見出し画像

光害関連ニュースまとめ 2024年1月

2024年1月の光害関連ニュースです。地震や事故と重苦しい幕開けとなった2024年。夜空を眺めてゆっくりできるときが来ることを願っています。

※このシリーズのヘッダ画像は毎回Midjourneyで作っています。


地上の光害に関するニュース

みんなで取り戻す、美しい夜空

2024年1月5日、国立天文台広報ブログに掲載の記事。私が室長を務める周波数資源保護室の特別客員研究員である、星空公団の小野間さん執筆の記事です。昨年9月に開催した星空環境保護研究会の報告と、環境省の令和5年度冬の星空観察への参加のお誘いが主題でした。サムネイルになっている航空写真は、昨年8月に私が伊丹から新千歳に向かうときに撮影したもので、京都市中心部を撮ったものです。京都市の北西側には、飛行機に向かって光がやってくるような照明がいくつかありました。あれは何だったんでしょうね。

【倉本 聰:富良野風話】光害

2024年1月7日、財界オンラインに掲載された記事。脚本家 倉本聰さんのエッセイです。誘客のためのライトアップがあふれる世界に対して、かなり直接的な言葉で嫌悪感を表されています。ライトアップされた景色の価値も個人的には認めざるを得ないと思っていますが、どこもかしこもとなってしまうと確かに興ざめです。暗さを誇る、あるいは上品な照明を誇る文化も育っていってほしいと思います。

世界的照明デザイナーも憂慮 夜間照明による「光害」が増加

2024年1月15日、軽井沢ウェブに掲載された記事。別荘地として名高い軽井沢でも、配慮のない照明によって光害が生まれている状況を報じています。

軽井沢町の自然保護対策要項では原則として、夜間照明を禁止している。やむを得ない場合は、必要最小限の設置、日没から21時までの使用と定められている。

【軽井沢新聞12・1月号】世界的照明デザイナーも憂慮 夜間照明による「光害」が増加

というのは初めて知りました。軽井沢にゆかりのある照明デザイナーの石井幹子さんも懸念を表明しているとのことで、まずは光害の現状を調査して、そのうえで夜間景観整備の方策を立ててほしい、という要望を出されています。都会と別荘地では照明の使い方は違って当然。どこでも明るく照らせばいいというわけではなく、その場所その時にふさわしい照明があるのだ、という意識を広げていきたいものです。

平塚市のライトダウンキャンペーン、1月18日

2024年1月14日、湘南人に掲載された記事。平塚と言えば七夕まつりも有名ですが、冬にもライトダウンキャンペーンをやってるのですね。「日頃の過度な照明や環境問題、光害(ひかりがい)の問題について市民に考えてもらうキャンペーン」とのこと。実効的に空がどれくらい暗くなるのかはわかりませんが、こうしたイベントを続けていけば光害に対する意識は醸成されていきそうです。まずは身近なところから始めてみる、というよい機会にもなりそうですね。

福井県大野市のライトダウンキャンペーン、2月に。

2024年1月27日に中日新聞に掲載された記事。星空保護区を擁する福井県大野市でもライトダウンキャンペーンが行われるそうです。「星空が特に美しく見える冬に実施し、認定の周知や脱炭素社会の推進につなげる」とのこと。昨年に大野市南六呂師地区が星空保護区に認定されて、暗い夜空を守るという機運が高まっているのでしょう。星空保護区の認定には地元の理解や協力が欠かせません。認定に至る審査中にそれを示すことは重要ですが、もちろん認定後にもそうした取り組みが継続されていくことが本質的に重要。地元に根付いた文化となっていくことを願っています。

東京から最短約45分の島・神津島へ!美しい星空と水が作り出す島の魅力にふれる旅

るるぶ&moreに2024年1月29日に掲載された記事。神津島観光の紹介記事で、「美しい星空」が魅力の一つとして紹介されています。星空保護区に認定されて、島全体が暗い夜空を守る活動に取り組んでいることにも言及されています。暗い夜空そのものだけでなく、こうした取り組みまで含めたストーリーが旅行先としての魅力を高めてくれるならありがたいことです。神津島への飛行機が出ている調布飛行場は国立天文台三鷹キャンパスと目と鼻の先ですので、ついでに三鷹にも寄っていただけると嬉しいですね。

なぜ虫は光に群がるのか、長年の謎をついに解明、最新研究

2024年1月31日付でナショナルジオグラフィックに掲載された記事。1月30日付の学術誌Nature Communicationsに掲載された論文をもとに『虫が明るい場所に向かって飛ぶのは、光に引き寄せられるのではなく、光の方向を「上」と勘違いしているせいだった。』ということを紹介しています。
人工光が昆虫に与える影響として一番わかりやすいのは、街灯に虫が群がっている様子でしょう。光に向かって飛ぶ「走光性」を持つためですが、その基本的なメカニズムが解明された、ということのようです。
光が来る方向を「上」と認識しているなら、下から上に向けて光が出ている場合、昆虫は上下がわからなくなって墜落してしまうということになります。実際に実験でもそれが確かめられたそうです。上方への人工光は天文観測にとっても大敵ですので、星空も昆虫も守るために、できるだけ光を上に逃がさない照明が求められる、ということになります。

