Arc.3-【弁理士口述】ハラハラの試験時間は向こうも一緒? 試験官も緊張するようです
令和3年度(2021年度)弁理士試験論文式筆記試験の合格発表が行われました。合格された211名の受験生の皆様、本当におめでとうございます。
今回は、引き続き8ヶ月前に行われた令和2年度口述試験の再現レポートをお伝えします。
まず、試験室は同じ階の廊下に並んだ連続する3つの部屋を使います。手前から、特許、意匠、商標とA4のコピー用紙にプリンターで印刷された表札が貼られていて、各部屋の前に2脚椅子が置かれています。手前がこれから試験を受ける人用、向こう側が試験が終わった人用です。
試験時間は受験生のよってまちまちのため、向こうがつかえていると特許の試験が終わった受験生とこれから意匠の試験を受ける受験生が並んで待つことになります。時間としては長くはありませんが、さっきまで同じ控室にいた受験生と試験室の前でまた隣り合わせで座る時のなんとも言えない感じはまさに国家試験という重々しさがたまりません。
特許
そして特許の順番が来たのでノックをして入室します。手前には男性が二人。向かって右の先生が出題者で、左の先生がチェック者です。
この後、パネルの問題に入り、主に29条の2の適否についての質問が続きます。ただ、とにかく問題が多い。それは試験官の先生も薄々感づいているのか後半からはどこかお互いに焦り出して、ハイ、ハイ、ハイ、ハイとトイレに行きたい人の口調のようになんとか駆け足で全問を解答し、ほっとやれやれといった感じのタイミングで8分のベルがなり、
という安堵の空気と共に「(もう疲れたでしょう。)はい、これで特許・実用新案の試験を終わります。」という事実上の勝利宣言をいただき、私はとりあえずほっとして退室しました。
するとまだ意匠の受験生が控えていたので、私は特許の試験終了椅子に座って待ちます。この時、横に特許の順番待ちをしていた受験生と合わせて3人の受験生が並ぶわけですが、これから特許を受ける受験生の震えが明らかに伝わってくるのがわかります。
既に試験を終えた二人の先輩を前に、心の声で「(あと10分で楽になるぞ)」と応援メッセージを送り、特許と意匠の受験生が入室し、私は外で10分待たされます。
次は意匠が終わった受験生と椅子を隔てて並んで座ります。要はこの受験生が長かったせいで渋滞が起きていたわけですが、あまりうまく答えられなかったのでしょうか。どこか暗い雰囲気のまま商標の部屋にその受験生は入室していきました。
さて、意外と早く意匠の受験生が試験室から出てきたので、またその受験生と横に並びます。すると程なくして商標の試験室から先ほどのどこか雰囲気の暗い受験生が出てきました。
さっきとは打って変わって肩の力が抜け誘導係の職員の方にも「ありがとうございます」とか言いながら受験後控室に足取りも軽く向かっていきました。
意匠
次は意匠です。「意匠では、意匠権の効力について質問します。同じ意匠について、異なる日に2以上の出願がされました。この場合どちらの出願が意匠登録を受けることができますか。」
「(えっ同じ?)」カンの良い受験生なら今後の展開は想像がつくと思いますが、意匠権の効力とかけて異なる日に2以上の出願とくれば、問われるテーマは利用です。
しかし、私はついさっきまでゴリゴリの先後願関係の処理で脳を使いすぎていたこともあり、試験官の先生の質問の意図をかなり外し、やや戸惑ってしまっていたのですが、パネルに書かれていた意匠が自転車であることに気が付いて一気に混乱が解け、その後は利用関係の成立→実施不能→協議前置→裁定請求という一連の流れを予定調和的に答えることができ、「はい、これで意匠の問題は終わりです。」と勝利宣言をいただきました。
口述試験は2科目クリアすれば合格です。つまり、私はこの時点で合格し、もう商標は答えられなくても大丈夫という安堵感からか、自然と笑みが溢れます。
