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「水色」と「空色」

みなさんは青を薄くした色をなんと表現しますか。「薄青」みたいな表現はしないと思います。多くの人が「水色」と考えると思います。水色はその名の通り、川や湖などで水を見ると、ほんのりと青く見えるところから来ています。でも、似た色に「空色」があります。ではなんで青を薄くした色を「空色」と使わなかったのか、そんな疑問が湧いてきます。

そこで先日、こんなアンケートツイッターで実施しました。

結果は下記です。アンケートに参加いただいた方、ありがとうございます。またもいつもRTをしていただいたり、いいねをしてくださる方、ありがとうこざいます。

やはり圧倒的に水色と表現する方が多くいました。その比率は「空色」に対して「水色」のほうが5.6倍多い計算です。

また別な角度でも調査してみました。ある小説投稿サイトでは「水色」と「空色」をタイトルに使っている差がどれぐらいあるかを調べました。すると「空色」の7倍もの「水色」がタイトルで使われていたのです。

この理由を考えてみます。ある研究員の方か指摘しておられましたが、小学校で使ってきた絵の具や色鉛筆では薄い青のことを「水色」と呼んでいたのが大きな理由とおっしゃっていました。私も同じ意見です。

では何で画材には水色が使われ、空色が使われなかったのでしょう?

日本の伝統色を見てみると、「蒼天」「紺碧」などの色名はありますが、空に関する色が英語と比較すると明らかに少ないのです。英語のスカイブルーは他にも空を表す色名がたくさんあります。地平線近くのホライズンブルー、天上の色ゼニスブルー、ヘブンリーブルー、それからアザーブルー、セルリアンブルーなどたくさんあります。

日本は農耕民族で、本来ならば空模様などにはとても敏感なはずです。にもかかわらず色名が少ないのは何ででしょう。水の色の変化よりも、空の色の変化に敏感だったはずです。

ひとつの可能性として、空の色は常に変化するので「空色」よりも「水色」と表現するほうが安定した色を想起できる可能性が高かったことです。「水色」を使えば、多くの人が同じ色をイメージできる。でも「空色」にしてしまうと、季節や天候によって変化が激しく、同じ色をイメージできにくいのかもしれません。

英語のスカイブルーは「夏の晴天の午前10時から午後3時までの間、水蒸気や埃の影響の少ない大気の状態におけるニューヨークから50マイル以内の上空を、厚紙に1インチ四方の穴を開けてそれを目から約30センチ離してかざし、その穴を通して観察した色」という細かい設定があるといわれていています。細かい設定をしないと決められない色、伝わらない色だったのでしょう。つまり、日本人は繊細な色彩感覚を持つがゆえに、あえて「空色」を薄い水色を表す色にしなかった可能性です。

二つ目の可能性もあります。「水色」と「空色」は同一の色ではなく、「水色」は薄い青で、「空色」は「水色」よりも鮮やかな青で表現されることが多く、薄い色としては「水色」のほうが使いやすかったのかもしれません。

多くの伝統色が草木染めの日本ですから、発色の良い青である「空色」よりも「水色」のほうが作りやすかったはずです。「水色」が使われるようになったのは平安時代。「空色」も平安時代に生まれましたが、実際に多くの人が使い出したのは明治時代からと考えられています。平安時代から使っていた「水色」で表現が間に合ってしまうので、「空色」は特別必要なかったのかもしれません。

そこで表現が豊かになった近代文学では「空色」は使われていないか、小説の中を調べてみました。「空色の着物を着た子供」(小川未明の『空色の着物をきた子供』)、「空色の地に明るい表情の婦人車掌」(宮本百合子 『再刊の言葉』)、 「女 の眼ざしあはれそが夢ふかき 空色 しつつ」(北原白秋『邪宗門』)、「空色の壁の向うでは、今もまた 赤児 が泣き続けている」(芥川龍之介『母』)などけして少なくありません。空を表す色として使っているのではなく、別のものを形容している言葉であることが重要な意味を持ちます。

一般の人は薄い水色を使い、色に敏感に表現する作家などは両方を使い分けていると考えられます。今回、「水色」と「空色」について少し深掘りをしてみました。

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