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『あちらにいる鬼』by 井上荒野

最近、井上荒野の『あちらにいる鬼』という小説を読んだ。

ご存知の方も多いと思うが、井上荒野氏は作家、井上光晴のお嬢さんであり、2008年に『切羽へ』で直木賞を受賞している。
彼女の著作もわりと多く読んでいると思う。

実はこれもまた、図書館でなぜ予約したのかまったく覚えていなくて(予約してから手元に来るまでかなり時間がかかったということもあり)なんの予備知識も持たずに読み出した。
白木という作家の男一人、みはると笙子という女二人のそれぞれの視点で交互に物語が進む。時代は昭和30年代後半からスタート。なぜこの時期の設定なのかなぁと読み進めるうちに、なんとなくこの主人公みはるのモデルは瀬戸内寂聴ではないか?と思い当たった。では白木は…?と調べたらなんと井上光晴がモデルだった。つまり、著者の父親である。そして、笙子は彼女の母親…要は自分の両親とその恋人であった女性、3人の物語を娘が描くという構図になっていた。

私はすべて読み終わってから、その事実を知った。

まず、そこには編集者からの勧めがあったそうだ。この3人を小説に書いてみませんか?と。
両親はともかく、瀬戸内寂聴は存命であり、それはできないと最初は断った。
その後、かねてから親交のあった瀬戸内寂聴にその話をしたところ、全面的に協力するから書きなさいと。「どんどん書いて。何でもしゃべるわ」と大賛成されたのだという。

井上荒野は、寂聴さんは父のことが本当に好きだったのだと思う、だからなかったことにはしたくなかったのではないかと語る。
確かに、出家の原因が本当に井上光晴だったのだとしたら、そうなのかも知れない。しかも、男女の関係ではなくなっても、終生二人の親交は続いたのだ。

ちなみに、単行本として出版されたときの帯の推薦文は瀬戸内寂聴によるものだった。

なかなかシュールな展開だとも言えるが、作家の家庭ってなんだかそんなのが多いですよね。檀ふみさんのお宅も『火宅の人』だし、開高健や吉行淳之介もそう。森鴎外だって、ドイツから追いかけてきた女性がいましたよね。佐藤春夫と谷崎潤一郎は奥さん交換してましたっけ。

というわけで、作家の家庭にはまともなものはあまりない。きっと鬼がいる。(たぶん)
と、勝手に括って終わります。

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