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【設例解説】FP1級実技面接 2024/2/10 PartⅠ・Ⅱ

2月22日、金財の公式サイトに、先頃行われたFP1級実技面接の設例が掲載されました。

各設例の主な論点について、速報で解説します。

【更新情報 2024/2/24】
▶︎Part Iに「エンジェル税制」についての質問を追加しました。
▶︎Part IIの建築主の名義についての最適解を変更しました。
▶︎これに伴い、甲土地の課税関係に関する問答の記述を一部改めました。

  • 速報版のため、今後、修正や追加があれば随時更新します。

  • 設例から読み取れる範囲の論点、予想される質問について解説しました。実際の面接では、このような質問はなく、別の質問がされている可能性があります。

  • 冒頭や最後の定番問題の解説は省略しました。

  • まず、ラスパーが考える最適解(できるだけ受検生の口頭レベルに近づけたもの)を示し、それについての【解説】を付しました。

  • 設例は金財公式サイトを参照して下さい。

2024年2月10日 PartI

Aさん(60歳)は元ベンチャー起業家。会社売却のM&Aで得た資金で、不動産賃貸業を営みながら、エンジェル投資家としても活躍中です。

絵に描いたような超富裕層。気になっているのは「2024年1月からマンションの相続税評価方法が改正されたとの新聞報道」。

設例からはっきり見えてくる論点は、このマンションの相続税評価法の改正くらいでしょうか。

面接中でなされた質問を予想するのに骨が折れる設例です。


◆ 賃貸マンションを購入する場合の相続税上のメリットは何ですか?

現金であればその券面額で評価されますが、同じ金額で不動産を購入すれば、相続税評価額が低くなります。

また、取得に係る借入金は債務控除の対象となり、敷地は貸家建付地、建物は貸家として評価、小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等)を適用できる可能性もあります。


◆ Aさんが持っているマンションの概要図を見て、何か気づくことはありますか?

市場価格と相続税評価額の開きがかなり大きいと思います。

【解説】

  • 2.自宅:5,000万円(相続税評価額)÷2億5,000万円(市場価格)≒20.00%

  • 3.賃貸マンション:4,000万円÷1億5,000万円≒26.66%

    1. 4.賃貸マンション:1億5,000万円÷5億円≒30.00%

    一般に、分譲マンションの平均は40%程度、一戸建ての平均は60%程度とされていますが、改正では分譲マンションについて、現在の相続税評価額を補正する新たな評価方法が通達されました。


    ◆ 2024年1月からのマンションの評価の方法の改正について概要を教えて下さい。

    相続税評価額と市場価格との乖離が著しいマンションについては、築年数や階数などの指数に基づく「評価乖離率」により補正することで、相続税評価額を引き上げることになりました。

    【解説】
    現在の相続税評価額が市場理論値(以下の①×②)の60%未満となっているものは、市場価格理論値の60%になるように、現在の相続税評価額を補正します。

    ①現在の相続税評価額×②「評価乖離率」(築年数・総階数指数・所在階・敷地持分狭小度(専有面積と敷地利用面積の差分)の4指数で算出)×60%で評価。

    ★論点的中!
    マンションの評価については、昨年のタワマン節税への最高裁判決を踏まえ、「伏線回収」Season2の(10)タワマン節税で取り上げ、その後、昨年12月に今回の改正事項も解説中に反映させています。直前対策として伏線回収シリーズをご利用頂いた受検生の方は、今回の出題にも意外感なく対応できたはずです。


    ◆ Aさんの賃料収入(2,000万円)から、何か提案できることはありますか?

    法人を設立して、一部の賃貸マンションを法人名義とし、所得の分散を図ることを提案します。

    賃貸マンションを法人名義にし、家族を役員にすれば、賃貸収入は法人のものとなり、所得税と法人税の税率差効果に加え、家族への報酬支払により、所得を分散させることができます。

    また不動産は法人所有で、相続対象は法人の株式になるので、遺産分割がしやすく、評価減メリットもあります。

    【解説】
    賃貸経営の法人化は、所有型と管理型があります。所得分散効果が高く、相続税対策にも効果があるのは前者です。

    後者の管理型は「管理委託方式」(この場合、法人の収入になるのは賃料の5~10%程度)と「サブリース方式」(賃料の10~20%程度)。

    不動産を法人所有にする方法としては、売買と現物出資がありますが、売買は譲渡所得税がかかり、法人側で買取資金の手当が必要、現物出資は譲渡所得税がかかるものの、買取資金は不要、但し手続きが煩雑です。

    いずれも適正な時価での移転が求められます。

    ◆ Aさんのようなエンジェル投資家を対象とする税制がありますが、その概要を教えて下さい。

    「エンジェル税制」と呼ばれ、創業間もないスタートアップ企業への投資における、投資額の控除•売却時の損益通算•再投資の非課税などの一連の税制優遇策が措置されています。

    【解説】
    一定の要件のもと、対象企業への投資の際には、その投資額が、その年の総所得金額または株式譲渡益から控除され、また株式売却時には、生じた損失がその年の他の株式譲渡益と通算でき、通算しきれなかった損失は、翌年以降3年にわたって通算が可能となります。

