マガジンのカバー画像

One Phrase To Story

70
1行のフレーズから、2000字の物語を芽吹かせる。 そんな活動の記録です。
運営しているクリエイター

#ショートストーリー

クリーンアップ、マイルーム!

 あるところに、1人の女神がいた。女神は優しく、慈愛に満ちていたが、1つ欠点があった。整…

Pawn
6か月前
5

サンドマンの声がする。

 幼い頃、父は毎晩、私が眠れるまで本を読んでくれた。 「このお話で人は死にません。だから…

Pawn
7か月前
6

アイシー、アイシー、ハッピー

 冬の寒いキッチンで、私は素足で立っている。暖房はつけない。光熱費はいつもカツカツだ。そ…

Pawn
7か月前
8

砂の国のルエリア

 ザリッ  ざらついたノイズが脳の表面を撫でた。こちらを向くルエリアの顔にかかった表情の…

Pawn
8か月前
6

放課後ホッチキス。

「珈琲と紅茶、どっちが好き?」 「紅茶、かな」  互いの手元から響くホチキスを留める音がメ…

Pawn
10か月前
9

苦い記憶と溶ける時間

「アイスコーヒーの中で溶ける氷って、ずっと見てられる。時間まで溶けちゃうのよね」  これ…

Pawn
10か月前
7

パープル・レイン

 ブルーベリーの雨が降っていた。タタタタタ…と、硬いものが地面に当たる音。パチュッ、パチュッ。コンクリートのタイルに真新しい染みがついていく。たまに混じっている柔らかい粒が着弾と同時に弾ける。雨宿りをしながら、私は黙ってそれを見ていた。 「なぁ。なんでなんだろうな」  隣で彼氏が雨空を見上げて言う。まるでドラマのように。ドラマを見過ぎた勘違い男がするように言う。 「よく分からないって言われてるようよ」  私は適当に相づちを打つと、コートのポケットに入り込んだブルーベリーをつま

2061年天頂の華

「なんで浴衣?」  私は衣類宅配サービスから送られてきた今週分のボックスを開封して、ビニ…

Pawn
11か月前
5

ユメウツツ

 私の夢にはずっと昔から吸血鬼が棲みついている。ベッドに潜り込んで目を閉じる。眠りに落ち…

Pawn
1年前
4

夜を歩く。夜に咲く。

「ただ歩くだけで良いんですか」 「えぇ、ただ歩くだけで構いません」  僕は暗い部屋の中、ス…

Pawn
1年前
23

私の気になる本の話。

 本のこと何でも質問コーナーと模造紙に書いて段ボールに貼った簡素な看板を横目で見ながら、…

Pawn
1年前
6

師匠は何も分かっていない。

「食べる夜!」  ある日、研究所に顔を出すと、師匠は満面の笑みで小瓶を掲げて叫んだ。 「食…

Pawn
1年前
11

僕らを乗せて。

「世界にはもう私らしか残っていないんじゃないかと思うんだよね」  沈む夕日に染められて、…

Pawn
1年前
11

となりの席の銀河売り。

 銀河売り。隣の席の星波さんの机の上、進路調査の用紙には確かにそう書いてあった。さりげなさをよそおったはずが、視線が釘付けになってしまう。早く目をそらさないとバレる。可愛らしい、しかしどこか意志の強さを感じさせる字。彼女が小さい頃に書道を習っていたというのは、よく知られている情報だ。文化祭のクラスの出し物の看板は、他クラス分まで含めて星波さんが下書きを行っていた。固まってしまった思考と視線を軋ませながら無理矢理動かす。その先で星波さんと目が合う。 「あ、いや」  思わず声が出