彼女は、仕事ができない。


 逃げるように職場を出てきた帰り道、歩いていたら呼吸が苦しくなってきて電車まで乗り込んだけれど、吸っても吐いても何も入らなくて手が震えていた。手が震えて胸が震えていて、呼吸が揺れていた。


 仕事が、何もできなかった。



 新しい上司に指示された業務が、指示された時必死に理解してこういうことですか?と尋ねて、そうじゃなくてこうと何度も問答して、それを踏まえて上司がやってほしいのだろうことを私なりに理解して、そのゴールのために必要なことを書いて、早速取り掛かった。
 やっている途中、1時間くらいしたところで当上司が進捗を見にきたから、全然進んでいないその作業過程を見せながら、ここはこういうことで良いですか?と確認すると、いや違う。そうじゃなくて、とふたたび指導を受ける。

 さっき指示を受けた時は、突然呼び出されてメモも持っていっていなかったからとにかく必死に聴いて聴いて理解し(たつもりになっ)て、すぐに作業スペースに戻ってきてからその理解し(たつもりになっ)たことを紙に書き出してから作業していた。それがどうやら理解が違っていたようだ。


 今度は、私のパソコンの元へきた上司がこうじゃなくてこう、わかる?こういうものを作ってほしいんだと私のメモに付け足してメモを書く。


 では、ここはこのようにこうですね、と尋ねて確認していやそうじゃない、ではこういうことですか?を何度か繰り返してやっと「おっけー?」と聞かれて上司はまた慌ただしく出ていった。わかったようなわからなくなったようなわからないようなさっきより分かったような。そんなぐるぐるした気分のまま、私は改めて作業にかかった。やっぱりあまりわからなくてそれでも必死に作業をしていた。そうしたら、また手が空いた上司が見にきたから、見せた。

「いや、そうじゃないんだよなあ…」
消え入りそうなくらいの静かな声だったけれど、語尾に大きなため息が聞こえた。

 全然仕事できない。わからない。急にわからない。つい先日から、この上司が来てから、それまで、特に指摘されたり良しとされていた私の報告の仕方から細かくチェックを受けて指摘されて少しずつまだ直そうとしていて、体制が変わってまだ2回目の勤務。私は仕事の仕方が変わることや環境や取り囲む周りの人や上司が変わったことについていけなくて全然わからない。

上司はそう言ってまた戻っていった。


 「んー、もういいや。この仕事僕が引き取る」


 身体に力が入ってしまって苦しさを感じていた。定時の終業時間を1時間ほど過ぎていたから私の作業場を会議で使うと管理職の方が入ってきて、そこで私はもう帰ることにした。

気づいたら終業時間を過ぎていて、でも退勤の時間は定時でつけておいた。全然わからないまま、片付けて全然わからないまま帰り際にお手洗いに入った。お手洗いに入ったら、いつからか息を止め気味だったことに気づいた。

 そうしてそのまま逃げるようにして職場を出て、速足で駅まで向かった。電車の中で気づいたら手がぶるぶると震えて涙が流れてきていて、頭はもうずっとパニックのままだった。

 暗く寒くなって冷たい冬の夕方の風が当たって寒気がした。泣きながら友人に連絡した。事情は端折って仕事できない、だけ送ったら、やっぱり「パソコン練習しろよ」と嗜められた。


 多分、パソコンの前の問題だったんだと思う。最近、職場に近づくごとに、仕事に行く朝に、仕事の前日夜に眠れなかったりお腹が痛くてたまらなかったり食欲不振と食欲増加が突如起こったりするし、昨年末から定期的に動悸がして、呼吸が浅く、仕事の日は頑張って起き上がるけど、朝から全身倦怠で、そういえば昨年の11月末くらいから思考力と集中力も格段に落ちている。もともと大きな音とか男性の叫び声が苦手だけれど、物音に過敏になった。なんとか遅刻はしてないけど結構辛い。


 まともに働くこともできない人間は、
生きている価値、あるんだろうか。周りの、他の人にとったら取るに足らない仕事で、指示されたらチャチャっと終わらせられるのであろう仕事を、何度聞いてもわからなくて、結局わからないままの私はここ(この職場)にいていいのだろうか、明日、また仕事に行ったら、また新しく今日と同等の業務を渡されるのだろうか。そしたら、私はまた何が何だかわからなくて何度も質問して、それでも混乱してわからないまま、全然理解してないまま仕事して、また「そうじゃないんだよなあ」ってなるんだろうか。彼女は仕事できないと、話されているだろうな。


吸っているのか吐いてるのかわからなくなった胸は、寒さなのか呼吸困難なのかグーっと何かに押さえつけられていて、喉が絞られてうまく酸素が入らないままだった。

 心臓はどきんどきん、と大きく波打っていて朝が来るのが怖くてこのまま夕暮れならいいのに。

#息切れ
#動悸
#適応障害

↑これはここまでで2000字


 この日、あまりにも苦しくて呼吸もできないし全身震えるし声も上手く出ないなどがひどいから、絶対にはやめにいくべきなんだと、もう検討がついていたので専門で診断書を即日書いてくれるクリニックに帰りに寄った。クリニックでは、呼吸を整えて順番を待っていた。医師の診察の前に、カウンセラーからの聞き込み?が行われた、話していたら途中から涙がぼろぼろ溢れてきて、普通に話せなくなった。その後診察を受けた。教職課程を6年間も履修したしね、私もなんとなくそうなんだろうなってわかっていたんだけれど、案の定、「適応障害」と診断書が出された。

とりあえずその日の帰り、親愛なる友人に連絡をした。電話をかけた時は元気がないくらいだったのに、電車の中だったから出られなかったと掛け直ししてくれて出た電話では、先ほどの問診とは違って喋れないとかはなかったけれど、泣きながら話していた。
「そこまでひどいの!?」とひどく驚いていた友人が「上司に連絡したほうがいいよね、」という私に、「そりゃね、」といい、しばらく黙り込んでしまったら「言いづらいなら、俺が言ってあげようか、」とまで言ってくれた。

泣きながら小さな声で、うん、とだけ言った。


(親愛なる友人に話したことと、クリニックで泣いたことと、翌日から3日休みを挟む状況だったおかげで、大変落ち着いた状況になったけれど、出勤日が近づくとかを考えたら、息が浅くなってきて脳に酸素がいかなくて手が震えてきた。)
そしてこの後、次の勤務の時、「僕が引き取る」と言ったのに、当該上司に「あの仕事終わった?」と聞かれて、え…え…??と私はなり、管理職に相談をして事情なども話すと、結局、この上司とは仕事を別にし、会わないで済むように、仕事を頼まれないように上司を動かしてくれた。


少しだけ時間が経ってから書いています。

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