ポジティブ行動支援:応用行動分析と同じ?違う?
はじめに
行動のマネジメントや支援に関心がある方々の中で、ポジティブ行動支援(PBS)と応用行動分析(ABA)の違いについて疑問を抱いたことはありませんか?今回は、PBSとABAのそれぞれの特徴を取り上げ、共通点と違いを整理しましょう。
PBSの特徴
PBSは、重度障害のある人々の問題行動に対して、体罰などの「被嫌悪的」な方法をとらないでかかわる方法とは何か、という研究・実践を基礎としています。この前提には、障害のある人々を世の中から排除することが「当たり前」だった時代の反省があります。そのため、当初は障害のある方一人一人への対応から検討が行われていました。
その後もPBSは、障害の有無にかかわらず行動面での困難さやリスクのある人々に対する研究・実践にまで広がりをみせています。学校でも、特別支援学校や特別支援学級での実践や研究はもちろん、通常の学級全体(class-wide)のマネジメント方法としてPBSが用いられたり、学校規模(school-wide)での組織的な対応に応用されたりしています。
ABAの特徴
ABAは、PBSの実践を支える基礎理論です。行動の原理に基づいて何が行動に変化をもたらすのかを明らかにしようとする学問で、心理学の一分野にあたります。ただし、ABAが「心の内側」に何があるかを見つけようとすることはありません。それよりも、目に見える「行動」に注目する、という独自の視点があります。
たとえば、学校の先生が、宿題をやってこない子どもに「なぜ宿題をやらないのか?」と考えるとき、まず「やる気がないからではないか?」と想像するかもしれません。しかし、「やる気がない理由は何か?」とさらに深く考えると、「宿題をやらないからやる気がないのだ」といったふうに、結局また最初の問題に戻ってしまうことがあります。つまり、「やる気がないから宿題をやらない」という考えと「宿題をやらないからやる気がない」という考えは、原因と結果を入れ替えただけで本質的には何の解決策も導いてくれないのです。
しかし、ABAでは、「心の内側」に何があるかを見つけようとすることはありません。行動を環境との相互作用の結果として捉えます。たとえば、宿題をやらない子どもがいれば、その理由を子どもが宿題に取り組む際に直面する環境や条件に求めます。宿題が難しすぎるのか、声をかけてくれる人がいないのか、もしくは取り組む時間が足りないのかといった具体的な要因を探ります。
こうした視点は、ABAを実践的かつ有効な方法にしています。なぜなら、環境の調整が行動の改善策になる、ということに気づかせてくれるからです。だから、障害のある方の行動問題への対応に関しても、障害のことを悪く考えることはありません。行動問題の原因を障害だとみなさず、本人が躓きやすい環境に原因を見出すことで、対応に役立つ知見を蓄積してきました。今や、ABAはその理論的な一貫性とエビデンスに基づくアプローチにより、障害の有無や場面にかかわらず、幅広い分野で応用されています。
PBSとABAの共通点と違い
ABAがPBSの基礎理論である、ということは、出発点が共通ということです。どちらも基礎とする理論は行動の原理であり、行動の変容に関する科学的なアプローチを重視しています。
一方で、ABAが行動理論に基づく「学問」であるのに対し、PBSはABAを基礎としながらも、様々な学問領域の研究方法や実践方法も含んで発展しています。いわゆる、学際的なアプローチを含んで発展している点は、ABAとPBSの両者を区別する視点となるかもしれません。PBSは、教育、心理学、社会学など、さまざまな学問領域の知見を統合しながら、包括的な支援を目指しています。
まとめ
PBSが今後さらに普及していくためには、学際的なアプローチは一層大切になるでしょう。しかし、そうしたアプローチをとることになったとしても、基礎理論にABAがあることは変わりありません。だから、ABAに基づかないPBSが行われることがあれば、それはもはやPBSとは言わないでしょう。PBSの研究や実践を適切に扱うためには、ABAの理解を深めることが大切です。子どもを取り囲む環境の充実と、子どもたちの豊かな育ちのために、これからもPBSやABAのお話を分かりやすく伝えていきたいと思います。