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無店舗展開とコワーキングの可能性

長野県の佐久市にあるコワーキング「iitoco!!」が2020年3月末で無店舗展開に入るにあたって行われたiitoco!!ありがとうトークライブの内容です。3月22日開催。

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大越要

17:39になりましたので、これから39分間のトークライブを始めます。
進行はかなめんこと大越要が勤めます。
まずは自己紹介からお願いします。


佐谷恭

「佐久シャルソン」と「肩書きを自分で創るワークショップ」などでiitoco!!に来るのは3度目の佐谷恭と申します。東京最初のコワーキングである「PAX Coworking」を10年前に始めて、2年前にそれを閉じました。その後1年半ほどふらふらと各地をほっつき歩いた結果、千葉県・房総半島にある鋸南町と縁ができました。そこにある巨大な物件を突然借りて「鋸南エアルポルト」というコワーキングとアーティストインレジデンスなどの複合施設の運営を始め、半年が経ったところです。今日は、iitoco!!の共同創業者である江原さんと大越さんの門出ということで、お祝いをしに来ました。

佐久に絡めてなにかしなきゃと思い、自宅から13.9km離れたバス停である下落合駅まで走り、そこからバスに乗りました。今日のイベントに来ることを決めた時に佐久南インターからiitoco!!までが3.9kmであることを調べておきました。バスに乗ってからGoogleマップで確認の検索をしたら3.6kmとなっていて、僕の計画は頓挫しました。ネタが無くなって困ったなぁと思いましたが、別の計画を思いついたので、バスを降りてiitoco!!とは反対の方向に走り始めました。

つい先日玉村豊男さんの『村の酒屋を復活させる』という本を読み、東御市のワイナリー巡りをしたいと思っていました。佐久からならそれほど遠くないので、お祝いの紅白ワインを買って今日のパーティに差し入れようと思ったのです。小諸市を経由して、東御のワイナリーをいくつかまわり、ワインを飲んで勝手メドックマラソン日本版をした後、しなの鉄道の田中駅まで走りました。その距離、31.39km。サイサク(幸先)のいいスタートを祝えたんじゃないでしょうか。

なぜそんなに走るのかとよく聞かれます。ちょうど10年前、レストラン経営の傍ら暴飲暴食を繰り返していた僕は、いわゆるビール腹になりました。いろいろな運動をやってみましたがあまり効果はなく、最終的に一番嫌いだったはずのランニングに手をつけ、しかし意外にもこれにハマってしまいました。メドックマラソンというシャトーを巡るマラソン大会がフランスはボルドーのメドック地方(高級ワインの産地)にあり、給水所にはワインが置いてあります。ラスト4kmで生牡蠣とステーキも提供されます。酒飲みなら一度ぐらい出るべきだろうと思って出場してみたら、その素晴らしさにすっかり虜になりました。その後毎年出てまして、今年で10回目となります。それを今日は、東御で、一人で実行した、というわけです。

PAX Coworkingとセットでやっていたのがパクチーハウス東京という飲食店でした。PAXをつくる2年半前に立ち上げました。世界初のパクチー料理専門店ということで話題になり、昨今のパクチーブームを、一応僕が作ったということになっています。とはいえ、始めた頃は「ありえない」とか「狂ってる」とか言われました。そうです、僕自身は「変なこと」をするのが好きなんでしょうね。

新事業の「鋸南エアルポルト」は、ここ十数年は人口がどんどん減っている町にあります。しかも半年前にひどい台風の影響で被災地と呼ばれる場所になってしまいました。「きょなんまち」と台風の報道で読めるようになった方も多いとされています。誰も見向きもしないで空き家・空き物件が増えているんですが、だからこそ、僕は町全体に魅力を感じたのです。儲かるかどうかという観点以前に、海と山が近く、空気が澄んでいて気持ちがよかったからです。

で、そこで何をしているかというと、毎週飲み会を開催しています。毎週とにかく、ひたすら飲み会をやっているだけです。それだけなんですが、それによって町の中の人と外の人がどんどんつながって行くんです。コワーキングを常時使っている人はこの感覚は分かると思います。目的を持たずに話をすることによって、利害関係を超えたコミュニケーションが起き、そこから新しいアイデアと新しい関係性が生まれます。外からだけ見ていると、何が起こっているか分からないようです。どんちゃん騒ぎをしているだけだろと吐き捨てる人もいます。一方で、何度か来たことのある人や参加経験者から話を聞いたことのある人は、次々につながりが生まれる不思議さを感じつつ楽しんでくれています。

