13:30の憂鬱

晴れている。

こんなに雲ひとつない青空は久しぶりだ。
青さが目にしみる。

冬物のスーツでは少し暑い。
そういえば今日は天気予報を見ていなかった。
こんなに気温が上がるなら着てこなかったのに。

コーヒーを買いに早くコンビニに行こう。
どうもここの会社とは合わない。
営業先の担当者で好きなヤツなんていないが、ここは特に嫌いだ。
呼びつけておいて無駄話で時間を潰し、結局何も買わない。いつものことだ。
田舎の中小企業は相当暇なのだろう。

自慢じゃないが、俺の会社はそこそこ名の知れたメーカーだ。
俺とあいつとじゃ給料だって倍近く違うだろう。
だけどあいつは俺にタメ口で俺はあいつに敬語で話す。
仕事とはそういうものなのか?
死ぬほどの思いで就活してやっと入った会社でやりたかったのはこんなことなのか?
そもそも俺は営業に向いているのか?
もっと他にあるんじゃないか?

運転しながら自問自答してストレスが溜まる。

これもいつものことだ。

もやもやしたままアイスコーヒーを買い、半分程一気に飲んだ。
車を日陰に止め直し、慣れた手つきで背もたれを一気に倒す。業務中に寝るのは営業マンの特権だ。

手探りで電子タバコを取り出し、スイッチをつけると電池切れの赤いランプが付いていた。

何もかもが俺をイラつかせる。
先週からずっとそうだ。

電子タバコを助手席に荒く投げつける。
カチャっと蓋が開く音がして中身が足元に転がっていく気配がした。あれはきっと起きた後の俺をまたイラつかせることだろう。
でも今は拾わない。


1時間くらい経っただろうか。
そろそろ事務所に戻らないといけない。
いや、もう一件回って直帰しようか。

案の定電子タバコは助手席の下に転がっていたし、俺はそれに対してイラついた。

百合がいなくなってからほんとうに何もかもがうまくいかない。

先週の事だ。

突然、改まってどうしたのかと思いきや同棲解消と別れを告げられた。

同棲してからというもの、どこかに2人で出かけることもなくなり、最近では生活時間もすれ違うようになった。
食べるのか食べないのか分からない俺の飯を作り、平日も休日も疲れたと言って何もしない俺の為に家事をするのが嫌になったらしい。

そんなことを思っていたなんて思いもしなかった。

確かにすれ違ってはいたが、朝には一緒に起きていたし、「今日は寒くなるらしいよー!」なんて言いながら笑顔で卵焼きを焼いていたじゃないか。

このまま普通に結婚して生活していこうと思っていたのは俺だけだったのか。

かなり引き止めたが、百合の意思は固かった。
話がまとまるとすぐに荷物をまとめて出て行った。
もう俺に話す前から新しい部屋も引越し屋も手配していたようだ。

そうして百合との関係が終わった。

思い出しては沈み、なんとか切り替えて日常生活に戻ろうとしている。

携帯を見るとサクラからメッセージが来ている。
まただ。
俺と百合とサクラは大学時代同じサークルに入っていた。
サクラは百合の親友だ。
花の名前を持つもの同士仲良くなったと言っていた。

百合から連絡がいったのだろう、先週からずっとメッセージを送ってきている。

内容は見なくてもわかる。

俺への非難と百合への謝罪要求だ。

ほっといてくれよ。
頼むから。

ああ、もう本当になにもかもうまくいかない。
ハンドルを軽く殴った。

今度は社用の携帯が鳴った。
同期の川島だ。
飲みの誘いだった。
そうか、今日は金曜日だ。
斜に構えて物事を見てしまう俺には殆ど友達と呼べる人間はいない。
だが、80人いる同期の中でこの川島だけは別だ。

明るくて愛嬌があり俺とは真逆の人間なのに、なぜか俺を面白がって一緒についてくる。

鬱陶しさを感じないギリギリで歩み寄るのが本当に上手い。

川島はサクラのように俺を非難するだろうか。
だが、川島の意見はあるにしろ、こっちが引くほど真剣に考え、相談に乗ってくれるだろう。
川島とはそういうやつだ。

定時まであと少し。
焼き鳥とハイボールが恋しい。
早く戻ろう。

俺はエンジンを少しふかした。

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