もしもシリーズ 「もし、ぼっちちゃんがブコウスキー小説に入り、そこから抜け出てきたら?」

トランプ部 トランプ引いて何やるか決める ゲームをやることもギャンブルをやることもゴッチ式トレーニングをやることもある 部員は5名 

主人公 鳥岡リョウ(16) 帰国子女 ベンガル高原を放浪して帰ってきた 両親を叔父夫婦と暮らす

相手 喜多川彩音(17) JK。つよい。シーハルクより、シークレット・ハンター的。

後藤ひとり(30)はそこで、筆ペンをくるくると指で回す動きを始め、そちらのほうがよほど面白いし、ことによると、ギターが上達するかもしれない、とさえ思い、ペンが落ちた。
拾って回す。落ちる。
拾って、回す。落ちる。
ペンを投げると、積もった衣服の山に吸い込まれ、消えた。高かった、私の1食分よりは高かった。南無。
「今日、もう、なーんもやる気、なくなりました。お許しください、誰か、聞いておりましたら・・・へへっ」
呟くと、音声認識ソフトウェアが、孤独な文明取り残されアパートの喪われゆく女に、温かい言葉をかける。
「ぼっちちゃん、私が養ってあげる♡」
「いえーい、虹夏さん。あいしてるぜー」
指先を中古の買い替えを先延ばしにしすぎている、その灰色の端末に向け、ぷしゅうと音を立て、銃を撃つ動作の真似事。
「ぼっちちゃん、私が養ってあげます♡」
「ぼっち。滞納分、待ってる♡」
最後のは留守電だった。山田・・・なんで、シモキタから一番遠い辺鄙な田舎町くんだりまで来て、再開したのが大家の山田なんだ。
「・・・不労所得、私も欲しいが、それよりは漏れでるこの明細の数々をなんとか、せな。炭水化物とアルコールに侵され、不健康をA.Iに優しくドヤされるのが日常の、この私に、余剰資金があれば、だがよ。けけっ」
山田・・・リョウさんは結束バンド解散ライブ後、しばらくイギリスを旅行し、ビートルズと本人曰く『会話』した後、日本に帰国し、葉巻のオンラインショップと、インフラビジネスの大家を始めた。融資は受けず、実家から借りたお金で堅実に始め、両親が若隠居を真面目に考えるほど成功させているというから、羨ましさの極み。たまに(ほんの、たまに)葉巻を安く分けてくれる、そのホスピタリティーに絆されたら、この、不良債権みたいな、狭苦しく冷暖房も故障多発で、真夜中の風呂で自分以外の髪を見かける、素敵な家屋を提供して頂いた。
「いえーい。リョウさん、だいすきー」
寝転がり、天井のシミを見ると、シミが動き、虚の眼と鼻、口の形になり、超低音ボイストレーニングの指導を始めた。拍手して、このあと、1杯どう?と囁いてみたら、消えた。
「けっ。呪うか覗くか、はっきりしろい!・・・こちとら、セルフでアレキサンダー・テクニック。ちゃんと続けてんだぞべらぼうめえ」
古い日本語を沢山使い、時間感覚を喪失したひとりは、コンビニでテキーラ珈琲でも引っ掛けるかに立ち上がり、冷水を浴び、柔軟体操をし、四股をして体の調律を終えると、靴下を探した。
「揃ってるのがひとつも、ない・・・」
嘆息を堪え、サンダルで外に出ると、冷気が足指から差し込んでくる。この刺激で足指の神経が活性化する足指は私みたいな運動神経の神から見放された女の起死回生策とマントラを唱えてから、ドアを開けると、2人組。
「後藤ひとり、さんかい?」
現人類に近いほうが言った。伊太利亜シャツを洒脱に着こなし、フーテン感覚をアピールしたいお年頃の坊やらしい。
「かもしれません。私も今日はまだ飲んでないので、海馬の調子がまあまあ。・・・私が、後藤ひとりだとすると、どうなんスか?」
「今日は、回収するまで帰るな、とリョウの姉御に言われてる。手段は問うな、とも」
普段二足歩行しているか怪しいほうが言った。ワークマンのカジュアルな作業服で簡素な機能性をアピールしたい年頃の坊やらしい。
「へー、こわ。通報しようかな」
「その前には、逃げられる立地だ」
ワークマンが距離を詰め、ひとりのよれよれの襟首を掴み、ひとりが全身を脱力させ、引かれた勢いに頭蓋骨の動きを任せると、鼻梁が折れる音が響いた。
ひとりは頭頂を抑えながら、にっと笑った。
「健康的な歯をお持ちで、なにより。衰えは口から、と言いますから。へっ」
伊太利亜シャツがひとりの側面の、あともう一歩動かれるとまずい位置から、穏やかに言った。
「抵抗は無駄だよ。後藤さん。ミャンマーのラウェイで記録を塗り替えた経歴もある凄腕の正社員だ。頭蓋骨も神経も常人をケタ外れてる」
「・・・ま(じ)?」
「ま」
臼歯をむきだして残忍に口元を歪めながら、四足体勢で唸りだしたワークマンは、か弱い音楽家を骨まで喰い尽くしても、まだ飢えが収まらないように見えた。
「あっ、あはは・・・」
「UGAAAAAAA!!!!!!」
ひゃああああああとかろうじて殺人砲丸を回避し、

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