見出し画像

ユーロポールが推進するデータ保護専門家のコミュニティネットワーク

※このインタビューは2023年10月16日に収録されました

警察組織内でもデータ保護の重要性が年々高まりつつあります。

今回は弁護士として活動し、現在は欧州刑事警察機構でデータ保護責任者を務めるダニエルさんに、欧州の警察組織のデータ保護に関する取り組みについてお伺いしました。

ユーロポールとは一体どんな組織か?

Daniel: 宏平さん。有難うございます。私は欧州刑事警察機構で働いているので、ここからは欧州刑事警察機構の活動について紹介したいと思います。

欧州刑事警察機構は欧州の法執行機関です。欧州刑事警察機構は欧州の公共サービスの一つという位置付けになります。私たちは執行機関として、欧州各国と連携して組織犯罪やサイバー犯罪、テロを未然に防ぐための活動を行っています。

1999年に欧州刑事警察機構は欧州代表者会議によって法的な枠組みが整理されました。当時から欧州代表者会議では独自のデータ取得のフレームワークを採用することを決定していました。

欧州刑事警察機構は欧州各国の執行機関に対する情報のハブとして機能しています。私たちの組織では1400人のスタッフが働き、オランダのハーグを拠点に活動しています。

欧州刑事警察機構では250の連携組織が存在し、各国の警察組織と連携しています。ハーグでは関係機関との連携を進めています。欧州域内の連携組織だけでなく、欧州域外の第三者組織や国際機関とも連携しています。

例えば日本の連携機関から欧州刑事警察機構へスタッフが働きに来ていて、第三国の連携機関とも活動しています。私たちは常に連携しながら業務にあたっているのです。

欧州刑事警察機構は複数の機関と連携する方法を採用しています。これは警察関連の組織と連携するだけでなく、例えばイタリアの執行機関とも協力して物事を進めています。私たちはイタリアの国家警察(Polizia di Stato)だけと連携するのではなく、イタリアの財務警察(Guardia di Finanza)とも欧州刑事警察機構の本部で連絡を取り連携しています。

欧州刑事警察機構内で連携すること以外に、各国のメンバー間で協力することが優位に働く場合もあります。各国で連携することで素早く情報交換し、複数の国で連携して調査にあたることもできるからです。

勿論、欧州刑事警察機構本部内で連携を進めることもできます。本部で対面のやり取りができない場合は、オンライン通信を利用してコミュニケーションを取ることもできます。もし必要であれば欧州刑事警察機構 4600+から世界中に連絡することができます。

欧州刑事警察機構では24時間稼働しているオペレーションセンターがあり、9時-17時の仕事に限らず、世界中で起きている犯罪関連のプロジェクト分析にあたっています。

犯罪分析については、160人以上の分析官がハーグで働いています。この分析システムを欧州情報システムと呼び、日々運営にあたっています。

欧州域内での警察記録のシステムが必要な場合は、番号一つで欧州刑事警察機構が情報システムで記録している150万以上の対象にアクセスすることができます。

このシステムは私たちが保有しているシステムの中でも最大級のものになります。私たちはこのシステムに沿って、独自のデータ保護フレームワークを設計しています。この独自のフレームワークは一般データ保護規則(GDPR)の考え方を強制して設計されたものではありません。

ただ、欧州刑事警察機構で採用する独自のフレームワークはより優れたものを採用しており、欧州各国の警察組織にも同様の基準を適用しています。私たちのフレームワークはGDPRの次に採用された指令をもとにしており、欧州刑事警察機構は独自の役割を持った機関であるため独自のフレームワークを採用して運用しています。

ユーロポールが導入する大規模な情報ネットワーク

私たちは情報のハブとして様々なセンシティブ情報を保有しているため、SIENAと呼ばれる情報のハイウェイと呼ばれるシステムを導入しています。

私たちが採用しているシステムにはデータの安全性を保護するための機能が統合されており、安全性を担保するためには独自の仕様が必要になります。このシステムは1999年の欧州代表者会議以降から今日まで運用を続けています。 運用にあたっては欧州刑事警察機構の制度で規定されており、規定内容は昨年の6月に修正がありました。

このインタビューを視聴されている方の多くは欧州刑事警察機構についてあまり聞いたことがないかと思います。もしかするとフィクション作品を通してご存知の方もいらっしゃるかもしれません。

例えば「オーシャンズ11」やNetflixで視聴できる「チェストナッツマン」のような映画を通してユーロポール(欧州刑事警察機構)を知った方は、欧州刑事警察機構が武器を使ったり、容疑者を逮捕したりできると思われている方もいるかもしれません。

    (動画:The Chestnut Man | Official Trailer | Netflix)

欧州刑事警察機構は制度上権力を行使することはできないようになっています。私たちの役割は国を越えた情報の交換と分析業務にあたることです。

現行制度の下でもできることはあると思いますが、私たちが担っている役割としては各国の警察組織間での情報共有が主になります。2010年以降、欧州刑事警察機構は欧州の政府組織として活動しています。体制変更にともなって制度も変わってきています。

2010年の制度変更に合わせて、データ保護責任者を設置することにもなりました。そのタイミングで私がデータ保護責任者に就任することになったのです。

私の主な役割は欧州警察組織のデータ保護責任者として欧州刑事警察機構内で異なるデータ処理が行われる際に安全性評価の意見出しや、データ保護コンプライアンスに関わるアドバイスや意思決定を行うことです。

        (動画:Data Protection Day 2023)

それに加えて、警察データに関する安全性を確保する役割を担いつつ、働いているスタッフのデータに関する処理についても関わっています。こういった業務を実現するために、内部での周知活動を実施したり、研修やデータ管理者へのコンサルティングを行っています。それ以外には、欧州刑事警察機構とデータ保護監督機関との調整も実施しています。

Kohei: 警察組織のネットワークの中でとても重要な役割を担われているんですね。デジタル社会において、犯罪調査はとても重要になってきていると思います。警察組織の中でもデータ保護を実現することが基本的な権利を尊重する上で優先される活動になりつつあると思います。

次の質問は警察組織のこれまでの動きについてお伺いできればと思います。ダニエルさんのプロフィールを紹介した際に欧州刑事警察機構データ保護専門家ネットワーク (EDEN)について簡単にお伝えしました。EDENの活動についてもう少し詳しく教えて頂いてもよろしいでしょうか?

