列島ジオ巡礼(1)高瀬の還流丘陵を現地確認してみた。(京都市右京区京北)
京都市右京区京北にある高瀬の吊り橋(魚ケ渕の吊り橋)は、枝垂桜と相まって美しい景観をなしています。
2021年1月に放送されたNHKの「京の楽園 里山の金メダル ~京都 京北~」でも、番組の冒頭で、吉田沙保里さんと松本薫さんがこの吊り橋を訪れていました。
https://www.nhk.or.jp/osaka-blog/eetoko/441491.html
(↑注……このリンク先自体にはこの吊り橋の写真などは無いのですが。)
この吊り橋の対岸にある小さな孤立丘陵があります。
(注 上記地形図は地理院地図(電子国土WEB)による)
これは還流丘陵(繞谷丘陵)であると思われ、この地点は単に、吊り橋と枝垂桜の景観が美しいだけでなく、悠久の自然史に触れる「地学遺産」としても語ることのできるスポットです。
還流丘陵の東の尾根の道は高瀬道といわれ、京都一周トレイル(京北コース)の一部分をなしています。
この記事は前半無料(文献での検討)、後半(現地確認報告)有料とさせていただきます。
(1)「ブラタモリ」でも紹介された地形「還流丘陵」
2020年2月に放送されたNHKの番組「ブラタモリ」のテーマは四万十川で、そのなかで四万十町大井川地区の還流丘陵が紹介されていました。
https://maps.gsi.go.jp/#15/33.215587/132.885733/&base=std&ls=std&disp=1&vs=c1j0h0k0l0u0t0z0r0s0m0f1
還流丘陵(繞谷丘陵)は、山地のなかで河川が蛇行するさい、蛇行がΩ(ギリシア文字のオメガ)の形のように進行し、最終的に短絡(貫通)することで形成される、孤立した丘陵です。
旧河道は馬蹄形に取り残されることが多く、ちょうど平地における三日月湖の形成と似た機構になります。
参考までに、下の衛星写真は和歌山県古座川町の「小川」の一部分です。これはまだ貫通はしていませんが、蛇行の短絡に近づいた、一歩手前の状況といえます。
ここで主に検討する「高瀬」と同じ京都市右京区京北エリアでは、有名な常照皇寺のある井戸寺山にも、滑らかな孤立丘陵があります。
その周囲の平坦面は五万分の一地質図「四ツ谷」でも更新世の低位段丘と記載されており、この孤立丘陵が還流丘陵である可能性は低くないと考えます。
https://www.gsj.jp/data/50KGM/JPG/GSJ_MAP_G050_11015_1994_200dpi.jpg
(2)高瀬の還流丘陵を地図で検討する
さて、京都市右京区京北のなかでも高瀬にある還流丘陵に戻って、まず地形図や空中写真の実体視などをもとに検討しました。
国土地理院の地形図は10m等高線(補助等高線は5m)、また京都府の統合型地図情報システムの「地形図」では2m等高線で表示できます。(後者は、下記リンクから白地図⇒地形図へと進んでいくことで表示できます)
https://g-kyoto.gis.pref.kyoto.lg.jp/g-kyoto/PositionSelect?mid=1
京都市左京区広河原付近に源を発した大堰川(桂川)は、広い山国盆地を経て周山より下流では、再び山地のなかを流れるようになります。
山地を侵食しながら蛇行して流れる状況は、日吉町を経て園部・八木で盆地に出るまでのあいだ続きます。
高瀬の還流丘陵は周山から約3km下流の左岸にあり、還流丘陵の山頂の高さは標高250mほどです。旧河道は標高230m~240mの高さにあります。
また旧河道の南端部分は、南側の斜面(もとの攻撃斜面に該当)から供給される土砂によって埋積され、やや高くなっていることが地形図から見て取れます。
もとは、上流側(還流丘陵の東側)の旧河道は北高南低の傾きを持っていたはずですが、その後の開析と埋積により今は、北低南高の傾きを持っています。
陰影起伏図でも表示してみましょう。
(注 上記陰影起伏図は地理院地図(電子国土)による)
地質図によるとこの付近の基質は砂岩・泥岩から成る付加体であり、ざっくり二億年というオーダーの歴史を持っているようです。
※丹波地帯研究グループ「丹波地帯の古生界(その2)京都府北桑田郡京北町南部の古生層」『地球科学』25巻5号(1971年5月)によれば、この付近は砂岩です。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/agcjchikyukagaku/25/5/25_KJ00005295685/_article/-char/ja/
地質調査所の地質図『京都西北部』の解説『京都西北部地域の地質』
(https://www.gsj.jp/data/50KGM/PDF/GSJ_MAP_G050_11027_1989_D.pdf)
によればこの付近では三畳紀後期の二枚貝化石や放散虫化石が確認されているそうです(12頁)。
この地質図『京都西北部』(https://www.gsj.jp/data/50KGM/JPG/GSJ_MAP_G050_11027_1989_200dpi.jpg)では高瀬は低位段丘堆積物として描画されており、これも旧河道という観察を補強してくれます。
なお高瀬の対岸、標高約三百mのなだらかな丘陵はこの地質図で高位段丘とされています。高瀬の旧河道より古い時代の段丘です。
空中写真(https://mapps.gsi.go.jpで閲覧できます)でこの高瀬の還流丘陵を実体視してみました。
実体視によりこの還流丘陵が、上から見た場合に「雨滴」や「いちじくの実」のような形状をしていることがよく分かります。短絡部に近いところ(北端)が尖っており、南端は丸くなっているのです。
そして上流側の旧河道(還流丘陵の東側)のほうが、下流側の旧河道(還流丘陵の西側)よりやや高くなっています。もし逆だったりすると困りますが、上流側の旧河道のほうが下流側の旧河道よりやや高いことは、この地形が還流丘陵であるという観察と整合的です。
「高瀬」という小字も、この地点が段丘化した旧河道であることと関連しているように思えてなりません。すなわち現在の河床より高いところに昔の旧河道が存在し、昔のせせらぎの音が響いてくるかのようです。現地に円礫があれば、旧河道であることが具体的に確認できるはずです。
この還流丘陵をGoogle Earthの衛星写真でも眺めておきましょう。
https://earth.google.com/web/@35.13980366,135.63101429,241.81722776a,700.31969401d,35y,0h,0t,0r
以上の検討のうえで、現地訪問の記録を以下にお届けします。カラー写真16枚を掲載し、それぞれにコメントをつけています。標高差200mうえの尾根に移動して、この還流丘陵を見た写真も含みます。
有料記事とさせていただきますが、取材にもいろいろな経費や時間が掛かっていますのでご了解ください。今後の取材に役立てさせていただきます。
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