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大事務所には無理だと言われたのになぜ個人事務所では特許にできたのか?

勇気を出して大きな事務所に相談したのに「権利化は難しい」と言われていたけど,個人事務所の〇〇先生にお願いしたら特許になりました。

このようなことは珍しくありませんが,これは何も大事務所の弁理士よりも個人事務所の弁理士の方が優秀とか,そういう話ではなく,大事務所が単に仕事を引き受けられなかった事情があっただけで決して「権利化自体」が難しいというわけではなかったという場合も少なくないのです。

特許事務所版の共演NG

どうしても,大事務所はそれだけお客さんがいて儲かっているはずだから,個人事務所よりも安心で信頼できるという思いで大きな事務所に相談したくなるというのは普通の心理だと思います。
それはそうなのですが,大事務所には大事務所ならではの問題というものがあり,それがコンフリクトの防止です。

コンフリクトというのは,わかりやすくいうと共演NGのことで,犬山電気をクライアントにもつ特許事務所はサル川電機の仕事を受けられないとか,そういった一つの事務所が同業者のクライアントを複数抱えることで生じる利益の衝突を避けるために,電気はA社,化学はB社といった具合に事業ジャンルごとに特定の会社としか付き合わないことをコンフリクトの防止といいます。1事業1クライアント制などという言葉もあるくらいです。

そういうわけで,もし大事務所Xが犬山電気をクライアントにもっていて1事業1クライアント制を敷いていた場合,他の電機メーカーが単発案件を大事務所Xに相談したところで「(うちの事務所では犬山電気さんとの関係上)権利化は難しい」などと説明してしまうことがあるのです。
最悪なことに,最も重要な「うちの事務所では犬山電気さんとの関係上」の部分を伏せた上で。

特許事務所はどうやって規模を大きくするのか?

私も現場の声を一件一件聞いていてこのような「あの特許事務所Xに相談したのにできないと言われたから」というお話を頻繁に耳にしました。関西では名だたる巨大事務所であることが多く,さらに悪いことに「それで諦めたんですけど」と,他の事務所に回ることもなくその発明はそのままお蔵入りしたという場合が珍しくないのです。

ここまでのお話で,1事業1クライアント制なんかがあるとしたらどうして特許事務所は大きくなれるのか?と疑問を持たれた方もいらっしゃるのではないかと思いますが,単純にその1クライアントが単独で年間数千件,数億円の大型案件を持ってきてくれるからというのが一般的な答えです。

製造業のあるあるは特許事務所にも

特許事務所といえども本当に出願業務だけを淡々とこなすだけであれば実質「(書類)工場」のようなものですから,どこの製造業でもあるあるのお話で「大企業Yの案件を受注したから将来安泰でこれで工業を大きくできるぞ!(でももう他の会社とは取引できないけどな)」というお話が特許事務所にもあるということです。

ただ,本当にコンフリクトを理由に仕事を受けられないのであれば,素直に「弊所は他の電機メーカーとの契約で御社の案件は受けられません。他の事務所でご検討ください。特許性は〇〇です。」と,丁寧にお伝えするべきではあると思いますね。弁理士倫理と言いますが。

フィラー特許事務所(https://www.filler.jp
弁理士・中川真人