    また、令和5年度税制改正において、株式売却で得た利益を再投資する場合は、一定額を非課税とする拡充策が盛り込まれました。

    ▶︎ 経済産業省「エンジェル税制」

    2024年2月10日 PartⅡ

    会社員のAさん(42歳)は休日に特定生産緑地で母Bさんの農作業を手伝い、いずれ会社を退職して農業に専念したいと考えています。

    母Bさん所有の「三大都市圏」にあるM市内の「1,100㎡」の甲土地は、「近隣商業地域と第一種低層住居専用地域にまたがって」います。

    甲土地はアスファルト敷きの月極駐車場として利用していますが、ある時、X社から建設協力金方式による出店の提案を受けます。

    ※上記の「」が論点を導く伏線となります。設例を読む時、センサーを研ぎ澄ませましょう。

    尚、本設例は2021年6月13日Part IIの明らかな改作です。

    【X社の提案内容】
    ・建設協力金方式
    ・店舗は鉄骨造平屋建て、延べ面積500㎡、建築費9,000万円、建物の固定資産税・都市計画税は年間70万円(見込み)
    ・建築資金は、建設協力金として全額X社が建築主に貸し付ける。
    ・賃借期間20年の普通借家契約
    ・敷金1,000万円、建設協力金9,000万円(20年間均等返済、無利息)、年間賃料2,400万円(建設協力金の年間均等返済450万円を含む)
    ・営業開始後5年間は解約しないが、その後は1年前の解約予告で退去可能

    ◆ 甲土地にX社が希望する店舗を建築することはできますか?

    できます。

    甲土地(1,100㎡)は、2つの用途地域にまたがり、その過半(700㎡)が第一種低層住居専用地域にあたるため、敷地全体を利用しての店舗の建築はできませんが、甲土地を分筆し、近隣商業地域(400㎡)が過半になるような敷地を作れば、そこに平屋建ての延べ面積500㎡の店舗を建築し、かつ分筆したもう一方の土地を駐車場として利用することが可能となります。

    【解説】
    このように意図的に分筆して作出した土地上の店舗建設が認められた判例があります。

    例えば、西側が近隣商業地域(400㎡)+第一種低層住居専用地域(200㎡)となるように2つに分筆すれば、その敷地は近隣商業地域となり、建蔽率は540㎡(※1)、容積率は1,000㎡(※2)となります。

    (※1)400㎡×100%+200㎡×70%=540㎡ 角地の耐火建築物とします。
    (※2)400㎡×200%+200㎡×100%=1,000㎡
    甲土地は幅員15m以上の特定道路による容積率制限の緩和対象で、計算すると約428%。指定容積率が200%なので、指定容積率を採ります。

    ★論点的中! 
    「伏線回収」Season1の第1問「用途地域」で取り上げています。


    ◆ X社の提案にはどのようなリスクがありますか?

    普通借家契約であるため、将来、賃料の減額を請求されるリスクがあります。

    また、途中解約された場合は、残った建物の仕様から他のテナントは入居し辛く、場合によっては賃料収入を得られなくなるリスクがあります。

    途中解約の際に、建設協力金の残債があった場合の扱いについて契約書の確認が必要です。(一般的には残債免除の特約が付されています)

    ★また出た! 2023年9月30日2023年6月18日のPartⅡでも出た頻出論点です。


    ◆ 甲土地にX社が希望する店舗を建築する場合、Aさんと母Bさんのどちらの名義で建築するのがよいでしょうか。その理由とともに教えてください。

    建設協力金方式は通常、土地所有者が建築主になることから、建物の名義は必然的に母Bさんとなります。

    但し、賃料収入の規模、今後の相続対策やAさんの収入補填等を考慮すると、Bさんがまず法人を設立してAさんを役員とし、この法人に甲土地を賃貸した上で、その法人がX社との間で建設協力金方式による定期借家契約を締結することを提案します。

    ※(追記) 2024/2/24
    当初速報時は、Aさん名義での建築(甲土地はBさんから使用貸借で借り受ける)を提案しました。その後、受検した方からご質問を頂き、そもそも土地所有者でないAさんが建設協力金方式による契約において建築主となれるかどうかについての疑念が生じ、色々調べましたが、確証を得られませんでした。

    設例の質問は「Aさんと母Bさんのどちらの名義で建築するのがよいでしょうか」となっており、出題側は「Aさん名義も可能」という理解のようです。

    賃料収入の金額規模を考えると、個人名義よりも法人名義のほうが良いのではとの判断もあり、本問におけるラスパーの最適解は、出題指示の枠組みからは外れる形になりますが、上記のように変更させて頂きました。

    尚、このように法人設立とセットで、その法人が土地所有者から土地を借り受けて、その土地の上に法人名義で建設協力金方式の契約を結んで建物を建てて貸すというスキームについては、以下のような実例があります。


    ◆ 甲土地の相続税の課税関係はどうなりますか?


    店舗のある敷地はBさんが法人に無償返還方式・通常の地代で賃貸すれば、自用地価額×80%の評価となり、一定の要件のもと、小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等)を適用できます。
    ※ 法人は不動産賃貸業を営むため、特定同族会社事業用宅地等には該当しません。

    分筆したもう一方の駐車場にする土地については、Bさんが設立した法人に賃貸して、法人がアスファルト舗装やその他の駐車場設備を設置した場合は、自用地価額から賃借権の価額を控除した額で評価されます。

    また、甲土地は三大都市圏にあり、容積率は400%未満であることから、分筆してもそれぞれが500㎡以上あれば、地積規模の大きな宅地に該当して、評価減を受けることができます。

    【解説】
    駐車場の評価については以下の記事を参照して下さい。



    Image by Dorothe via Pixabay

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