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保健指導で遭遇する数多くの困難の源

 健診では検査項目ごとに、基準値以上に区分を設け判定結果とされます。判定が一番重いのは要治療、次に要精密検査。そのあとに再検査、経過観察と続き、ほぼ正常なんて表現もあります。かくして、検査数が多い健診では項目ごとに異なる判定がずらりと並び、一番判定の重いものが総合判定とされる決まり事?が踏襲されてきています。事業所で実施される定期健康診断の後は、数多くの有所見者が見出され、総合判定別に一覧表なども送られてきますが、個別の内容や危険性も異なるため対応に苦慮される例を多く見受けます。

 現在の健診はスクリーニングの考え方が原点にありますので、異常値を指摘されれば、まず医療機関を受診して病気がないか詳しく調べてもらうのが基本的な流れですが、病気と診断されなければ、健診で経過観察という曖昧な状況に陥ります。検査異常があってもその時点で問題ないとされれば、次年度からは異常があっても症状もないし「まあいいか」という主観的惰性が生じる様になり、保健指導されてもその都度「大丈夫と言われた」と主張する様になります。…当初の一抹の不安も、毎年続くと過去の対応も相まって大丈夫に違いないと、自己暗示の様な確証に繋がり、「自分の健康は自分が一番わかっている」という様にあたかも自分の信念の様に語る方々が増えてきます。

 今まで見慣れてきた健診結果ですが、総合的に見て自分の体で何が起こっていて、一番重要で改善すべきポイントはどこか、また、このままの状態で将来はどうなるのかを疑問に感じたことはありませんか。

 重症化するか否か、それは早いのか遅いのかいつなのか…予防を考えるなら重要な点と思えます。30年前の私にとって、糖尿病の重症化の転機、要因と進展過程の多様性が最大の関心事でした。糖尿病になる以前に悪化を予防できたら、耐糖能異常の始まる時点を認識できたら…健診データを用いてどんどん遡ってゆきました。耐糖能異常が健診で認識される以前に肝機能異常や脂質異常が存在する群と存在しない群があり性差が前者に大きいことを突き止めました。パターンプロセス理論の原点で汎用6項目の異常パターンを見る様になったきっかけです。悪くなるのが前もってわかっていれば早めに対応すれば良いし、悪くならないのでれば…ここでは平穏無事に歳を重ねていけること…余分なストレスを感じる必要もなくなります。

 異常値になった先の予後が曖昧だと、個別に予測できない多様性が秘められているかのようにもみえ、念のためという表現のもと、多くの有所見者を見出すことをいとわなくなってしまっているのが現在の健診の様に感じます。

 パターンプロセス理論ではほとんどの健診に含まれる6項目の検査の異常パターンで個人をみてゆきますので判定は一つです。その判定をもとに、健診集団で淘汰を受けないために生活習慣で見直すべきポイントを探ってゆきます。淘汰されないための将来予測が前提ですから疾病の診断という過程を含みませんし、各検査項目の判定区分もとりあえず脇に置いています。

 今回の記事の前に、パターンプロセス研究会から産業衛生学会の期間中に開催する自由集会のお知らせがありました。今回、学会で配布するチラシ用に、研究会の保健師の方々が、理論を実践した場合の実感を漫画で表現してくださいました。

 職域では、健診結果に基づく高危険群への対応が従来の保健指導の主流ですので、健診後の受診勧奨が主になっている場合が多いと思われます。今まで熱心に保健指導を行ってきた方も、パターンプロセス理論の入り口で、一気に今までの足場を失うため、一抹の不安を感じるかもしれません。しかし現実には、健診結果をもとに保健指導にあたる場合、漫画の図の様な困難な事例に数多く遭遇してきたと思われます。今までのどこに問題があったのかその原点について、受診する側も保健指導する側もパターンプロセス理論をもとに一度考えてみることをお勧めします。

 最近某メーカーの悪玉コレステロールを下げると銘打った商品が健康被害を招くとして社会的な問題となっています。材料に毒性を持った物質が混在していたということが原因と考えられていますので責任を追求されても致し方ありません。

一方、もともとそういった商品に目が行ってしまった背景も考えてみる必要があります。悪玉コレステロールが気になって商品を購入するわけですから、その動機には現在の健康診断の結果が少なからず影響しています。そもそも悪玉コレステロールが高いとの指摘がなければ商品を買うこともなかったでしょうし、悪玉コレステロールだから下げるべきものとの通念が存在しなければ商品そのものも存在しなかったかもしれません。

 Note記事「高LDLコレステロール血症の男女差の意味するところ」でも、健康診断におけるLDL-Cの動向から悪玉コレステロールと呼ぶことに問題提起しましたが、悪玉という呼称に何ら疑問を抱かずに健診結果を返し、受診者にストレスを少なからず与え続けている今の健診のあり方にも責任があると考えています。

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