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FP1級実技|PartⅡ最新の傾向と対策(2024年6月受検用)

この記事では、FP1級実技面接PartⅡ(不動産)の過去3年間の出題傾向を分析し、2024年6月試験に向け、どのような分野の論点を重点的に対策しておくべきかを示します。

Photo by Jill Wellington via Pixabay

2023年9月試験までの傾向

2021年6月試験から2023年9月試験までの約2年間、計34設例における頻出の論点は以下の通りです。

  • 税制特例(所得税・相続税)
    14設例

  • 土地の有効活用(事業用定期借地権方式・建設協力金方式・等価交換方式※1など) 
    10設例

  • 共有不動産と共有の解消(売却・分割・交換※2) 9設例

  • 借地権
    6設例

  • 使用貸借
    5設例

  • 農地(農家の土地問題) 3設例

※1)立体買換えの特例を含む
※2)固定資産の交換の特例を含む


以下、各論点について概観します。

◆ 税制特例

所得税と相続税に関する以下の税制特例が出題されました。

令和5年・6年の税制改正の対象となったものは、その改正内容も含め、特に留意しておきましょう。

  • 居住用財産の譲渡所得の3,000万円特別控除+長期譲渡所得(10年超)の軽減税率

  • 特定の居住用財産の買換え(100%課税繰延)
    ⇒適用期限は2025年12月31日まで(R6税制改正)

  • 空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除
    ⇒適用期限は2027年12月31日まで。譲渡後の耐震改修・除却が可能に。相続人が3人以上の場合の控除額は各2,000万円(R5税制改正)

  • 特定の事業用資産の買換え(80%課税繰延)
    ⇒適用期限は2026年3月31日まで。集中地域以外から東京23区への主たる事務所の移転を伴う場合は60%、東京23区から集中地域以外への主たる事務所の移転を伴う場合は90%課税繰延(R5税制改正)

  • 収用等による資産の譲渡に関する特例(5,000万円特別控除か代替資産取得による100%課税繰延か)

  • 優良住宅地の造成等のための土地等の長期譲渡所得(5年超)の軽減税率(2.000万円以下が14.21%)
    ⇒適用期限は2025年12月31日まで(R5税制改正)

  • 保証債務の履行に係る譲渡所得の非課税

  • 住宅取得等資金の贈与の非課税
    ⇒適用期限は2026年12月31日まで。非課税限度額1,000万円となる省エネ等住宅の要件が厳しくなった(R6税制改正)

  • 地積規模の大きな宅地の評価

  • 立体買換えの特例

  • 固定資産の交換の特例

◆ 土地の有効活用

土地の有効活用(事業用定期借地権方式・建設協力金方式・等価交換方式)については、複数の案の比較という形でよく出題されます。

2023/9/30の設例などが典型的で、収支(賃料年額と固定資産税相当額との差)を比較させ、各方式の概要とメリット・デメリットが問われます。

特に、建設協力金方式のデメリット(普通借家契約の場合の賃料減額や途中退去のリスク)は狙われやすく、2023/6/18に続いて出題された要注意論点です

後述しますが、2024年2月試験でもやはり出題されました。

◆ 共有不動産と共有の解消

共有不動産については、2022年9・10月、2023年2月、2023年6月と、連続して出題されていましたが、2023年9月は出題がありませんでした。

そうした流れから考えると、これも2024年2月の要注意論点と思われましたが、案の定、出題されました。

まず、共有の解消方法をその課税関係と共に、しっかりと押さえておきましょう。

共有状態にある一つの土地では、「現物分割」「共有者間での売買」「共同で第三者へ売却」によって、共有関係を解消します。

また、共有している不動産が複数ある場合は、各持分を「交換」して、単独の所有地とすることができます。

この場合は「固定資産の交換の特例」の適用可否を検討することになります。

また課税関係については、一つの土地を分筆し、単独所有とする現物分割においては、持分割合に応じた評価額により分割できれば、譲渡益への課税は生じないことに留意しましょう。

但し、単純に面積で分割して、形状や立地の相違から単独所有地の評価額が持分割合と異なってしまった場合は、持分以上の経済的利益を得た側に贈与税が課される可能性があります。

