嘆きの尖塔
ロンドンに帰りたい
ロンドンから遠く離れたこの領地に連れてこられ、私が今いるこの塔に閉じ込められた。
以前、私はロンドンで女王付きの侍女として仕えていた。
私は女王の信頼が厚いという強い自負があり、仲間内では一番の出世頭だと自他ともに認めていた。
容姿もそれほど悪くはないと思うし、この黒髪はつやつやとして豊かで自慢できるところだと思っている。
侍女・従僕の仲間は仲が良い。
貴族たちの表面上の親密さとは違い、目的が同じ仕事だからか仲間たちとは友達のような感覚だ。
そのうちの1人と私は特に親密で、女王に結婚の許しを得ようと話が進んでいる。
女王も許してくれるはずだ。
ある日女王に貴族たちがいる前に呼び出された私は、結婚の許しがあられると思っていた。
しかし、貴族の1人が褒美として私を所望したのだ。
女王は貴族が侍女に手を出すのを嫌っていたから許すはずはないと思っていたのに、女王は許してしまった。
私がその決定に逆らうことができるはずもなく、この貴族の領地に半ばむりやり連れてこられたのだった。
ここに連れてこられてから私はずっとロンドンに帰りたいと叫び続け、怒った貴族にこの塔に閉じ込められた。
この貴族は領地とロンドンを行ったり来たりしていて、ロンドンに行っているときは私をこの塔に閉じ込めていた。
今日はロンドンから戻ってくる日だ。
閉じ込められてから私は塔の頂上から周りの景色を眺めて暮らしていたが、ロンドンの大都会とは全く違う景色になんの慰めも見いだせなかった。
目に映るものすべてが色あせたつまらないものにしか見えなかった。
とにかくロンドンへ帰りたかった。
貴族がロンドンから戻ってきた。
塔に近づいてきた。
そして私は塔から身を投げた。
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