漫画賞の受賞作は商標出願されているのか?

こんにちは。昨年に引き続き、パテントサロンの大坪さんが主催された知財系Advent Calendar 2021にエントリーしました。

さて、先日『このマンガがすごい! 2022』のランキングが発表されましたね!
受賞作は知らない漫画も多く、自分ではなかなか手に取らないタイプの作品を発見できる点も、こうしたランキングの楽しみです。

コミック大国日本には、漫画紹介ムックである『このマンガがすごい!』以外にも、『マンガ大賞』『文化庁メディア芸術祭マンガ部門』『手塚治虫文化賞』など様々な漫画賞があります。受賞作を眺めてみると、賞ごとに傾向が違っていて面白いです。

ところで、以前Toreru Mediaさんで書かせていただいた記事では、『週刊少年ジャンプ』の連載漫画には「作品名」が商標として出願されているものが少なくないことを紹介しました。

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このときはジャンプ漫画に絞って調べたのですが、「集英社以外の出版社も同じように商標出願をしてるのかな?」という点も気になっていました。
とはいえ、あらゆる漫画のタイトルをひたすらJ-PlatPatに打ち込む気力もなく……。

そこで漫画賞に注目しました。漫画賞には『小学館漫画賞』『講談社漫画賞』など個々の出版社が主催するものもありますが、『このマンガがすごい!』『マンガ大賞』などは出版社を問わず受賞作品を選定しています。
このため、漫画賞の大賞作品に絞って商標出願の有無を調べれば、省エネしつつ色んな出版社の傾向を見ることができそうです。

というわけで、この記事では、いくつかの漫画賞をピックアップして、「大賞」受賞作の作品名が商標出願されているかどうか調べてみました! またそのネタかよとか言わないで!

調査対象とした漫画賞
・このマンガがすごい!(オトコ編/オンナ編)
・マンガ大賞
・次にくるマンガ大賞(コミックス部門/WEB部門)
・全国書店員が選んだおすすめコミック
 (※個人的によく見ているものを独断で選びました)

1.漫画賞の大賞受賞作品

まず、上記の各漫画賞の大賞を受賞した作品をまとめました。
なお、複数回受賞した作品は、最先の受賞年で記載しています。

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懐かしいタイトルから最新作まで、幅広い作品が並んでますね!
読んだことのない作品も結構多く、知らない名作がこんなにあると思うと嬉しくなります。

出版社別の大賞受賞数をまとめてみます。集英社は圧巻……。

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2.商標登録出願の有無

次に、各作品のタイトルが商標として出願されているか調べてみました(2021年10月8日検索)。
商標登録出願がされていた作品を青字で示しています。

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スクエニの『薬屋のひとりごと』『わたしの幸せな結婚』はどちらも小説を漫画化した作品で、商標出願人も原作小説の出版社(それぞれ株式会社主婦の友インフォス、株式会社KADOKAWA)だったので、緑色で示しています。

出版社ごとに「商標出願された作品数」/「大賞作品数」(商標出願率)をまとめました。

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3.各出版社について

(1)集英社

受賞数もさることながら、商標出願率も圧巻の73%と、漫画出版界の雄として貫禄を見せつける結果になりました。

先日Toreru Mediaさんで書いた鬼滅記事でも触れましたが、集英社は漫画を著作物として保護するだけでなく、メディアミックス・商品化・様々な業界とのタイアップなどを通じて、漫画作品のブランド化を積極的に進める方針を取られているように思います。
商標権による保護も、そうしたブランド化戦略の一環なのではないでしょうか。

(2)小学館

小学館は、大賞11作品のうち『銀の匙 Silver Spoon』『からかい上手の高木さん』の2作品について商標出願をしています。

どちらも発行部数が1000万部を超える大人気作で、商標出願されていない他の9作品と大きく差をつけています。
このレベルまでいかないと、なかなか商標出願には至らないということでしょうか。

(3)講談社

講談社は、大賞10作品のうち『ちはやふる』『進撃の巨人』『鬼灯の冷徹』の3作品について商標出願をしています。

いずれも30巻を超える長期連載の大人気作品で、連載中に商標出願がされています。
商標出願されていない他の8作品との大きな違いは、単行本の巻数や売上でしょうか?

『とんがり帽子のアトリエ』なんかは世界中で絶賛されていますし、商標を取っておいてもイイ気がしますね。

(4)秋田書店

秋田書店の大賞受賞作のうち、商標出願がされたのはマンガ大賞を受賞した『BEASTARS』のみです。

アニメ化された人気作で、発行部数も750万部を超えており、他の作品と比べても売上はダントツでしょう。

(5)KADOKAWA/エンターブレイン

商標出願率が集英社の次に高かったのがこちら。大賞を受賞した5作品のうち『テルマエ・ロマエ』と『ダンジョン飯』について商標出願がされています。

『テルマエ・ロマエ』の発行部数は圧倒的ですが、『ダンジョン飯』を出願しつつ『乙嫁語り』『坂本ですが?』を出願しない判断基準が気になります。というかダンジョン飯まだアニメ化しないの?

(6)一迅社

一迅社は、『ヲタクに恋は難しい』のみ商標出願をしています。

他の2作品(『うらみちお兄さん』『先輩がうざい後輩の話』)は、次に流行りそうな漫画を対象とした『次にくるマンガ大賞』の大賞作なので、少し優先度が落ちるというところでしょうか。

(7)スクウェア・エニックス

集英社を超えて驚きの出願率100%を打ち出したのがスクエニ社。

……とはいえ、『薬屋のひとりごと』も『わたしの幸せな結婚』もスクエニ社ではなく原作小説の出版社が商標出願をしているので、これだけでは何とも言えないところです。

(8)祥伝社・マッグガーデン・星海社

この3社は、大賞受賞作について商標出願が確認できませんでした。

4.まとめ

ということで、出版社ごとに傾向がかなり割れた結果……というか、ざっくり言うと、

(1)めちゃめちゃ出願してる集英社
(2)特に発行部数の多い作品に絞って出願している大手の漫画出版社
(3)商標出願をしていない(漫画的には)中小規模の出版社

に分かれる結果となりました。

なんとなく各出版社の「漫画」に対するスタンスの違いみたいなものが感じられて、興味深いところです。

今回は特定の漫画賞の大賞受賞作に絞って商標出願を調べたので、例えば『名探偵コナン』『寄生獣』といった今更な作品や、惜しくも大賞を逃した入賞作品『ハイスコアガール』『月刊少女野崎くん』などは調査対象に含まれていません(どれも商標出願されています!)。

ここからいくらでも深堀りできそうですが、時間がないので今日はここまで!

来年の漫画賞の発表も楽しみです!

最近の推し漫画はジャンプ+でやってる『ハイパーインフレーション』です。みんな読んでね!!

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