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【設例解説】FP1級実技面接 2024/2/17 PartⅠ・Ⅱ

2月22日、金財の公式サイトに、先頃行われたFP1級実技面接の設例が掲載されました。

各設例の主な論点について、速報で解説します。

  • 速報版のため、今後、修正や追加があれば随時更新します。

  • 設例から読み取れる範囲の論点、予想される質問について解説しました。実際の面接では、このような質問はなく、別の質問がされている可能性があります。

  • 冒頭や最後の定番問題の解説は省略しました。

  • まず、ラスパーが考える最適解(できるだけ受検生の口頭レベルに近づけたもの)を示し、それについての【解説】を付しました。

  • 設例は金財公式サイトを参照して下さい。

2024年2月17日 PartⅠ

X社(中会社の大・資金の余裕あり)では、代表取締役会長Aさん(72歳)から代表取締役社長の長男Aさんへ経営権は移行していますが、X社株式の承継は進んでいません。

Aさん所有のX社株式100%のうち30%はいわゆる「名義株」で、Aさんはその取り扱いと株式評価の仕組みを知りたいと思っています。

また、株式移転の際の税負担と、X社の本社土地建物(X社に賃貸している)の妻Bさんへの相続についてアドバイスを求めています。

名義株は、4年前の2020/2/8 PartⅠで出題されましたが、最近では見かけない論点です。


◆ 名義株とは何ですか?

実際の出資者ではないのに、株主名簿に名前が載っている状態の株式のことです。

【解説】
1990年以前の商法では、株式会社の設立時に、最低7人の発起人を集める必要がありました。

この時、頭数を集めるために、親族や友人の名前を借りた結果、実際には出資していないのに株主名簿に名前が記載されるケースが生じました。


◆ 名義株を放置すると、どのようなリスクがありますか?

実質の株主であるオーナーが後継者に株式を移転しようとしても、オーナー名義ではないので移転できないリスクがあります。

また、実質株主と名義株主のどちらかに相続が発生すると、名義を貸し借りした時の事情がわからなくなり、様々なトラブルが発生します。

【解説】
例えば、名義株主の相続人が自分は本当の株主だと誤解して会社に権利を主張したり、名義株が相続財産に加算されて、相続人に相続税が課税されるリスクが生じます。


◆ 名義株を解消する方法を教えて下さい。

名義株主の協力を得て、株主名簿を書き換え、株式が実質株主のものであることを確認する「確認書」を取り交わします。

【解説】
確認書は、名義株主から実質株主へ株式が贈与されたと、税務当局に受け取られるのを防ぐためのものです。


◆ X社の株式はどのように評価されますか?

中会社の大なので、L=0.90の併用方式で評価します。


◆ 長男Dさんにはどのような方法でX社の株式を移転しますか?

名義株の書き換えを行った上で、事業承継税制の特例措置を活用して、長男Dさんに贈与します。


◆ 令和6年度税制改正大綱における事業承継税制の特例措置の改正点は何ですか?

特例承継計画の提出期限が2026年3月31日までとなりました。

また、2027年12月31日までの本特例の適用期限については、延長しない方針が示されました。


◆ 経営に関与していない妻BさんにX社本社の土地建物を相続させると、どんな問題がありますか?

事業用資産が、妻Bさんの個人的な事情や意向によって、会社と関係のない第三者に遺贈・譲渡されるといった事態がないとは言い切れず、X社が経営的なリスクを抱えてしまうという問題があります。

【解説】
「経営に関与していない妻Bさんに事業用資産を相続させること」の問題点は相続税の課税関係(特定同族会社事業用宅地等に該当しなくなる点)に留まらず、まず大きな問題として以上のような経営的リスクが想定されます。

◆ X社本社の土地建物を妻Bさんが相続する場合と長男Cさんが相続する場合とでは、相続税の課税関係にどのような違いがありますか?

