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【育休パパが聞いてみた】第一生命人事部に育休推進の気になる”9つの質問”をしてみました。

パパ育コミュでは、男性育休の推進に取り組む企業の人事部門の方々にヒアリングしながら、育休推進の”コツ”や”難しさ”等のリアルな実情を育休パパ目線でお伝えしています。

第一回は「第一生命保険株式会社」にヒアリングさせて頂きました。

■ヒアリング

実施日:2023年2月6日
ヒアリング先:第一生命保険株式会社人事部D&I人権啓発室 坂井様
記者:ミトス、いっしー、彗魚、シカゴリラ(文書)

【質問①】育休取得率や取得期間とその開示の背景(特に取得期間は義務化されていない中で開示する理由)は何ですか?

■育休取得率及び育休期間の開示をする理由

情報開示することは企業の透明性向上につながり、ステークホルダーからの信頼・評価に繋がると考えています。

そのため、取得期間の開示義務はございませんが、弊社では「男性社員の育児休業累計1か月以上100%取得」という目標を設定し、育休取得率に加えて育休期間をあわせて開示するに至りました。

■「男性社員の育児休業累計1か月以上100%取得」の背景

「男性社員の育児休業累計1か月以上100%取得」という目標設定の背景には、実効性のある男性育休の推進をしていきたいという想いがあります。

2021年度における弊社の男性育休の取得実績は、育休取得率こそ9割と高い一方で、取得期間が11. 8日と短くなっています。取得期間が短いと、家事・育児のスキルの習得やパートナーの産後ストレスや育児不安の軽減といった本来の趣旨に沿った男性育休に繋がりづらいという課題を感じていました。

そこで、弊社では十分な期間にわたっての育休取得を推進するために2022年度から「男性社員の育児休業累計1か月以上100%取得」という目標を掲げました。

■2022年度における男性育休の推進状況

2022年の4-12月までの実績では、男性の育休取得者の平均取得日数が22日間となり、2021年度の11. 8日と比較すると約2倍に増加しました。育休取得期間を細かく分析すると、累計1か月以上の取得者割合が38%と最も高く、2週間以上とあわせると69%となっています。

加えて、育休を取得するタイミングにも変化がありました。パートナーが精神的にも肉体的にも最も辛い時期である出産直後のタイミングに育休を取得した社員が25%増加しました。

こうした結果から、パートナーの産後ストレスや育児不安の軽減、男性の家事・育児参画といった本来の趣旨に沿った男性育休の推進が図られていると考えています。

■目標として掲げた「1か月」の壁

一方で男性の育休取得を推進するにあたって課題もあります。男性社員の累計1か月以上の育休取得を目標として掲げていることもあり、1か月を超える育休取得者が少ない傾向にあります。特に、6か月以上にわたる長期の育休についてはまだ片手に数える程度しかいません。

1か月という目標に掲げたが故に一か月という期間を意識している社員が多く、それ以上の期間の育休を取得しづらいという意見があるのも事実です。人事部としてはこの期間が上限ではなく、下限として考えています。今後は、より長期の育休取得者が増えるように取り組んでいきたいと考えています。

【質問②】個別周知や意向確認の実施方法(書面・メール・面談等、実施タイミング)について教えてください。

■個別周知と意向確認

個別周知と意向確認は、パートナーの妊娠が分かったタイミングで当事者と上司との対話の中で行っています。上司からは育児休業制度や会社の制度を説明し、男性社員の育休取得の意向確認を行います。

意向確認のタイミングで男性が育休取得を選択できるように、パートナーが妊娠した方及び育児中の男性社員(女性も受講可能)に対してプレパパセミナーを行っています。加えて、管理職向けのイクボスセミナーを実施するとともに、全社員を対象とした動画によるオンライン研修を実施することで、男性が育休取得しやすい雰囲気の醸成にも取り組んでいます。

