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京都アニメーション放火大量殺人事件被告死刑判決に思う

判決は妥当であり、でも“妥当にできない”

 主文後回し、という知らせから大体の予想は無期刑以上の系と強く勘付いていたが、やはり判決は死刑判決であった。
 メディアの報道にあった主文の一部の内容を鑑みても、個人の半生を言いがかりにした自分勝手な怨みだけで罪なき表現者36人の大量虐殺を行い、32人の重い怪我人まで出したという、戦後最大の犠牲者と大量殺人として悪名高き事件が日本に刻まれてしまったということが1番大きな理由で、この判決は支持してもしきれないくらいの思いである。
 しかし、この死刑判決はあくまで「死刑判決が現行法に於ける最大の刑罰」であって、本心は死刑じゃ足りないくらいで死後さえ何度も刑罰を課せられるような判決があったら出したかっただろうなという気持ちがあったのだろう、と思い裁判官たちもひじょうにもどかしい思いをしたと感じた。

世界中のアニメファンダムへの影響も

 この事件は、世界中に衝撃を与えた事件でもあった。私の大学時代の主な交流相手の国は中国だったのだが、中国からの留学生にアニメファンが多く、京都アニメーションが創り上げたアニメ作品の原作の中国語版(文化的又は法的な理由で削除修正など加えられた場面もある)を紹介したりもした。
 この事件が起きた時、帰国された中国朋友が見舞いの電信を送っていた事も覚えていたし、中国百度の掲示板も震撼させていたことは脳裏に焼き付いている。
 欧米でも、京アニの関連会社や輸入会社などが見舞いのメールや国際募金運動を行なっていたこともあり #PrayForKyoani というタグが欧文のSNSトレンドになっていた。7.18 という「9.11」に準えた表現もあったため、それほどの衝撃があったのだろうと感じていた。ヴァイオレット・エヴァー・ガーデンの英語版で主演を務めたErika Harlacherさんは Instagramにて千羽鶴の写真をあげていたと同時に被害者遺族へのメンタルヘルスのケアについての心配の念を綴っていた。

 犯行動機に関してもからの反応は、個人的な不幸の理由で制作者やファンらを裏切って、大量虐殺という形で残虐非道なテロリズムを起こしたとも思われていて、何度死刑になっても足りない、死してなお罪が余っているので来世でも償えというかなり過激な反応をされるのも無理はない。
 そもそも、アニメファンダムの「ファンダム」は「ファンの王国」だからファンたちの集まりやそれを形成する文化を「国」に準えると、国に対して凶器や兵器などで脅して人を殺すという「内乱」をという最大の裏切り行為をされたと考えられるであろう。

中国人との国際交流の話題でふと脳裏に浮かんだ「秦檜」という人物

 中国との交流で、中国の研修生や留学生にアニメファンが多かったことから脳裏に浮かんだのが、杭州の留学生の話だった。
 杭州出身の留学生から教わったのは、10世紀の中国にいた秦檜という人物は酷い人物で、中国史に残る「国賊(漢奸)」だとして名前が知られている、私の故郷杭州の名所にはこの人物の像に死後も「象への投石」などで死後の処刑として罪を咎めるようなならわしがあったということを教わった話である。どんなに酷い罪を犯したのだろう、ということが気になって本を読んだりして調べてみたら、いきさつがなんとも京アニの事件に似ているところもありなんともいえない気持ちになってしまった。
 宋の物語には、秦檜は幼少時代に国に真摯に支えていた真面目な人物だったが結局人が離れていって、自分で天下を取り乱して多くの人を弾圧しては殺していく恐怖政治のならず者になったという節があったからだ。
 結局秦檜は、自分の平和政策を皮切りにしているはずなのに、罪なき人々をたくさん武力と妄想で処刑したり自分が謀反されていると因縁を抱きつつ無実の人間を沢山殺していったし、言論も表現も規制した上、宋の時代の対立勢力にゴマをすって宋の国家を乱していったのだから、結局秦檜は死んだ後も「国も国民も裏切ったとんでもないやつだ」としてあの世へ行っても残った刑罰は処刑してやるから、というような中国史上最大の悪名を残してしまい、中国で秦檜は死んでも罪が消えない、死後に永遠に処刑されている状態になっているのだと感じるそうだ。

このような経緯があった中国史に準えるかの如し、私も含めてアニメファンダムにいるような人たちがこのような凄惨な事件を目の当たりにしたのだから、被告が「漢奸」ならぬ「ファン奸」のような世界中のアニメファンダムを裏切った大きな罪を抱えているようにすら感じる。
「死有余辜」…死んでも償うべき罪が余っている。死刑以上に重い罪であることのたとえ
 死刑が廃止されても存続されても償いきれないような凶悪で残虐な犯罪の裁き方と、死生観との軋轢。
たとえ死刑という刑罰があっても、このような判決が出た後でも、被害者遺族たちの心は癒えるのだろうか、アニメファンダムたちの心は癒えるのだろうか… すごく不安である。
やはり、罪を犯した人を恨むことを覚えず、人が犯した罪を恨めというしかないのだろう。

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