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小豆餅80's - ジャック・ニコルソン先生

小学校の卒業式も終わり、中学校が始まる前の春休み、翌週から始まる中学校に不安しかなかった僕たち。何をやったら良いかも分からず、プラプラと何故か小学校の校庭にいたところを、6年生の時の担任だった久米先生は優しく迎え入れて話しかけくれた。

「お前は最低湖東かな。お前は頑張って西狙え。村松は北だな。」
先生はもう高校受験の話をして不安をさらに煽り、でも敢えて茶化して楽しく笑い合っていた。

受験の話も終わった後、思春期のボーイズへのアドバイスが始まった。久米先生はオールバック的なヘアスタイルにスーツで、男臭い細身のちょい悪な感じでややダンディよりのルックスで、イケメンではないものの話術が巧みで人気者だった。

「中学行ったら、そろそろ彼女もできるかもなあ。お前ら、ひとつだけ言っておくぞ。女の子と付き合うにはな、まずは自分を磨く事だぞ。自分も磨かずに好きだのなんだの言ったって。うまく行きっこないからな。自分を押し付けたって無理だぞ。」

翌日、僕はあの頃の浜松に残る悪習だった「丸刈りの刑」に処せられた。公立中学生の男子はこのタイミングで全員が丸刈りになったのだ。憂鬱な思春期、全く自信のない英語が始まる不安、首が閉まる学ラン、そして犯罪者みたいな丸刈の刑。何でこんな目に遭わせられなければならないのだろうと今でも恨んでいる。

時は過ぎ2010年代、LINEで地元の友達と話していて、ある事実を知った。
「久米先生って覚えてる?少女買春で逮捕されたんだって。」
「。。。え、あそうなんだ。」

まともな大人のまともなアドバイス。きっと先生もわかっている人なんだと思う。男の二面性を考えれば、そんなに驚くことでもないのかもしれない。長年の学校生活で久米先生の脳内はどんな状態になっていたのだろう。数知れない生徒への教えが、自分にブーメランして心臓を貫いているのだろうか?

この事実は単純に僕を不快にさせるようなことではなかった。人生は複雑である。密かに、映画「カッコーの巣の下で」でのジャック・ニコルソンと久米先生を重ね合わせて見ていた。

あの日の白い校庭、青い空の下、丸刈り前日の自分の毛並み、そして久米先生のアドバイスはいまでも私の脳裏にこびり付いて離れないのである。

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