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【イチ×ココ#14】緩和ケア病棟ってどんなところ?~前編

「緩和ケア病棟」という言葉は、医療関係者でなくても聞いたことくらいはあるかと思いますが、立ち入ったことがある、という人はどれくらいいるでしょうか?
働いている/働いたことのある人はもちろん、ご家族・ご友人のお見舞いのために行ったことがある、という人もいるかもしれませんね。
しかし行ったことがあるという人はおそらく少数派で、医療関係者であっても「知識としては知っているけど、行ったことはない」という人が多いと思います。

がん診療に携わる急性期病院の医療者(特に医師)であれば、患者さんやご家族に緩和ケア病棟について説明をする機会も少なくないと思いますが、案外「実際には行ったことがないから詳しく分からないけど…」と思いながら説明しているということも結構あるのではないかと思います。
そこで今回は、緩和ケア病棟がどんな場所か、どんな特徴があるのかを解説したいと思います。

目次(前編)

  • 緩和ケア病棟とは? どこに何か所あるの?

  • 緩和ケア病棟の特徴は?

  • 一般病棟とどう違うの?

緩和ケア病棟とは? どこに何か所あるの?

緩和ケア病棟はその名の通り、緩和ケアに特化した病棟です。手術や抗がん剤治療を行う場ではありませんが、様々な症状・苦痛を緩和したり、病気を抱える患者さんが快適にすごしたりするために様々な工夫が行われています。

現在、日本国内の緩和ケア病棟の数は460施設(2022年6月時点)にのぼります。「自分の住んでいる地域に緩和ケア病棟はあるんだろうか?」と疑問に思った方は、日本ホスピス緩和ケア協会がホームページで施設一覧を公開していますので、確認してみると良いかと思います。

緩和ケア病棟の特徴は?

病棟を「緩和ケア病棟」として運用するにはいくつもの条件があり、患者さんに十分なケアを行うための人員・設備が揃っている必要があります。

まず看護師の人員はいわゆる「7対1」で、患者7人に対して1人以上の看護師が必要という比較的手厚い人員配置が求められています。
また、緩和ケアに関する研修を受けた医師が1名以上常勤している必要があります。

設備で言えば、患者1人あたりの病室・病棟の床面積が一定以上必要とされており、患者さんが広々としたスペースで過ごせることが条件になっています。そのため、緩和ケア病棟の病室は(大部屋の場合もありますが)基本的に個室であることが多いです。
さらに共用の談話室(ラウンジ)やキッチン、患者家族の控室などの設備も必須とされており、病院らしくないオシャレな雰囲気の緩和ケア病棟もたくさんあります。
また、昨今はコロナ禍の影響で随分制限されてしまいましたが、共用スペースなどを用いて季節ごとのイベントや演奏会、ボランティア活動などが行われることもしばしばあります。

一般病棟とどう違うの?

たとえば急性期病院や大きな病院でがん治療を受けていた患者さんが、主治医から「緩和ケア病棟に転院した方が良い」と言われて「嫌です!このままこの病院で診てください!」と難色を示す…ということが少なからずあります。
その背景には「転院=見捨てられる」「緩和ケア=終末期」といったネガティブなイメージがあるとか、信頼しているし慣れている医療スタッフと離れるのが不安があるなど、様々な理由があると思います。

ですが、理由の一つとして「緩和ケア病棟に移るメリットがよく分からない」というのも大きいのではないかと思うので、特に緩和ケア病棟への転院を勧めることがある医療者の皆さんは、ここからの解説は必読です。

まず一般病棟は手術や抗がん剤治療などの「侵襲的な治療」を行うことが大事な役割の一つですが、そういった侵襲的な治療を安全に行うには、それ相応のマンパワーと労力が必要です。
しかし緩和ケア病棟の場合、基本的にそういった侵襲的治療を行わないので、そのぶん患者さんの身の回りのケアにマンパワーや労力をつぎこむことが出来るのです。

病気による症状や治療の副作用で弱ってしまった患者さんは、トイレに歩いていったり、給水機で水を汲んで飲んだり、洗顔したりお風呂に入ったりといった、日常生活で当たり前にできていたことができなくなります。
元気な人はなかなか想像もできないと思いますが、これは患者さんからすると非常に切実な問題で、そういった部分のケアをしっかり行うと、患者さんから本当に感謝されます。(ついでに患者さんの肌ツヤも明らかに良くなります☆)

ちなみに手術や抗がん剤治療などの侵襲的な治療は行わない、と書きましたが、症状緩和のための医療行為は積極的に検討・実施されるため、何もしないわけではありません。
例えば緩和ケア病棟でも感染症や電解質異常などによく出会いますが、これらは治療することで患者さんの苦痛が軽減することもよくあるため、積極的に対応します。

また、緩和ケア病棟は一般病棟と違って、モニタやアラームの音が少ないこともあって静かで、前述のように広めのスペースが確保されているなど、とても落ち着いた環境です。環境の良さも、体調の悪い患者さんにとっては想像以上に重要だったりします。

前編まとめ

長くなりましたので、前編はこのくらいにしようと思います。
この前編では、主に緩和ケア病棟の概要・特徴について解説しましたが、緩和ケア病棟に出入りしたことがないという方も少しはイメージできたでしょうか?
医療者の方は、患者さんに緩和ケア病棟のことを説明する際には、是非ここに書いてあることを参考にしてもらえたらと思います。
ただ百聞は一見に如かずと言いますから、もし可能であれば、緩和ケア病棟を一度見学に行ってみるのが一番かもしれません。

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