、今でもあえて「ホスピス」と呼ばれる、と考えれば良いかと思います。
(ちなみにキリスト教的な背景をもつ緩和ケア病棟が「ホスピス」と呼ばれる一方、仏教的な背景をもつ緩和ケア病棟は「ビハーラ」と呼ばれます。)

そのため、「ホスピス」というと終末期の心のケアやスピリチュアルケアを重視した看取りの場というイメージがあり、「緩和ケア病棟」というと前述のような症状コントロールやレスパイトケア目的の入院にも対応する、症状緩和を重視した”病棟”というイメージがあります。とはいえ一概には言えないので、それぞれの緩和ケア病棟がどのようなスタンスかは、面談などの際に確認した方が良いかと思います。

まとめ

ということで、前後編に分けて緩和ケア病棟の実際について解説していきましたが、緩和ケア病棟についての理解は深まったでしょうか?
思いつく限り、緩和ケア病棟に関するアレコレを書きましたが、まだ他にも緩和ケア病棟に関する疑問・質問があれば、お気軽にコメントください。

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