「ここからは採点には関係ありません。自由にお話を聞かせてください。弁理士試験を目指されたきっかけはなんですか?」これが噂の総括質問です。
そこで、私が10年選手であること、きっかけは小泉政権の知財基本法制定時にまで遡ることなどを説明し、私に興味を持ってくれた試験官の先生が「お仕事のご専門はなんですか?」と質問されたので、私が「化学系の素材開発です」と答えると少し残念そうな表情で「でしたら意匠法はあまり使われることはないですよね」と言われたので、私は間髪入れずに
とさっきまでのぎこちない受け答えとは裏腹に熱弁すると、
と試験官の先生も前のめり気味で答えられたので、
とこれまた間髪入れずに答えると
とうまくまとまったところで8分経過のベルが「ち〜ん」となり、
と科目の終了が宣言され、私は深々と笑みをかかげて「ありがとうございました」とお礼をし、試験室を退室しました。この一連の流れは、
にも詳しく書いていますので、ぜひ読んでみてください。
商標
さて、最後は商標です。私は「FIF/フィッシュ愛フィッシュ」を正面から論じて合格した猛者です。何かそのことについて聞かれるかと思ってワクワクして入室しましたが、商標だけは今までと雰囲気が違いました。まず、試験官の先生が二人とも女性です。
まず、試験室といえども客室なのでそれほど広いわけではありません。さらに、天井ライトがないので「ポシャ」とつくような電球色の灯りしかない薄暗い空間に大人が少なくとも3人対面して座っているのです。
商標の試験室はさらにカーテンまで閉めて、空いた窓から入ってくる風でたまに部屋が明るくなり、なんかとんでもないアジトのような雰囲気なのです。
「(またですか?)」ただ、今度はおそらく10号関連の問題だろうと推測をしながら答えていきましたが、どうも試験官の先生とうまくリズムが噛み合いません。どうやら純粋に出題者の先生が緊張されているようで、毎回隣のチェック者の先生の方を向いてはチェック者の先生がうなずくのを確認し、「はい、それでは、えっと、次ですね!」という焦りが私の方にも伝わってきます。
問題は商品がワインだったので17号か19号が来ると思っていましたが、15号と19号のバージョンを別々に聞いてくるものでした。とりあえず19号該当の可能性の説明が終わって「はい、これで商標の試験は終わりです。」と勝利宣言をいただきました。
「(終わった〜)」と筋弛緩法でもした後のような虚脱感を感じながら「ありがとうございます」とお礼を言った後、総括質問でも来るかと期待していましたが、無言の時間がなぜか数秒続き、「(んっ?)」と思っていると8分経過のベルがチ〜ンとなったので、「はい、お疲れ様でした。(もう出ていっていいですよ)」という謎の圧を感じ、私はそそくさと試験室を退室しました。
そこには誘導係の職員の方が優しく出迎えてくれていて、なんとこれから受験後控室に案内してくれるというではありませんか。私はとびっきりの紳士の笑顔で「ありがとうございます」などと言いながら足取りも軽く、、、どこかで聞いたフレーズです。
総括
これが今年2月に行われた最新の口述試験の様子です。受験生が心配しがちな条文の再現や特定のフレーズが出てこないと次に進めないという質問はひとつもなく、むしろ条文の文言通りにいかに正確に法律用語を使えるかという方に意識を向けられた方がいいのではないかというのが試験後の感想です。
特に「同一の発明について異なった日に2以上の特許出願があった」とか、「最先の特許出願人のみが」と言った正規の表現を使わないと、なかなか何を言おうとしているのか深く問われる傾向があるようです。
そのせいか、試験問題自体がやや漠然とした口語体を使っていたような雰囲気もありましたので、「甲が乙よりも先に出願しているからです」よりも、「甲が最先の特許出願人に該当するからです」という説明の方が、とにかくパッパッパと次の質問に移っていってくれますね。
弁理士・中川真人
フィラー特許事務所(https://www.filler.jp)