以上の共有不動産をめぐる様々な論点については、次の記事で事例を交えて詳しく解説しています。

◆ 借地権

借地権については、地主との間で借地権と底地とを交換したり、別の親族が底地を買い取ったりするケースが狙われます。

前述のように、「交換」という手法は、複数の不動産の共有状態を解消する場合に用いられますが、一つの土地について、地主と賃借人が借地権と底地とを「交換」することもあります。(この場合も固定資産の交換の特例が使えます)

また、借地権のある土地の底地を別の親族が買い取るケースでは、「借地権者の地位に変更がない旨の申出書」が提出されます。

2022/2/13の設例では、借地権を親子が共有している状態で、母親が底地を買い取るという、やや複雑なケースが出題されました。

しかも、母親に相続が発生した後に売却したり(空き家の3,000万円特別控除の適用)、土地が私道(位置指定道路)に接していたりと、様々な論点が絡み合う難解な設例でした。

この設例については、以下の記事で取り上げています。

◆ 農地、使用貸借


農地(農家の土地問題)では、

  • 2021/9/25「生産緑地」

  • 2022/6/11「農家が所有する山林の売却」

  • 2022/10/1「農地の転用」

が問われました。

また使用貸借では、

  • 2022/2/12「貸宅地を使用貸借で借り受ける場合」

  • 2022/6/5「被相続人所有の敷地に子名義の建物が建っている場合」

  • 2022/9/24「父親所有の賃貸マンションを固定資産税等程度の家賃で借り受ける場合」

  • 2023/9/23「借地権と底地を交換して得た土地に長男が自宅を建てる場合」

が問われました。

農地については、2023年2月、2023年6月、2023年9月と出題がなく、いつ問われてもおかしくない状況です。

特に2022/10/1の設例は、TAC本には収録されていませんが、農地法(農地転用の届出)、地目変更と分筆の登記、共有の解消(現物分割と交換)、「保証債務の履行に係る譲渡所得の非課税の特例」など様々な論点が出てくる難解な設例です。

1級FP過去問解説と、そこにリンク先として示された面接体験記などで、じっくりと研究しておくことをお薦めします。

また、2022/6/11の設例は、「地積規模の大きな宅地の評価」と「優良住宅地の造成等のための土地等の長期譲渡所得の軽減税率」とが論点となるのですが、TAC本は後者には触れていません。

※ TAC本については、その他にも3点、気になる箇所(間違いと思われる箇所)があります。
以下のレビュー記事の最後の章、「提案例で気になった箇所」を参照して下さい。


使用貸借については、以下の記事でFP1級実技面接の過去の出題例を示しながら、詳しく解説しています。

2024年2月試験の傾向

次に、直近の2024年2月試験の出題を振り返ってみましょう。

2024/2/10 PartⅡ

  1. 2つの用途地域にまたがる場合の制限

  2. 建設協力金方式のリスク

  3. 母Bさん所有の土地に建てる建物の名義と課税関係(使用貸借)

1.は、2021/6/13 PartⅡで出題されており、当サイトの「伏線回収」Season1でも取り上げました。

2.は、上述したように、最近の頻出論点。これで3回連続(2023/6/18⇒2023/9/30⇒2024/2/10)の出題となります。

3.は、Aさんが土地を使用貸借で借り受けてAさん名義で建物を建てるという案が題意に沿っているようです。

但し当サイトでは、土地所有者以外が建設協力金方式を契約することが可能なのかどうか、相続対策を考慮すると法人名義が望ましいのではないかという点を踏まえ、母Bさん出資で法人を設立し、その法人が建設協力金方式を結ぶ案を最適解としました。


2024/2/11 PartⅡ

  1. 住宅ローンの「収入合算」と「ペアローン」の仕組み、メリット・デメリット

  2. 二世帯住宅を区分所有にした場合の課税関係(小規模宅地等の特例)

  3. 住宅取得等資金の贈与の非課税

1.はA分野(ライフプランニング)に関する出題ですが、2024/9/23 PartⅠでもA分野の「iDeCo+」が問われました。

2.3.は二世帯住宅を建築する際に、資金をどうするか(住宅取得等資金の贈与の非課税の活用)、名義をどうするか(共有か区分所有か)、課税関係はどうなるか(小規模宅地等の特例の適用)という一連の重要論点に係るもので、PartⅠでも頻出です。


