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今年の漢字を3部門ノミネート 「漢字」で2020年を振り返る

 まず、自分の趣味の中に「漢字」があるので、今年の漢字を自分で考えて年度を振り返るというのをやっていました。

 今年の漢字は「密」でしたが、この漢字は自分がノミネートしようとしたものの、最大15文字でそこから漏れてしまった漢字になってしまいました。そのため、私は今年の漢字を「密」とすることには納得の審査だと思いました。

さあ、漢字で今年を振り返ってみようと思います。画像の「ノミネート字」はすべて自筆です。
丸印で囲んだ漢字は日本漢字能力検定協会一般公募選考で10位以内に入った漢字です。

 常用漢字部門では細かいコメントを、漢検漢字部門とCJK統合漢字部門では意味の簡単な解説、文字によってはコメントをつけています。

1.常用漢字部門

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【鬱】(常用漢字部門MVP)ウツ・ウチ さかん、しげる、かおり、ふさぐ、ふさがる、こもる
憂鬱、鬱屈、鬱積、鬱憤、気鬱、鬱悒、鬱病、鬱火病、抑鬱症
 個人的に、ノミネート中からグランプリとして選んだ漢字で漢検にこの字で投票した。コロナウイルスから憂鬱な日々を過ごしてきた、社会や政治などに対する鬱憤や鬱積。心の病気「鬱病」とそれに伴ってきた症状が引き起こす様々な出来事。今年は「コロナ鬱」が出現。「コロナ鬱」をもしすべて漢字表記すると「冠状病毒鬱」だろうか。
 皮肉なことに、常用漢字中でマス目に書くと1番密な漢字です。

【禍】(漢検一般公募選考2位)カ わざわい、まが
戦禍、禍福糾纆
 コロナ禍。災害の意味もあり、禍々しい1年であった。「禍福糾纆」は禍と幸せはよりあわせた縄のように互い違いにやってくるという意味の四字熟語で、来年はきっと福が来ますようにという念も込められているのでノミネート。

【染】(漢検一般公募選考12位)セン・ゼン そまる、そめる、しみる
感染、染毛、除染、汚染
 新型コロナウイルス感染拡大、感染はウイルスのみでなく社会の同調圧力のような状況にもつながっている世相だった。憎しみも感染していくものだ、と感じた。

【断】ダン・タン ことわる、たつ、さだめる
断言、断絶、決断、断捨離、遮断、裁断
 いろいろなものが「断たれる」年であった。閉店ラッシュ、経済が断たれた、防疫の観点から、国際的に交わりを断たなければいけないという主張も増えていた。

【黒】コク くろ、くろい
黒金、暗黒、黒炭、黒人、黒死病、黒川、黒鉄
 黒い噂の流れる社会と政界。国際的には「Black Lives Matter」を表す一文字でもあるかもしれない。「Black Lives Matter」自体は2012年に始まったもので、2013年からハッシュタグがSNSで拡散された。台湾では2013年今年の漢字第2位にこの字が選定されたのちに、2014年の今年の漢字に選定されていたという歴史がある。これらは台湾で「向日葵学生運動」や「食品安全法違反」の歴史が反映されていた。2014年でも世界的にも「黒」だったのかもしれない。

【疫】(漢検一般公募選考10位)エキ・ヤク えやみ
疫病、疫学、防疫、免疫
この漢字は、「台湾の今年の漢字」で1位、「中国が選ぶ国際今年の漢字(中国語点検2020)」でも1位になった漢字。文字通りの意味で疫病と戦ってきた年である。そして、防疫に対する考えが強くなった年であった。

【籠】ロウ・ル かご、こもる
籠城、引き籠もり、籠絡、薬籠
 自粛の影響で「引き籠もらされ」な年。自分の殻に閉じ籠っている状態でいちゃもんをつけるクレームによるSNS炎上など。

【慌】コウ あわてる、あわただしい
恐慌、慌惚
 世界恐慌がウイルスによってもたらされた。新型という未知なる事態に慌ただしい年。冷静な判断ができなくなる。

【迷】メイ まよう、まどう
迷信、迷言、迷惑、迷路
 迷信流布(デマゴーグ)による風評被害、SNSの情報のミスリード、社会の解決策の迷いを味わった。迷惑を理由に注目を浴びせようとして逮捕される人まで出る。

【鬼】(漢検一般公募選考9位)キ おに
疫鬼、鬼面の仏
 病気は古来「鬼」に喩えられていた。鬼は人の心の闇、幽霊、怪しい現象の意味もある。「鬼滅の刃」のヒット。

【伐】バツ・ハツ うつ、きる、ほこる
討伐、伐採、矜伐、殺伐、攻伐、功伐
 菅義偉さんについて、たたき上げで総理大臣になった「伐り」であること、その後に学術会議選定時「伐つ」ことも報じられた。病気や鬼を「討伐」。退治する、きる、誇りの意味から色んな「伐」を経験。

