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引きこもりが銃の講習を初めて受けたときの話

今年、専門家の方から銃の知識と扱いを学ぶ講習に参加した。システマ東京が特別に開催してくださったクラスで、読者の中にはひょっとすると、当日出席された方もおられるかもしれない。

講習時はガスガンを使用した。講習を受けている間、化学と手作業音痴の私は「ガス・・・暴発・・・大けが・・・ヒエエ」という恐怖と過剰に戦っていて、ガスの注入や器具の扱い等の作業は、結局、慣れている人にほぼほぼ代行して頂いた。

ガスガンとはいえ、実銃に近い重さがあり、実際に弾が出る代物を身に着けたり、外したりするのは、プラスチックの玩具を扱うときより遥かにストレスが起きた。

特に、ストレスによるプレッシャーが強まったのは、「刃物を持った人間がこちらに向かって襲い掛かってきた」というシチュエーションの訓練のときだ。犯人役が実践経験を積んだインストラクターの方だったから、とにかく圧が半端なかった。

訓練では、参加者が列を作り、一人ずつ犯人役と向き合いやり取りから撃つまでの流れを一回ずつ練習した。参加者には演技力がかなりハイレベルな人もいたし、私よりもシステマの練習を長年積んだ人もいた。そういう前提に関係なく、刺される人のほうが圧倒的に多かった。銃の専門的練習を一般人が受けることが可能な機会なんて日本では滅多にないから(開催できたことがむしろ奇跡的に感じる。大感謝)、練習量という意味では、参加者全体でそこまで差異はなかったのかもしれない。

ついに、私の番が来た。待っている間、模擬ナイフで切られたり刺されたりしている参加者を見ながら、私は恐怖心に全身をほぼほぼ支配されていて、声を出すのがやっとというありさまになっていた。こんな状況で複雑な作業をしては、まず間に合わない。そこで、「相手が動き出したらすぐ抜いて撃つ」という動作にだけ集中することを決めた。「危機時の動作プログラムは最小限であるほど機能しやすい」といったことをシステマのクラスで北川さんに教わったことがあるが、当時の私は、稚拙ながらそれを行おうとしていたのだろう。

犯人役の刃物(模擬)が自分の身体に触れる前に、私は銃を抜いて引き金を引いた。そこまではギリギリ間に合った。距離もギリギリだったし、バイタルゾーン(致命的部位)を適切に撃ち抜いた自信もないので、実際の状況だったら、そのまま刺されていた可能性のほうが高い。だから、「サバイブしたかどうか?」を成功の判断基準にするなら、失敗かもしれない。だが、素人が刃物を持って襲ってくる相手に銃を抜いて撃つところまでは行くことが叶ったということは、銃器のインストラクターの方の教え方が実践に極めて即した、優れたものであったということだろう。軍人さんが考案した一般人が短期的に強くなる為のプログラムはシステマ以外にも、結構あるのだ。

私が講座でやったのはあくまでシミュレーションだが、実際の状況では、私が感じたプレッシャーなど比ではない恐怖が起き、そんな仲で「相手の動きを制止し、命までは奪わない」等という技を至近距離で達成できる人は、凄まじい修練と経験を積んだ人だけであろう。

同じクラスに参加した人の中には、アメリカの警察のように毅然として犯人役に声をかけ、法規に則った発砲を試みている人もいたけど、その人は間に合わず、刺されてしまった。なにせ、犯人役はプロだ。いや、仮に相手がプロじゃなくても、ドラッグなどで興奮状態だったり、ギリギリまで刃物を隠していれば、こちらが銃を引き抜いて撃つまで間に合う自信はかなり少ない。素人でも殺すことは簡単にできる。警察官が書いた本などを読むと、訓練と経験を積んだ人でも、仕事中は同じような恐怖や葛藤と向き合うことになるらしい。下の本はフィクションだが、作者が元現役のアメリカ警察官なので、本当に体験した人じゃないと描けないであろう感覚的なリアリズムが濃厚で、オススメ。

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