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鉄腕アトムの路上アート,オークションにかけて売ることはできたのか?

 フィラー特許事務所では,これまでSNS等を通じて知的財産制度活用に役立つ情報発信を行ってきましたが,情報の性質上事業に携わらない方にまで知られることが好ましくない内容に触れることが多く,業界の秘密を保つ必要性を考慮して郵送によるニュースレターの発行に移行することにいたしました。

 この記事は,2022年8月号のフィラーメソッドニュースレターから1記事を特別に公開するものです。詳しくは,フィラー特許事務所までお越しください。

フィラーメソッドニュースレター
【note限定】特別の情報をオンラインで提供します

ちょい読み8月号

 2022年6月,東京都渋谷区の高架下に書かれた「鉄腕アトム」の絵が撤去されたという報道がありました。この鉄腕アトムの絵は,正体を伏せて活動する有名芸術家とされる人物が創作したもので,価格にすると1億円を超える値がつく可能性もあるのだとか。

 そこで,この鉄腕アトムの絵を撤去した渋谷区に「お金になったのに!」という批判が寄せられているといいます。「この絵をオークションにかけて売却し、それを財源にするような柔軟な思考はできないのか、これだから日本の行政はセンスがない。」という趣旨のコメントがSNS媒体のニュースなどで多く発信されました。では,実際にこの路上アートと呼ぶべき「鉄腕アトム」の絵を,渋谷区はオークションにかけて売却できるのか,検討してみましょう。

 結論から言うと,路上アートといえども立派な著作物なので,著作権者に無断でこの絵を第三者に譲渡することはできません。さらに,この鉄腕アトムの絵は2次創作となりますから,鉄腕アトム(虫プロダクション)と,この路上アーティストの双方から著作権の譲渡を受けて,初めてオークションが可能になります。

 一方,自己の所有物の所有権に基づいて,他人によって施された落書きを抹消して原状回復することは当然に認められる権利です。自由に消してよいからと言って,自由に売ってもよいとはならないのが,知的財産権法の世界なのです。

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弁理士・中川真人
フィラー特許事務所(https://www.filler.jp