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学生時代に出会ったアッシジのお話

いつもの年であったら、いわゆる「卒業旅行」真っ只中の時期。昨年以降、その機会も世の中からすっかり奪われてしまっています。

遠い昔の話になりますが、学生だった当時、卒業旅行ではありませんが、私の双子の片割れが通っていた美術系大学の後援会主催の研修旅行に、同室者として一緒に参加する機会を得ました。春休みの間の約40日間、計40人近くの学生団体で、エジプトを皮切りにトルコ、ギリシャ、イタリア、南仏、スペイン、ポルトガル…の各地をめぐり、最後はパリという、今思い出しても大変贅沢な旅でした。

行く先々の有名なスポットや教会、美術館で、美大生たちは思い思いにデッサンをし、食事は各自など自由度が高く、移動は飛行機やバス、寝台車なども利用するというスタイルでした。双子の片割れがデッサンしている間、私は美術館の中をグルグル周り時間を過ごしていましたが、ほどなくして私も一緒になってスケッチを楽しむようにもなりました。

その後の添乗に役立ったかもしれない?旅のいろいろ

40日もの間となれば、それはそれは様々なことがありました。イスタンブールではおなかを壊して寝込み、その後のローマでおかゆ代わりにリゾットを頼んだけど全く食べられず…ということもあれば、ミラノやポルトガルのシントラではたまたまその地を訪れていた日本人ビジネスマンの方に何かと助けていただいたり、バチカンではシスティーナ礼拝堂にどうしてもたどり着けず、翌日再挑戦したり、南仏では次の訪問地アルルに向かうバスの中で忘れ物に気づき、どうしても大切なものだったので、列車でまたその地に戻ってホテルにとりに行ったり…そしてそのアルルではどうしても「ゴッホの跳ね橋」を見に行きたかったので、姉妹でひたすら歩いて見にいけたのですが、場所がわからず途中のガソリンスタンドのお兄さんに場所を聞き、奇跡的にたどり着けました。今ならGoogle Mapがあってなんの問題もないのでしょうが、当時はガイドブックだけがたよりでした。

エジプトやギリシャで乗った国内線の揺れは激しく、この揺れが「よくあること」なのか、それとも「危険」な揺れなのかの判断がつかず、その時の添乗員さんの顔色をちょくちょくチェックし、普通の表情だったら「これはよくある揺れなのだ」と判断する、という術も身に着けました。

あの頃はその後自分が旅にかかわる仕事をすることになるとは全く想像もしていませんでしたが、この旅での様々な経験が今の私のベースになったことは確かです。

忘れられないアッシジとの出会い

さて、その旅の中で出会い、最も印象的だった街がイタリアのアッシジでした。イタリアでいくつか巡った趣き深い街々の中でも、アッシジのなだらかな丘陵にある旧市街から見下ろす牧歌的な田園風景は、果てしなく美しくのどかで、その広がりは圧倒的でした。そしてアッシジは私にとって大切な場所にもなりました。それはアッシジがもつ圧巻の景色だけでなく、もうひとつの理由があります。

アッシジは一人歩きにもやさしい場所であり、ふらふらと夕方のお散歩をしている中で、聖フランシスコ大聖堂内に立ち寄った時のこと。聖堂内を見るだけのつもりがちょうど夕方のミサが始まっており、ミサを行っている一角に自然と足が向き、自然と椅子に腰掛けミサに「参列」していました。

当時の私は、訳あって教会から長い間離れ、信者であることを自分の中から抹殺していた時期。思いがけない形で巡ってきた実に久しぶりの教会でのミサは、また「日本以外のミサに与る初めて」の機会ともなりました。そこでミサの流れが世界中同じであることを、私は初めて知るのです。言葉はわからなくてもミサの流れに自然についていくことができたことに驚きつつ、自分も共にミサにあずかっている、という実感を得ました。そして、「信者で、よかった。信者で、うれしい。」と、その時初めて思いました。

信者としての自分に戻してくれたアッシジ

そののち、あれほど反発しながらもいつのまにか徐々に教会に足がむくようになり、今では「カトリック巡礼」なんぞを取り扱う身になっているというのには、自分でも照れくさいような思いもあります。とはいえ、自分自身を教会に、というより信者に戻してくれた特別な場所が、他のどこでもなく「アッシジであった」ことを、今はとてもうれしく思います。

つい先日幼馴染の友人と話をしていたとき、たまたまアッシジの話題になりました。信者でもある友人は、今は身体が大分不自由になってしまったお母様と行ったアッシジが忘れられないと言っていました。「また(母と)一緒に行きたかったけど、もう無理かな…」と残念そうな言葉がでた瞬間、「どのようにしたら彼女達がまたアッシジに行けるだろうか…」と、無条件反射的に頭の中で旅のプランを立てはじめている私でした。

もうそろそろ、旅行業者モードにも入りたいものです。アッシジにも行けるようになったらすぐに行けるよう、いつでも準備をしておきたいと思います。


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