町には多様な人がいるので、関係性構築のために交流会などを企画する人はこれまでもいたと思います。準備に時間をかけ、きちんとしたものを作っていらっしゃると思います。数カ月前に告知をし、チラシを作ったり声がけをしたり。しかし僕たちは違います。始まりは、物件を借りた初日。とりあえず、知ってる人に声をかけて飲もうかと事業パートナーのまさやんと同意したのが始まりです。ちょっと前まで縁もゆかりもなかった町で、事業を始めると言ってもどうしていいか分からない。だから、気軽に誰でも参加できる「飲み会」を繰り返し、そこで町の人の話を聴きながら、自分たちの考えを話しているのです。町外から来る友人も、開催日を目指してくればたくさんの知り合いができるので喜んでくれました。そして、半年で26回もの飲み会を開くことになったのです。

集客に関する心配をする必要はありません。来れる人が来れる時に来る。それだけです。ある日に来れなくても、次の機会に来ればいいのです。その時々で違うコミュニケーションが起こります。結果として、数カ月準備した交流会の何倍もの関係性が生まれます。ある方が「エアルポルトはスピード感が全然違う。速いんだ彼らは」と評してくれました。ただ毎週飲んでるんだけなんですが、だからこそ成果が出ます。


江原政文

佐谷さんとの出会いは、東京シャルソンに参加した時です。佐谷さんは東京で最初、日本で2番目のコワーキングスペースを立ち上げた人で、日本のコワーキングを背負って立って来た人です。「コワーキングの神」と言うと言い過ぎかな。言い過ぎです(笑)。iitoco!!が物件の期限により店舗を閉じ、「無店舗展開」をすると先日発表したときすぐに、「行くよー」と言ってくれました。今日のトークイベントは、その後のやり取りで実行することになりました。

佐谷さんは2年前に、連日満席のパクチーハウスを大繁盛のまま閉じて、「無店舗展開」に入ると宣言しました。その後も、それ以前と変わらず活動しているということです。「無店舗展開」の先輩後輩として、対談してみよう、というわけで今日のテーマは「無店舗展開とコワーキングの可能性」です。


大越要

「無店舗展開」ということを僕もよく理解していないので、率直に聞いてもいいですか。そもそも「無店舗展開」ってなんですか?


佐谷恭

店舗を無くすというと、そこですべてが終わると皆んな思い込むんですが、「無店舗展開」というのは店舗がなくても展開する、店舗を無くしてからがスタートだということです。最初から店舗なしで会社なりネットショップを開く人はいますが、一定期間リアルに場所を持った後、それを消滅させるのがポイントです。僕は東京都世田谷区の経堂にある商店街でパクチーハウス東京とPAX Coworkingを店舗として運営していました。

パクチーブームを起こすためにパクチーハウス東京を作ったというわけではありません。狙ってできるものではないので。パクチー料理専門店を作ると言っただけで気が触れているとまで言われたぐらいですからね。僕は、とにかくパクチーという草を一般に広めて、手に入りやすくしたい、つまり、スーパーで買えるぐらいにするとか、これは日本パクチー狂会の半分冗談的な目標ですが、そこらへんに生えている状態にしたいと思っていました。別にブームなんて起きなくてもいいんです。野草を摘むようにパクチーを摘むとか、種が普及すれば畑でもプランターでも、好きな時に蒔くことができる。

日本パクチー狂会は崇高な目的があって作ったものではなく、ノリで始まったサークルです。が、冗談が高じて僕はパクチーハウス東京を作ることになりました。そして、コミュニケーションの生まれる場所を作ろうと試行錯誤した結果、震災の後ぐらいから席が毎日埋まるようになって、それから(閉店までの)7年半はずっと満席でした。

珍しさから話題性には事欠かず、また、たくさんのアイデアを表現していったので、メディアには10年間で1000回ぐらい取材してもらいました。おかげで個人店の割には知名度は相当上がったと思います。テレビにも100回ぐらい出してもらいました。これはやり過ぎたと思っています。テレビは本質を伝えないことが多いし、特にタレントが出る番組は客層を乱します。パクチーハウス東京がまだほとんど知られていない頃に来る開拓民のような人と、有名店だから来る人は、全然マインドが違うんです。1カ月前から予約を取り始めるんですが、最後の3年は曜日にかかわらず、3週間前ぐらいに予約が取れなくなってしまうようになりました。

経営的にはありがたい話です。しかし、(気持ちが)薄いお客さんがどんどん増えていると感じるようになりました。


大越要

薄い、というのは?


つづく

イイトコ無店舗展開表紙

Kindle版『無店舗展開とコワーキングの可能性』は、以下の動画(iitoco!!ありがとうトークライブの配信画像)に加筆してまとめています。


パクチー(P)コワーキング(C)ランニング(R)を愛する、PCR+ な旅人です。 鋸南(千葉県安房郡)と東京(主に世田谷と有楽町)を行き来しています。