もしネットワークを上手くまとめてきた取り組みもあれば教えて頂けると幸いです。

ユーロポールが推進するデータ保護専門家のコミュニティネットワーク

Daniel: 宏平さん。有難うございます。欧州刑事警察機構ではトップマネジメントからも支援を受けて、欧州刑事警察機構データ保護専門家ネットワーク(EDEN)を運営しています。

この取り組みは2016年から運用していて、欧州刑事警察機構のデータ保護責任者が中心となって活動しています。このネットワークを通して、データ保護と法執行についての理解を深めて公共空間や政治的な議論をネットワーク内で実施しています。2016年以前に私と同僚が中心になってパブリックなイベントを開催しています。

    (動画:Europol Data Protection Experts Network - EDEN)

立ち上げ当初に参加してくださった法執行機関の方々は非常に少なかったのですが、ネットワークの場で議論を行っていくことによって、より透明性のある議論を広く実施することができるようになりました。

当時はなぜ独立したデータ保護責任者を任命しないのかを議論することに決めたのですが、学術的な専門家や執行機関等が産業界のデータ保護専門家と繋がることを目指していました。

私たちはフォーラムに人を呼び込むのではなく、フォーラムという場を専門家の人たちへ提供し、フォーラム内で新しい意思決定を行ってもらうように働きかけることにしました。

2016年に始まった時は非常に小さな場からスタートしたことを覚えていて、当時は小さなカンファレンスルームで実施しました。初めてのカンファレンスはコペンハーゲンで実施しました。

始めた当初は120人ほど参加してくださいました。そんなネットワークも今では800近くのデータ保護の専門家会員が参加するネットワークへと成長しています。2週間前にはマドリッドで第13回目のカンファレンスを開催し、各国の執行機関やスペインの欧州代表にもお越しいただきました。

(動画:The conference of the EUROPOL Data Protection Experts Network (EDEN))

※前回のカンファレンスでご登壇頂いたネットワークメンバーでもある中央大学の宮下紘教授には、欧州刑事警察機構として感謝申し上げます。

このカンファレンスのために250人もの参加者がスペインに集まりました。私たちが協力している欧州法学アカデミーはカンファレンスのプログラムをサイト上で公開しているので、内容を見ていただくことができます。

そこで法の執行やデータ保護に関してのプログラムを確認いただくことができます。このプログラムには私の同僚や素晴らしい専門を持った方々が参加し議論を繰り広げています。

私たちが目指していることは参加者の方の取り組みや法の執行機関がデータ保護コンプライアンス対策で実施してきたことを共有することです。

EDENの主体となっているのは警察ネットワークで活動している人たちで、各国の国家警察の人たちでもあります。各国の警察とは欧州域内の警察組織とシェンゲン協定加盟国を含みます。

年に3回は運営のために顔合わせのミーティングを行っています。専門家が集まり運用に関する打ち合わせを通じて、偽の商品対策に関する議論を実施しています。

欧州各国のデータ保護責任者は運用に関する打ち合わせを定期的に実施する必要があり、国ごとの安全性に関するレベルと執行機関におけるデータ保護コンプライアンス対策の見直しが必要になるからです。

私はこれまで運営してきた会合の場が必要であると誇りを持っています。私たちはデータ管理者の立場だけでなく、監督機関とも連携しながら各警察組織のデータ保護責任者とも連携することが求められるのです。

このような会合の場はまず第一に重要であること。そして第二に毎年開催しているカンファレンスは社会の中で活躍する様々な方に参加いただいて、継続して連携する関係性を作っていくために重要な役割を担っているということです。

視聴者の皆様にもぜひコミュニティに参加してほしいと思います。もしネットワークへ参加することに関心がある場合はメールでご連絡ください。(dpo@europol.europe.eu) 私たちは招待制のコミュニティを運営しています。これからの発展に向けて、ネットワークを活用してどんなことができるか一緒に話し合っていきたいと思います。

Kohei: 素晴らしい取り組みですね。データ保護を実現するために専門性を持った人たちが協力することが必要です。警察組織だけでなく、社会全体で取り組みを推進していくことが必要です。

ダニエルさんを始めとしたメンバーの尽力が、より素晴らしいネットワーク構築につながっていると思います。次のトピックに移りたいと思います。欧州刑事警察機構内でデータ保護責任者がデータ保護監督当局のような欧州域内の異なる政府組織とどのように関係作りを行なっているかお伺いしたいと思います。

欧州データ保護監察機関とは警察組織の中で個人の権利を保護しつつ活動するための連携を行なっていると聞いています。欧州刑事警察機構と欧州データ保護監察機関がどのように連携しているのか教えて頂けますか?

〈最後までご覧いただき、ありがとうございました。続きの後編は、次回お届けします。〉

データプライバシーに関するトレンドや今後の動きが気になる方は、Facebookで気軽にメッセージ頂ければお答えさせて頂きます!
プライバシーについて語るコミュニティを運営しています。
ご興味ある方はぜひご参加ください。

Interviewer, Translation and Edit 栗原宏平
Headline Image template author  山下夏姫

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?