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恋をするには早すぎる(1)


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私の母校はとても小さな学校だった。
6つの小学校をかき集めてようやく3クラスしかない規模の小さい中学校。
中学2年になるころには全員の顔と名前を把握していた。

「ねぇぱちこちゃんは誰が好きなの?」

新学期も夏前になってくると女子の間でコイバナが流行り出す。
私はそれが大変苦手だった。
元々人見知りの体質をなんとか矯正して生きていたので、なぜ他人とそんなデリケートな話をしなければいけないのかが理解できなかった。
そもそも恋なんてキンキの剛くんだけで十分だったし。
吹奏楽部という女子の巣窟に身を置いていたこともあり、女子の面倒臭さを感じ始めていた頃。
ちょうどその頃彼女たちは恋をしたがるし、させたがる。
男友達とケラケラ笑い合う方が性に合っていた私は「好きな人なんていないよ」ときっぱり言い放っていた。

それで逃げられないのが思春期女子の恐ろしさ。

「コージのこと、どう思う?」

親友のエーコがしつこく聞いてくるのだ。
器量よしというタイプでないが、そのことは自分でよくわかっているし何より明るくて裏表のない性格で友達も多い。
私は彼女に引っ張られる形で社交性を得ることに成功した。本当に感謝している大親友だ。エーコは恋にも積極的だった。
先月別れたらしい彼氏とは今も友人だし、次はまた新しく気になる人がいるという。
しかしこの頃の私の精神年齢はまだエーコに追いついておらず、コイバナに目を輝かせる彼女に辟易していた。

「コージ?うーん面白いしイイやつだよね」

コージは仲のいい男友達の一人。
マッチ棒みたいなヒョロヒョロ体型でバトミントン部。
数学と理科が得意で、どちらかというと控え目なタイプ。
子供っぽくはしゃぐ男子に上手に合いの手を入れたり、調子に乗り過ぎないようにフォローする役回りで友達は多かったように思う。
イケメンだったらもっとモテてただろうけど、そうではなかった彼は男女ともに好かれる「いいヤツ」だった。
私はとりわけコージとその親友のモッティを中心にした男子グループと話すことが多く多愛ない会話が楽しかったし、私が苦手な数学を助けてもらう必要があった。そのぶん国語は私が教えていたので利害も一致している。
この関係を崩す気はなかったのだ。

それでもエーコは私にしきりにコージを勧めてきた。

この前コージがこんなことをした。
コージが誰かを助けた。
コージが数学で学年2位だった。
コージの趣味は読書らしい。
今度コージからCD借りるからぱちこも借りたら?
ねぇコージのこと好きなんじゃない?
ぱちこはコージと仲良いよね。
お似合いだよね。
どう思う?

ーーーーー卵が先か鶏が先かーーーーー

元々そうだったのに気付かされたのか、単純明快な私の脳が勘違いしたのかはわからないが、こうしてコージは私の中で気になる男子に昇格した。
なんのことはない、私も思春期の女子そのものだったのだ。

意識し出したらもう止まらない。
そばにいるだけで大赤面してしまう。
意識しないようにと乱暴に振る舞ってみたり距離をとってみたりするものの、エーコが気を利かせて近づけようとする。

コップに注がれた水が溢れるままに、私は告白をした。
人生初の告白は、手紙だった。

私からエーコ、エーコからコージの親友モッティ、そしてコージの手に渡り。
次の日には同じルートを通ってお返事が返ってきた。

「よろしくお願いします」


ところでその頃私の家庭環境は少し込み入っていた。
まず母は数年前に手術した癌が再発し、入退院を繰り返していた。
弟はまだ小学生で足に障害がありこちらも入退院と手術を繰り返している。
父は母の看護と弟の通院にかかりきりになり自営業の設計事務所をたたみ、地元の建設会社で現場監督として働いていた。
収入は少なく、とても貧しくしていた。

7月のとてもよく晴れた日、その日はとても暑かった。
授業中の私が学年室(2年を担当する先生の詰所)に呼び出される。
私宛の電話は母からだった。
「落ち着いて聞いてほしいんだけど。お父さんが倒れたから今から病院に行ってくるね。迎えには行けないから学校が終わったらいつも通りバスで帰って、弟と一緒に着替えて待ってて。」

現実味の無い内容に相槌を打つことしかできなかった。

<続く>

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