長男Cさんが相続した場合、土地は小規模宅地等の特例における特定同族会社事業用宅地等(400㎡まで80%減)に該当しますが、妻Bさんが相続した場合は、貸付事業用宅地等(200㎡まで50%減)となります。

【解説】
長男Cさんは、申告期限時点でX社の役員であり、申告期限まで土地の保有を継続し、X社が事業を継続すれば、特定同族会社事業用宅地等の該当要件を満たします。

一方妻Bさんは、申告期限時点でX社の役員ではないので、特定同族会社事業用宅地等の該当要件を満たしませんが、申告期限まで土地の保有を継続し、X社への貸付を継続すれば、貸付事業用宅地等の該当要件は満たします。


◆ X社本社土地建物は、どのように承継すれば良いですか?

長男Cさんが相続して、特定同族会社事業用宅地等として小規模宅地等の特例の適用を受け、相続税の申告期限の翌日から3年以内に資金的に余裕のあるX社に売却すれば、相続税の取得費加算の特例も適用され、課税負担を抑えることができます。

【解説】
事業用資産を妻Bさんが所有する経営リスクを取り除きつつ、妻Bさんが賃料収入を得られるようにしたいとのAさんの意向も汲むためには、次のような方法も考えられます。

  • 長男CさんがX社の本社土地建物を相続した後に、資産管理会社を設立

  • 相続した建物のみをその会社に譲渡または現物出資する(土地は通常の地代・無償返還方式で賃貸)

  • 母Bさんをその会社の役員にして、役員報酬を得られるようにする
    →X社からの賃料収入の一部が母Bさんに移転される

  • いずれはこの資産管理会社へ本社土地やAさん所有のX社株式も移転する(株式移転は「株式交付」を活用。株式の法人所有は配当金収入面で課税メリットがある)

◆ X社が本社土地建物を取得した場合、X社の株式評価(純資産価額方式)において、どのようなメリットがありますか?

取得してから3年以内は通常の取引価額(時価)で評価されますが、3年を超えると相続税評価額で評価されるので、その差額がX社株式の評価減につながります。

2024年2月17日 PartⅡ

Aさん(72歳)は首都圏近郊のK市に住む土地持ちの資産家です。

3人の兄弟(姉Dさん、弟Eさん、妹Fさん)がいて、父親の遺産である広大な甲土地を分割して、甲-1~5土地の形で相続し、現在は以下のような状況になっています。

  • 甲-1土地(1,240㎡)はAさんが相続し、貸駐車場としています。

  • 甲-2土地(224㎡)は弟Eさんが相続して売却し、そこに賃貸アパートが建っています。

  • 甲-3土地(224㎡)は姉Dさんが相続し、そこで賃貸アパートを経営しています。

  • 甲-4土地(224㎡)は妹Fさんが相続し、貸駐車場としています。

  • 甲-5土地(728㎡)はAさんが相続するにあたって、マンション事業者に売却して納税資金に充当しました。

甲土地は、周囲にマンションやアパートなどの共同住宅が多くあり、比較的まとまった土地への需要が高い地域にあります。

以上のような兄弟間での土地所有状況を踏まえ、次のような “争族”ストーリーが展開します。

  • Aさんに肺がんが見つかる。

  • Aさんは相続対策として、甲-1土地に賃貸マンションを建てることを計画。

  • 父親の遺産分割に不満を持ち、さらにAさんの子Cさんが養子(妻Bさんの妹の子)であることからAさんの相続にも懸念を持った姉Dさんが、Aさんに財産の分与を要求。

  • Aさんは手元資金から兄弟それぞれに現金3,000万円を提供することを決め、弟Eさんと妹Fさんは受諾。

  • しかし姉Dさんは、現金ではなく、アパートをもう1棟建てたいからと、甲-1土地の一部である甲-a土地(224㎡ / 甲-3土地と地続き)の割譲を要求。

  • 甲-a土地の割譲は賃貸マンション建築計画に大きく影響するため、別の位置にある甲-b土地(224㎡)を提案したが、姉Dさんは地続きの甲-a土地でなければ絶対駄目と、提案を断る。

  • 頭を悩ませているAさんは不動産会社から「甲-a土地が姉Dさんの所有になるなら、賃貸マンションの建築は諦めて、今後換金しやすいように、甲-1土地に開発道路を通し、6画地に分割する開発をしたらどうか」と勧められた。

設例読みの15分間で、ストーリー展開を追い、必要な情報を整理・把握し、甲-a土地割譲の代替案、3,000万円の提供方法、開発案への見解をまとめる切るのは至難の業です。

2024年2月実施分では、最も難しい設例と言えるでしょう。


◆ 姉Dさんに納得してもらうためには、甲-a土地を割譲する以外に、どのような方法が考えられますか?