■意向確認後に作成する「育業計画書」

意向確認において育休取得を希望した社員は、計画的な育業に向けては、「育業計画書」の作成・人事所管への提出をルールにしています。

計画書のポイントは3つあります。

  • 育児休業に向けて業務の棚卸をするとともに、誰にどの業務を引き継ぐのかを計画します。こうした取組を通じて不要不急な業務の削減など働き方改革にも繋がっています。

  • 育児休業中に何をするのかを具体的にイメージしながら「育休期間」や「取得時期」について自分らしい育休をデザインしていきます。

  • 子供の出生後にどのようにワーク(仕事)とライフ(家庭)のバランスを実現するのかを自分自身で描きます。こうすることで、育休復帰後にそれぞれの社員が自分らしい働き方をデザインすることができます。

こうした「育業計画書」の作成において大切なことは日ごろの上司とコミュニケーションのタイミングと頻度です。弊社では、年に3回の人事面談に加えて定期的・継続的に上司と社員の1on1の機会を設けており、日常的に相談しやすい環境づくりを心掛けています。報告が早ければ、早く取得計画を立てられますし、周りのメンバーにも引継ぎしやすいです。また、日常的なコミュニケーションや意識醸成も、男性社員のスムーズな育休取得のための好循環を生み出す要因になっていると考えています。 

【質問③】育休推進に向けた企業独自の先進的な取り組み(具体的な施策と実施時期、実施にあたり困難・課題に感じていること)

弊社では男性の育休取得を推奨するために様々な取組を行っています。

以下では、特に効果が高かった取組を紹介します。

①最大20日間の積立公休(有給)付与

弊社では2022年10月以降、育児休業を取得する男性に対して最大20日間の積立公休(有給)を付与する制度を独自に導入しました。社内でパパ世代の社員を対象に調査を実施した結果、長期取得に向けては収入減がネックになることが分かったことが当該制度の導入の背景にあります。この制度を利用することで土日祝日を含めて約1か月の育休期間となるため、一か月間の育休取得者が飛躍的に増加しました。

②育休取得者の事例紹介

男性の育休推進においては、育休を取得する当事者だけではなく、周囲のメンバーのマインドチェンジがとても大事だと感じているため、当事者と周囲のメンバーのマインドのギャップを埋める取り組みも行っています。

例えば、連続9カ月男性育休を取得した役員と若手社員、また、上司と育休取得社員が対談する様子を記事にして社内に発信しました。対談を見た社員からは「育休が当たり前の世の中ですよね!」等の好意的なコメントが寄せられ、社内の育休が取りやすい雰囲気の醸成に対して良い影響があったと感じています。

加えて、育休取得者へのヒアリングも行っています。課長などの取得しづらいポストの方がどのように取得したか、また、周囲がどのようにバックアップしたかについても体験談としてまとめて共有しています。

③「育業計画書」

前述の「育業計画書」も効果的な取組の一つです。育休取得期間、引継ぎ事項、育休中の生活、育休復帰後の働き方についてしっかりと検討をすることで、当事者のライフ・ワーク・マネジメントに役立つと共に、所属部署内での育休に向けたスムーズな体制整備に繋がるので有効な取組だと感じています。

上記以外にも様々な取組をしていますので、以下に列記します。

  • 毎月対象者とその上司宛に対象者リストと男性育休関連情報・トピックを配信

  • 未取得者本人とその上司への取得個別勧奨

  • パートナーが出産予定・育児中の男性社員とその上司向けに支援ツールの提供(男性育児休業についての社員向け制度説明資料・上司向けマニュアル、男性育児休業取得に向けた教材等)

  • 「育業」応援企業として東京都と協業。「育業」川柳コンクールの開催や各メディアで当社取組を紹介することで、世の中の育業へ向けた意識の促進に貢献。

  • 広く男性育休を意識してもらうため事業所内にポスターを掲示

【質問④】推進する組織体制(代表のメッセージ、執行役員、人事部門と他部門の連携)について教えて下さい。

■代表や執行役員のメッセージ

会社代表からダイバーシティ推進に関するメッセージを出している他、ダイバーシティ推進担当の役員が「男性社員累計1か月以上100%取得」という明確な育児休業の推進に関する目標について統合報告書などに示しています。