2024/2/17 PartⅡ

  1. 姉Dさんの要求(賃貸アパートをもう1棟建てるために土地を割譲して欲しい)を抑えるための代替案の提案

  2. 兄弟に金融資産や土地を提供するための方法

  3. 土地を6つの画地に分割する開発案への意見

1.3.は、知識の単なる当てはめや、パターン思考が通用しません。

考えさせる良問と言えますが、15分という限られた設例読みの時間内で、与えらた情報や条件を整理し、解決策を思いつき、意見をまとめるのは、至難の業です。


2024/2/18 PartⅡ

  1. 「土地の無償返還に関する届出書」を提出する意味

  2. 建築費借入額を半分程度に抑えるための提案

  3. 土地の共有状態の解消

1.は個人と法人間の借地権に係る論点で、PartⅠでもよく出てきます。

今回は「使用貸借」の場合の扱い、この届出の代替策(相当の地代の支払い)、貸主である個人側の相続税評価などが網羅的に問われました。

これらの論点は、以下の記事ですべて解説済みです。


3.は上述したように、2024年2月の要注意論点でしたが、やはり出題されました。

2.は、上記2/17の提案等と同様に、「考えさせる」系の難問です。

面接体験記を読むと、建築費のための借入額の抑制=建築規模の変更という、借入額自体の削減のみにフォーカスしている思考から言うと、かなり意外な提案例が示されています。

当サイトでは、あくまでも法人としての事業転換と捉え、土地の切り売り、内部留保金の活用、そして補助金の活用を最適解として提示しました。

いずれにしてもこの2.は、誰もが「等価交換方式」を利用すればいいのではないかと考えがちです。

そんな定石通りのパターン思考を覆すような、シンプルに「考えさせる」系の問題が、2/17と2/18の設例で出題されたことになります。

2024年6月試験に向けて

以上より明らかになった最新の傾向を踏まえて、2024年6月試験のPartⅡに向けては、以下の諸点に留意して対策を進めていきましょう。

  • 頻出の5つの論点(税制特例、土地の有効活用、共有、借地権、使用貸借)に重点を置き、知識を整理する。

  • 「税制特例」はR6改正のもの、R5改正でR6施行のものに特に留意する。
    ⇒A分野(ライフプランニング)の出題が続いているので、R6の「住宅ローン減税」改正の概要も押さえておく。

  • 「土地の有効活用」は、各方式(事業用定期借地権・建設協力金・等価交換)の概要、メリット・デメリットを簡潔に即答できるようにしておく。

  • 「共有」は解消方法、現物分割の場合の課税関係、交換の特例などを説明できるようにしておく。

  • 「借地権」は、借地権と底地の交換、「土地の無償返還に関する届出書」と共に、「借地権者の地位に変更がない旨の申出書」と
     「借地権の使用貸借に関する確認書」の論点
    をよく理解しておく。

  • 「農地」は最近出題がなく、いつ問われてもおかしくない状況。2024/2/10では設例中に「特定生産緑地」が登場したものの、出題論点とはならなかった。2022/10/1 PartⅡの設例を素材に、論点研究に取り組んでおく。

尚、2024/2/17と2/18で出題された「考えさせる」系の提案や意見を求める問題については、なかなか対策が立てづらいのが実情です。

今後もこのタイプの出題が続くのかどうか定かではありませんが、本番の15分間の設例読みで、柔軟に思考を巡らせ、提案を多面的に検討する余裕を少しでも持つためには、やはりパターンや定石で答えられる標準的な設問への対応力をまずはしっかりと身につけておくことが必要です。

そして、実技面接当日のメンタル(緊張や不安)を、いかに上手くコントロールできるかも重要な要素となってきます。

そんな本番での緊張や不安をやわらげるためには、あらかじめ試験当日の流れを時系列で追体験し、各場面での心構えや対策を脳内でしっかりとイメージトレーニングすると良いでしょう。

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