【窮】キュウ・グ きわめる、きわまる
窮地、困窮
 社会の中で色んなことを強いられて窮地に追いやられる、居場所を無くす人々のピックアップ。

【闇】アン やみ、くらい
闇市、闇賭博、闇雲に
 社会の闇。闇は「病み」でも読みが繋がる。闇の中、手探りで解決策へとたどり着けるスキルを要求される。人生は一寸先は闇。

【炎】エン ほのお、ほむら、かぎろい、もえる
肺炎、炎上、炎症
 SNS炎上(放火の場合もある)による被害や命に関わる事件、新型コロナウイルスが炎症を伴うウイルスであること。LiSAさんの「炎」がレコード大賞。

【疎】ソ・ショ うとい、まばら、おろそか、とおす、おろか、うろ、おろ 
 疎遠、疎通、疎略
 「密」とは反対の意味を含む字をノミネートしてしまった。緊急事態宣言後に、社会と疎遠にならないように気をつけようという戒め、人と会えなくても意思の疎通はしていようという願いがある。


ノミネート漏れした漢字(太字は漢検一般公募選考20位以内)

呪、
重、、痛、行

2.漢検漢字部門(対象:漢検準1級以上の漢検配当漢字)

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【齷】(漢検漢字部門準MVP)アク こせつく、こまかい、せまい、せまる
齷齪
 漢検漢字部門準MVP。今年は全体的に気持ちにゆとりがないまま、落ち着かない様子で年が過ぎ去っていった感覚である。

【淪】リン・ロン おちぶれ、ほろぶ、しずむ、ながれる、まじりあう、ほろぶ
淪落
 コロナウイルスで、病気そのものだけでなく社会の闇があぶりだされてその闇も感染していって人の心を落ちぶれさせるようなような年にも思えた。
混淪
 →さざ波、水が渦巻くさま。心の動揺を示す。

【痾】ア やまい、ながわずらい
宿痾
 文字通りだ。宿り病。「障害」の例えでもあるが、「障害者」でない人でも今年は大きくそれを感じたのではなかろうか。

【痞】ヒ つかえ、つかえる
腹がつかえる。今は中国語では「ごろつき」「ならずもの」の意味にも使う。

【瀰】ビ はびこる、みちる、ひろい
瀰漫
 →あらゆるところに広がるさま。

【羸】ルイ やせる、つかれる、よわる、よわい
羸弱
 いろんな難から助ける立場の人までが疲れて弱らせてしまうほどの病毒だった。(羸兵…(戦い続けて)疲れ切ったファイター)

【誹】ヒ そしる
誹謗中傷
 差別(いじめなど)や罵詈雑言が明らかになった。そこから命にかかわる事件が日本・海外問わず起こった。ネットを介する場合も。
誹諧→おどけながら言う悪口、風刺の事。「俳諧」の意味で使われたこともあるが、この文字を使うと滑稽といっても悪いニュアンスが込められていた。政治風刺というものがあったが、この中に中傷を含むものもあったためまさにこの熟語がふさわしい今年のSNSだったのが私の記憶。漢検漢字部門準MVPを選ぶときこちらも選考対象に入っていたが、第3位とした。

【枷】(漢検漢字部門MVP)カ かせ、くびかせ、からさお
漢検漢字部門MVPとして私が選考した。この文字は、ありとあらゆる障害やいちゃもん、刑罰に関する熟語に使われることが多い。舞台では、「自分の演技を効果的にするための俳優」という意味でも使われていた。
 口枷→竈門禰豆子さんが嵌めていたアレのこと、くつわ(轡)ともいう。発言をさせないようにしておく障害物の意味合いもあるし、モノが言えない状態の例えでもある。

【黴】バイ・ビ・ミ・マイ・メ かび、かびる、よごれる
 黴菌。やはりコロナウイルスを感じさせる漢字である。中国語から見ると「倒黴」が「運が悪い」という意味なので今年を表せそうだ。

【跛】ハ かたよる
跛行→物事のバランスが悪いこと。片足が不自由なさま。

【殍】フ・ヒョウ うえじに、かれる
この文字には、餓死することを意味する。

【噎】イツ・エツ むせる、むせぶ、ふさがる
息ができない、噎び泣く。世界中で警察官の取り押さえ方法がまた問題になりました。

【慟】トウ・ドウ なげく
慟哭
 心が動くと書いて慟。つまり、心が非常揺さぶられてひどく悲しいと解釈できてしまう。

【憫】ビン・ミン あわれみ、あわれむ、うれえる
不憫→かわいそうなさま、都合が悪い。同情の心。
もはや、同情するより互いに尊厳・尊重してほしかった。

【魑】チ すだま、もののけ
魑魅魍魎
物の怪、細かく言うと山の化け物を意味する。疫病の例え。


ノミネート漏れした漢字

騙、厭、昏、熄、碍

3.CJK統合漢字部門(上記以外のUnicode漢字)

