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【絵本日記】うたえ!きゅうかんちょう

「きゅうかんちょう だからって、
だれでもうたうと思ったら、おおまちがいだ」

きゅうかんちょうは、いつもクールなようすで、ツーンと目をつぶっている。

「ほら、きゅうちゃん!って言ってみてよ」
「うたってみてよ」
「おはなししてよー」
「おい、うたえよ!」

みんなが、きゅうかんちょうに、はなしかける。

(まったく。もぅ、ほっといて!)

フン!と顔をそむけ、羽をバタバタしながら、
足をダンダンふみつける。

でもそんな、きゅうかんちょうには秘密がある。



それは………


マイクを持つと、うたいつづけるのだ。


誰も知らない。
夜になるとマイクを片手にうたっていることを。

「♬♬♬♬〜♬♬♬」

誰も知らない。
リズムに乗せて、うっぷんをはらすためにさけんでいることを。

「きゅうちゃん、きゅうちゃん、うるさぁい!
ボクだってうたいたくない時だってあるんだ!」

誰も知らない。
一度うたいだすと、とまらないことを。

「♬♬♬♬♬♬♬」
「♬♬♬♬♬♬♬」

誰も知らない。
ほんとうは誰よりも、おはなしすることが
だいすきなことを。

「きゅーちゃん!きゅーちゃん!
きゅー、きゅー、きゅーちゃん!」

のどがかれても、マイクを手放さない。
ビブラードをかけながら、
こぶしをまわしながら、
さけびつづけ、
うたいつづけ、
おはなしつづける。

うたえ!うたえ!うたえ!きゅうかんちょう!
ここは、きゅうかんちょうの、オンステージ!
さけべ!さけべ!さけべ!きゅうかんちょう!
マイクがある限り。ことばがある限り。



あさになった。
きゅうかんちょうは、しずかにマイクをおいた。
いつものように、ツーンと顔をそっぽに向けて、目をつぶる。

「きゅうちゃん、おはよ!」
「おはよ!っていってよ」
「きゅうちゃーん!」

誰に、はなしかけられても、しらんぷり。
だけど、よーく見ると……。
さっきまで、うたい続けていたリズムを、
こっそり、しっぽできざんでいる。

誰も知らない、きゅうかんちょうのひみつ。
でも、誰にだってある、じぶんだけのひみつ。


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