また、東京都のHPにもだーば―シティ推進担当役員のインタビュー記事が掲載されています。このように、社内外において男性育休を推進していることを公表しています。

■人事部門と他部門の連携

法改正を受けて全社員へ育児休業に関する通達を出し所属内での体制を整備するように要請しました。その後、人事部個別ヒアリングをしながら推進状況の確認をしています。ただ、職務内容や職場環境によってどうしても育休を取りづらいといったケースがあります。

例えば、営業現場の拠点を統括する立場の社員(拠点長)が物理的に抜けてしまった穴を補うのは難しいのが実情です。一か月間の育休期間では人員補充は難しいため所属内でのフォローをする必要があるのですが、現状では十分にフォロー体制ができているとは言い難い状況です。拠点においてもオンラインでのマネジメントに慣れてもらうことで少しずつ現場でも男性が育休を取得しやすい環境を作っていく取組を進めています(現状では現場からは対面でフォローして欲しいという声が多く、その点に関しては他企業の取組を参考に検討中です)。

【質問⑤】男性の育児休業を推進した経緯について教えて下さい。

男性社員の育児休業を推進し始めたのは2009年度からです。もともと女性社員が8~9割を占める弊社は、仕事と育児を両立させている女性社員が活躍しているという実績もあり、男性社員にも主体的に家事や育児に携わってワーク・ライフ・マネジメントの実現を図ってもらいたいという考えから、男性社員に対しても育児休業を推奨するようになりました。

法改正をきっかけに、「男性社員の育児休業累計1か月以上100%取得」を目標に掲げ、男性の育休取組強化を図っています。男性育児休業をきっかけに、誰もがワークとライフを両立できる環境・雰囲気作り、つまり、男性育休に限らず療養休暇や介護休暇を含めて性別や年齢に問わずいつ誰がいなくなっても機能する強靭な職場環境の実現を会社一丸となって目指しています。こうした取組は、多様な社員への理解・協働を通じ風土改革および社員ウェルビーイング向上に繋がると考えています。

【質問⑥】企業にとって育休推進をするメリットとデメリットをどう考えているか(育休推進をしないデメリットを含む)教えてください。

■育児休業を推進するデメリット

育児休業を推進するデメリットは認識していません。

育休中に抜けた社員の穴埋めとして周囲の業務負荷が増えたり、また、人員補充をする必要が生じる等の対応が必要となりますが、そうした点は取り組むべき課題であり、デメリットとは感じていません。

育児休業を推進するデメリットとして、育休取得後の復職時もしくは復職後に社員が退職するリスクも指摘されることはありますが、今のところ育休をきっかけに退職した社員は弊社にはいません。弊社は前述の「育業計画書」において復職後のライフ・ワーク・マネジメントについてもしっかりと検討し、育児休業をきっかけに誰もが働きやすい職場づくりに取り組んでいます。こうした取組が弊社において退職者が出ていない要因の一つかもしれない。

■育児休業を推進しないデメリット

育児休業を推進しないデメリットは認識しています。例えば、最近入社する社員の7〜8割は育児休業を取得できるものと認識して入社しているというデータもあるため、そうした想いが叶わないことが会社への不満に繋がる可能性があると感じています。イクボスセミナーにおいても育児休業の取得を推進しないリスクとしてマネジメント層に対してもこの点を伝えています。