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【囧】ケイ・キョウ あきらか、まど
「冏」を標準字体とする地域が多いが、この字体は困り顔を表すネットスラングとしても使用されている。台湾では、2008年に第9位になったことがある。

【扃】ケイ・キョウ かんぬき、とじる、しめる、とざす、よこぎ、ひきこもる、ひきこもり
「大漢和辞典」には、この字一文字で「ひきこもる」の字義があると示している。しかし、この字は戸から明かりが出ている様を描いたものなので、未来には希望がみえているだろうという願いを込めて選んだ。

【髒】ソウ・ゾウ ふとる、きまじめ、きたない
「きたない」の意味では、中国語の繁体字圏でよく使われる(簡体字圏では脏の字を用いて「臓」と統合されている)

【憋】ベツ・ヘツ・ヘチ おこる、ふさがる
気が短い、気がふさがる、下心がある。

【㾼】(CJK統合漢字MVP) タイ やまい、えやみ、ふうびょう、かぜのやまい、はやりやまい、あたる
風病、悪性の風邪、伝染症の意味がある。康煕字典によると、脳卒中や風にあたると感染するとされた流行性の病気の意味があると説明されていた。今は使われなくなった漢字だが、数多に眠るUnicodeの漢字を眺めていた時、世相を表す漢字として蘇ったかのように見つかったのでMVPに選考。

【咅】ホウ・フ・トウ・ツ
「ぺっ」という唾を吐くときの音を意味した。唾を吐く。いちゃもんをつける。ことさらに否定する。

【忑】トウ・トク
 心が落ち着かないさま、おじおじする。

【丒】(CJK統合漢字準MVP)チュウ うし
MVPにしたかったが、「異体字」ということで準MVPに選んだ。「丑」の異体字だが、あえてこちらの文字を「CJK統合漢字部門」に選定。字体に「刃」が含まれているため流行ものに沿ったようにも見える。書道の草書体では「紐」など漢字の部品になってもよくこの形で書かれる。
 なお、「丑」は来年の年であるが、中国の簡体字としては「醜」の略字として使われるという事情も考えて「醜態」のような負のニュアンスもあったかな、という年だった。「紐」「鈕」など物事をひねるという意味が含まれる漢字の部品にあるため、プラスのニュアンスとしての「丒」が大きく含まれていた。

【蘞】レン えぐい、つる、びんぼうかずら、やぶがらし、つよい
我が強い、きつい。

【娚】ドウ・ナン しゃべる、のう、めおと、きょうだい、なぶる、
辞書によると「喃」の異体字でも「嫐」の異体字でも使われているとされていた。漢字の形的には今は新しくジェンダー関係の意味が与えられてもいいのではないか、と感じた。

【瘣】カイ・ガイ・ライ やまい、えやみ、ながわずらい、たかい、けわしい、ひさしくなおらないやまい、やまがたかくけわしい
大漢和辞典に字義として超長い訓読みが載せられていたが、本当にその通りの年といえる。

【臽】カン おとしあな、ちいさいおとしあな、おとしあなにおとす、おとしあなにおちる
大漢和辞典に字義として長い訓読みが載せられていた。「焰」「陷(陥)」の部品にもある。

【恧】ジク・ニク・ジョク・ニョク はじる、はずかしめる、はずかしい
「忸怩たる思いで~」のように使う「忸」の文字とニュアンスが近いのだが、漢文とかで特別恥ずかしい意味に使われていた。
 余談だがこの文字の篆書体は見た目がモザイクがかかりそうな図を想起してしまい恥ずかしい思いに…

【⿺瓦雚(U+24BB3)】カン・セン あるきかたがただしくない
大漢和辞典に字義として長い訓読みが乗っていた漢字。康煕字典によると【字彙補】昭穿切,音專。行不正。
と説明があった。漢文の解釈から、物事や手段が誤っていると読み取れた。

【吔】ヤ・タ・セ ああ、おい、やあ、あれ、やい、やれ
感嘆に使う漢字。野次の声。


ノミネート漏れした漢字

歹、哎、豌

さいごに

やはり、今年はいいニュアンスの漢字があまり選ばれませんでした。しかし、これほど暗い1年だったからこそ、来年は明るい兆しを見せるように希望の年になることを願います。

皆様、良いお年を!

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