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恭庵書房のオススメ書籍 2021/11


角田 光代 『なんでわざわざ中年体育』

なんだこの酒飲みランナーは(笑)。とても共感が持てる。僕もランナー歴11年。やらない人からすると疑問符がたくさん提示され、たまに誤解した人から「すごいですよね」と言われたりもする。

記録を狙っているわけではないし、疲れたらすぐ歩く(または疲れない程度に走る)。行きたいところに行き、見たいものをみようとしていると、知らないことをたくさん発見できてラッキーと思う。人はそれを「行動力」という。

そんなことじゃないよ、という勘違いのカラクリが、本書で暴かれる。まぁ、崇高な理由で走っているわけではないが、走っていないよりはずっと健康な人生を送れているだろうとは思う。

メドックマラソンのことが書かれていると知って手に取った本。文中にしょっちゅう出てくるW青年は、「あの人かな?」と思ったらやはり。シャルソンの記事を書いてくれたことのある方だった。

とりあえず走り出してみる、または、この本を読んでみることをお勧めします。


加藤 ジャンプ (原著), 土山 しげる (イラスト)『今夜はコの字で』

「コの字」カウンターについて、その入りにくさから魅力まで、漫画で分かりやすい。映像化もされているのか。こういう飲み屋の魅力が広く伝わってほしい。

松陰神社の最高の「コの字」カウンターが、建物取り壊しにより鋸南に来ることになった。そのまま使用するわけではないけど、いい形でカルチャーを受け継ぎたい。

ジャンプさんには以前取材でお会いしたことがあり、この機会を利用して町田の初孫を案内していただいた。


キャロライン・クリアド=ペレス『存在しない女たち: 男性優位の世界にひそむ見せかけのファクトを暴く』

世の中の見方に新しい視点をくれる本。女性差別、男性基準で世の中ができていることに関するファクトの積み重ね。分かりやすい基準は一面の便利さを呼ぶが、そこに当てはまらない人に甚大な被害を及ぼすことがある。「安全基準を守っているから大丈夫」というものが多くの場合詭弁であることも、よくわかる。膨大な文章量だけど、読みやすくオススメ。


前田 耕作・山内 和也(編著)『アフガニスタンを知るための70章』

アフガニスタンにはコタツに入り緑茶を好んで飲む人がいる。荒涼とした風景、戦争とテロが続く国、そんなイメージだけが他人事として心に浮かぶ人がほとんどだろうが、本書はそれだけでない魅力的なアフガニスタンをさまざまな角度から教えてくれる。

在日アフガニスタン人の4割が千葉県に住んでいるなんてことは全く知らなかったし、歴史的な関わりもさまざま。50人近いアフガニスタンに関わってきた方々が著した愛の溢れる一冊。「不思議な魅力の遊牧民の国」にいつか是非訪れたいと思った。

1996年のタリバンのカブール入城前月、僕はパキスタンのパンジャブ大学の寮に1週間ほど泊まった。その時、各国の学生たちと卓球をしまくっており、アフガニスタンの学生から一緒にカブールへ行こうよと言われたことがある。「ビザがないし・・・」というとと「一緒に行けばビザなんていらないよ」と言われた。そんなものなのかなと信じかけた学生時代。その時は、クエッタ経由でイランに行くことにしたが、その後アフガニスタンを訪ねる機会がないまま、25年が経ってしまった・・・。


澤田 晃宏『東京を捨てる-コロナ移住のリアル』

新しい事例満載の「いま読むべき本」。雑誌のような感じだが、移住や2拠点居住に興味ある人はもちろん、動いている人、考えている人、悩んでいる人の姿を見ておく価値は大きい。5年前・10年前と同じ行動・同じ価値観でいるとしたら、ちょっとやばいかもしれない。本書で多様な姿を確認しよう。


『コロナ後の世界を語る 現代の知性たちの視線』

メディアの速報に踊らされると思考回路を失うが、指揮者の考え抜かれた文章から世界を見つめると、全く違う世界が見える。(その文章自体も朝日新聞に掲載されたものではあるが)

「ウイルスが伝えようとしていることはシンプルである。医療は結局、自ら助かる者を助けているということ、今は助かった者でもいつか必ず死ぬということ」
「明日にでも、ワクチンや特効薬が開発され、ウイルスに打ち克ち、祝祭的な開放感に包まれるような未来がくるかといえば、そんなわけがないことは明らかである。長い時間を持って、リスクを受容しつつウイルスとの動的平衡を目指すしかない」
「ウイルスを、 AIやデータサイエンスで、つまりもっとも端的なロゴスによって、アンダー・コントロールに置こうとする全ての試みに反対する。それは自身の動的な生命を、つまりもっとも端的なビシュスを、決定的に損なってしまうことにつながる」(pp.33-34 福岡伸一)

「コロナの前は安定してた? 居心地はよかった? ふだんから感じてる不安が、コロナ問題に移行しているだけじゃないかな」(p.48 五味太郎)

「ワクチンと薬だけでは、パンデミックを耐えられない。言葉がなければ、激流の中で自分を保てない。言葉と思考が勁ければ、視界が定まり、周囲を見わたせる。どこが安全か、どこで人が助けを求めているか。流れとは歴史である。流れを読めば、救命ボートも出せる。歴史から目を逸らし、希望的観測に曇らされた言葉は、激流の渦にあっという間に消えていく」(p.91 藤原辰史)


佐々木 亨『地図アプリで始める 山の地図読み』

何気なく使っている地図アプリと地形図の勉強に。学校で習ったときの知識ぐらいしかないけど、登山アプリでその知識が勝手に補強されたみたい。アプリの入門書として使うと読み解くのが難しい気がする(何気なく使って身についた者としては)。


サラ マレー『死者を弔うということ: 世界の各地に葬送のかたちを訪ねる』

死後の人間には生き続けるという奇妙な性質がある。死亡診断書に署名がなされた後であっても、私たちは懸命に死者が抱く考えや感覚、感情を推し量ろうとする。人びとは歴史を通じて死体に対してありとあらゆる特別な力を、ときに政治的な力や、治癒力、あるいは霊的な力を認めてきた。死者たちは、破壊することも癒すことも、命をもたらすことも奪うことも、幸も不幸も、怨念を晴らすことも、富と幸福をもたらすこともある。彼らは想定どおりにはならない----沈黙して横たわることを拒否する。(pp.348-9)


村上 慧『家をせおって歩く かんぜん版』

こういう本を小学生がたまたま手に取る確率をあげていきたいなぁ。夕書房の『家をせおって歩いた』の絵本版。家を背負って歩いているシーンを写真で見られてよかった・・・。


ホン ソンス (著), ス シンジ (イラスト)『ヘイトをとめるレッスン 』

ヘイトについて多数の事例や国際比較などとともに、1つひとつ学ぶことのできる良著。線引きや対抗策の是非が、とても難しいとされるが、この本で学べば自分なりの基準をつくることができそうだ。結構なボリュームだが、わかりやすいコラムが挿入されているので、そこからでも。


パクチー(P)コワーキング(C)ランニング(R)を愛する、PCR+ な旅人です。 鋸南(千葉県安房郡)と東京(主に世田谷と有楽町)を行き来しています。