Aさんが建築を計画している賃貸マンションの部屋(区分所有建物)のうち、3,000万円相当分の部屋を姉Dさんに贈与します。

姉Dさんは自分の持分となったこの部屋から賃料収入を得ることができ、甲-a土地を取得して自ら賃貸アパートを建て、賃料収入を得るのと同じ経済的利益を手にすることができます。

【解説】
甲-a土地を姉Dさんの持分とした上で、それを提供してもらう代わりに、区分所有建物を提供する形で贈与する、いわば「等価交換方式」の応用です。

3,000万円相当の評価額となる賃貸マンションの部屋数については、不動産鑑定士に算定を依頼します。


◆ 兄弟に現金3,000万円や土地を提供するには、どのような方法が考えられますか?

贈与または遺贈の方法があります。


◆ 兄弟間の贈与について説明して下さい。

兄弟間なので相続時精算課税制度は使えず、暦年贈与となり、一般贈与財産として贈与税が課されます。

不動産の贈与の場合は、贈与税の他に、不動産取得税と登録免許税も課されます。

【解説】
不動産取得税=土地の固定資産税評価額×1/2(※宅地)×税率3%(※土地・住宅用家屋)
※2027年3月31日までに取得した場合
登録免許税=土地の固定資産税評価額×税率2%


◆ 兄弟間の遺贈について説明して下さい。

遺贈は、相続税の基礎控除が適用され、相続税率は贈与税率よりも低いですが、兄弟の場合は相続税の2割加算の対象となります。

不動産の遺贈については、本設例のような特定遺贈のケースでは、贈与の場合と同様に不動産取得税が課され、登録免許税も課されます。


◆ この設例では3,000万円をどのように提供するのが良いですか?

兄弟間では相続時精算課税制度が利用できず、受贈者側に多額の贈与税がかかるので、Aさんが公正証書遺言を作成し、遺贈を行う方向で検討したほうが良いと思われます。

【解説】
生前贈与で贈与税を抑えるためには、毎年、贈与契約書を作成し、暦年贈与の基礎控除額を目安に、定期贈与とみなされないように贈与していくことになります。

また、不動産の贈与の場合は、毎年、不動産の評価額を算定し、所有権移転登記の手続きを行わなければなりません。

ただ、兄弟の年齢やAさんの健康状態(肺がん)を考えた場合、長期間にわたる暦年贈与は現実的とは言えません。


◆ X社の社長から勧められた開発案について、どのように思いますか?

真ん中に開発道路を通しているため、売却可能な画地A〜Dの地積の合計は区画前の甲土地の地積の70%ほどにとどまっており、譲渡・換金した場合に得られる対価が目減りしてしまいます。

また、画地A~Dの需要については不安があります。

甲土地は、周囲にマンションやアパートなどの共同住宅が多くあり、比較的まとまった土地への需要が高い地域です。

画地A~Dの面積は各180㎡ほどですが、実際に賃貸アパートが建っている甲-2や甲-3の224㎡に比べても小さく、この地域で需要のある賃貸アパートなどの敷地面積として果たして十分と言えるのかどうか。

また、この画地が戸建て用を想定しているとすれば、この地域の戸建てニーズはどれくらいあるのかなど、そのあたりが不安材料です。

従って、区画の方法としては、姉Dさんに贈与する甲-a土地を除く部分について、開発道路は作らずに、比較的まとまった広さに二分することを提案します。

【解説】
どちらかは若干不整形な土地となりますが、画地A+画地B+開発道路としている土地の一部で1区画、画地C+画地D+開発道路としている土地の残りの部分でもう1区画という分け方です。


◆ 以上を踏まえ、トータルなあなたの提案を聞かせて下さい。

Aさんは、計画通りに賃貸マンションの建築を行い、公正証書遺言を作成し、姉Dさんへ賃貸マンションの居室を遺贈し、弟Eさん・妹Fさんへ現金3,000万円を遺贈することを提案します。

Photo by Wolfgang Weiser via Pixabay

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