天文学と衛星コンステレーションに関するニュース

夜空の光、1割が人工衛星

2024年1月6日に日経新聞に掲載された記事。新聞紙面では1月7日の朝刊1面トップ扱いでした。私も取材に協力して、短いながらコメントも掲載していただいています。いろいろなデータを可視化して現代の課題を紹介する「チャートは語る」という連載の一環で、人工衛星が急増している現状とそれが天文学に与えうる影響を紹介してくれています。「夜空の星の1割が人工衛星」になってしまうと推測されているのは2030年ごろで、現時点ではまだそうなっていません。とはいえ、各国の衛星打ち上げ申請を見ると衛星数が今後も激増するのは間違いありませんので、警告という意味では極めてインパクトのある見出しです。衛星コンステレーションについてはスペースXの活躍もあってかなり認知度が上がってきていると思いますし、衛星コンステレーションの現状を伝える記事の中では天文学への影響に触れられる機会も増えてきたと思います。もちろん衛星はとても意義あるもので、その展開を邪魔するつもりは毛頭ありません。日経の1面に載ったことで、両者のうまい共存の仕方をみんなで探っていく必要がある、ということが広く知られるのは今後の取り組みにとって重要です。

「スターリンク」とは?能登半島地震でも存在感、マスク氏が率いる衛星通信

2024年1月13日付でJBpressに掲載された記事。これまでトンガの火山噴火やウクライナ侵攻などによって通信が途絶えた地域でスターリンクが活躍してきました。1月1日に能登半島を襲った地震でも通信網が寸断され、そこに空から電波を降らせるスターリンクが活躍しています。記事では衛星コンステレーションやスターリンクの基本的な解説をしていますが、最後に「光害や安全保障上の懸念も」として、反射光による天文観測への影響や、特定企業のネットワークへの過度な依存が安全保障上望ましくないことなどが紹介されています。最近の衛星コンステレーションの記事には、光害に触れているものが増えてきた印象です。天文関係者も人工衛星の有用性は大いに評価していますので、共存に向けた取り組みを進めていきたいところです。

地球周回軌道での周波数をめぐるバトル

2024年1月23日にspacenewsに掲載された記事。昨年11月~12月に開催され私も参加してきた国際無線通信会議(WRC-23)での、静止衛星システムと低軌道衛星システムの間の議論が紹介されています。WRCは、無線通信の周波数を国際的に調整するための最も重要な会議です。混信などの有害な電波干渉を防ぐために、様々な用途に対して周波数や電波放射強度に制限が加えられています。そうした電波の使い方が記載されているのが「無線通信規則」で、WRCではその改訂が議論されます。
記事では、非静止軌道衛星の所期の軌道から外れてもよい許容値の限度が決められたこと、非静止軌道衛星から電波天文学を保護するための取り決めが次回WRCの議題として決まったことも紹介されています。また、非静止軌道衛星が静止衛星の通信を邪魔しないための電波の放射強度制限についての議論も取り上げられています。現在の制限値を変えるための議論をするかそのままにするかで、両陣営がかなり議論を戦わせていました。衛星に限らず無線通信の分野はどんどん新しい技術やシステムが登場するので、その両立のためにはさまざまなことを考える必要があるのです。

電波天文学の観測環境に関するニュース

月は天文観測に最適な場所だが、そのためには保全が必要

2024年1月27日にspace.comに掲載された記事。月は天文観測にうってつけの場所だが、これからの月面開発の進展を考えるとその保全を行う必要がある、という内容です。天文学者の国際的な集まりである国際天文学連合は、「月からの天文学」について検討するワーキンググループを作っています。さらに、無線通信を管轄する国際電気通信連合においても、月面天文台のための周波数確保はホットな話題になっています。
サムネイルになっているのは、月のクレーターを使った「アレシボ望遠鏡」タイプの固定望遠鏡構想のイメージ図。これほど大規模なものが実現するにはまだ時間が必要ですが、小規模なものならもう射程圏内。アメリカは、2024年2月に打ち上げ予定のIntuitive Machine社製月着陸船Nova-Cに電波天文観測装置を搭載する予定です。さらにファイアフライ・エアロスペースが2026年に予定している月着陸船Blue Ghost Mission-2にも、電波観測装置LuSEE-Nightが搭載予定。民間企業で月着陸に成功した例はまだありませんが、近いうちにどんどん成功するようになるでしょうから、月からの電波天文観測も早期に実現することでしょう。しかし、こうした探査で必要以上に電波を出してしまっては、せっかく人工電波の少ない月面が汚されてしまうことになります。バランスの取れた周波数利用が必要なのです。

グリーンバンクの電波静穏な生活

2024年1月11日にAPS Newsに掲載された記事。アメリカが誇る口径110mの巨大電波望遠鏡、グリーンバンク望遠鏡の周辺での人工電波制限に関する記事です。宇宙からの弱い電波を捉える電波観測に邪魔が入らないように、グリーンバンク天文台周辺はNational Radio Quiet Zone (NRQZ) に定められていて、電波を出す装置の使用に制限があります。その面積は九州より少し狭いくらいで、つまりとても広い。中でも天文台に近い場所ではウェストバージニア州の州法でさらに厳しい制限がかかっています。携帯電話や無線LAN、電子レンジなど、普通の生活では欠かせないものもここでは使えません。そんなグリーンバンク天文台も今年65周年。周囲の方たちの協力を受けて、最先端の研究が続けられています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?