■育児休業を推進するメリット

育児休業を推進するメリットは沢山あります。

  • 所属・・業務の属人化の解消、働き方改革の推進

  • 家族・・社員の家族の育児不安軽減・女性活躍推進に繋がる

  • 本人・・育休をきっかけに地域コミュニティに入って人脈を広げることや育児経験を通じて、幅広い視野を得られるきっかけを得ることができる

  • その他・・ステークホルダーからの評価を受けられる→会社の持続的な成長にも繋がる

このようなメリットを踏まえると、育児休業を推進しないデメリットよりも、育児休業を推進するメリットの方が遥に大きいと感じています。

【質問⑦】組合からの要求で労働制度の改善がはじまることが多いが、制度拡充に向けた取組の始まりはどこからなのかでしょうか。

人事施策は労働組合がきっかけではじまることもありますが、今回は法改正もあったため人事部の人事企画課と関連所管で制度設計について検討を進めました。

【質問⑧】育休復帰後に仕事の負担を減らしたいという従業員のニーズもあると思うが、会社としてどのようにケアをしているか教えてください。

育児と仕事を両立するために新たな視点で働き方を見直すことで、働き方改革にもつながるなど、さまざまな波及効果が見込める取組であると考えています。

育休に限らずですが、マネジメント層の評価に「やめる・見直す・割り切る」項目を設けており、体制づくりを進めています。(自所属のみならず、次工程の業務負荷を考えた取組も含む)

【質問⑨】育休取得に関する上司の負荷は重いように感じるが、そのための対策は行っているのでしょうか。

育休取得については取得者とライン課長が調整しているため、上司のマネジメント負荷は確かに上がるかもしれません。ただ、当事者には上司に早めに育休取得に関して相談し、育休取得に際して生じる様々な調整業務に時間をかけて取り組むようにしています。こうすることで、育休取得をきっかけに業務削減や働き方改革に繋がり育休取得のメリットが生じることになります。

中にはこうしたマネジメントを負担に感じる上司もいるかもしれません。そうした場合は、人事部が随時相談を受けたり、また、必要に応じて人員補充も含め柔軟にサポートできる体制を整えています。

ただ、現在は育休取得期間が1か月と短いことからマネジメント負荷の問題が表面化していない可能性もあります。今後育休期間が長期化してくるとマネジメントの負荷も高くなる可能性もあるので、その点については今後も注視していきたいと考えています。

インタビュー後記

「育休パパが聞いてみた」の企画は企業の人事部の方々に育休推進のリアルな実情を育休パパ目線でヒアリングする企画ですが、第一回目を引き受けてくださった「第一生命保険株式会社」には心より感謝いたします。

加えて、その取り組みも素晴らしいものでした。

■第一生命の育休推進について感じたこと

育児休業の推進に向けた多種多様な施策を講じており、その効果が確実に出ていると感じました。特に、育児休業を取得する男性社員に最大20日間の積立公休(有給)を付与する制度や「育業計画書」の作成は素晴らしく、会社としての本気度が伺えました。

2022年度はこうした施策の効果で育休取得率9割、育休取得期間も22日間と対前年度比で倍増しています。

加えて、男性の育児休業を働き方改革やワーク・ライフ・マネージメントを推進する上での機会ととらえ、最終的なゴールを「いつ誰が休んでも会社が回る組織体制」や「誰もが働きやすい職場」といった育休推進の先を見据えて設定していることも働き手のことを親身に考えた素晴らしい社風と感じました。

今後は育休取得期間のさらなる長期化を目指すとのことですが、その過程ではこれまで見えてこなかった育休推進での課題も見えてくるかもしれません。ただ、そうした課題に対しても会社組織としての合意形成のもと力強く邁進されるのではないかと感じました。

■インタビュワーの感想

・これだけ推進されていても取得期間平均は1ヶ月未満ということを知り、長期化のハードルは高いのだなと思い知らされました。(ブロウ)
・先進企業として、男性育休を取り巻く日本社会の変革をリードして頂くことに期待しています。(いっしー)
・とても素敵な会社だと感じました。こんな会社で子育てがしたい!(シカゴリラ)

■第一生命のダイバーシティ推進

第一生命のダイバーシティ推進はこちらに詳述されています。

ダイバーシティ&インクルージョン|第一生命ホールディングス株式会社 (dai-ichi-life-hd.com)

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