見出し画像

税金と土地の問題をもう一度考えてみよう その6

執筆:ラボラトリオ研究員 杉山 彰

ストックオプション課税処分が揺らいだ

この揺らぎは、ストックオプション制度を行使して利益を上げた所得は、「一時所得」が、「給与所得」かという論点で争われた問題でした。結果は、平成16年2月の東京高等裁判所判決によって“ストックオプション制度の行使によって得た利益は給与所得である”との判決が出されました。そもそも、ストックオプション制度を行使して利益を上げた所得を捕捉するという税制度は、我が国では確立されていなかったのでした。本来ならば、法令の改正などを国会で立法化しておかなければならなかった問題でしたが、「法的な解釈としてはストックオプションの行使利益は給与所得と解することができる」という判決が下されました。 

給与所得はサラリーマンなどが勤務先から受け取る給料、賞与などの所得に相当し、『収入金額(源泉徴収される前の金額)-給与所得控除額=給与所得』として計算されます。また、一時所得は営利を目的とする継続的行為から生じたものでも、労務や役務の対価でもなく、更に資産の譲渡による対価でもない一時的な性質の所得に相当し、『収入金額-収入を得るために支出した金額-特別控除額(最高50万円)=一時所得』として計算され、その1/2相当額が総所得金額に算入されます。

ですから、ストックオプションの行使利益を一時所得として税務申告できれば、課税所得は給与所得のおよそ1/2となるので、節税の意味において、課税庁にお伺いをたてたわけですが、課税庁からは「一時所得に該当します」というお墨付きをもらったうえで確定申告したわけですが、後年、ストックオプションの行使利益のあまりにも莫大な金額がマスコミなどで面白可笑しく取り上げられるようになって、いわゆる我が国特有のジャパニーズ・ジェラシーのバッシングにあうことになったのでした。

その結果、ストックオプションの行使利益は給与所得の経済利益に相当するという解釈に変更されたわけです。 通常所得のおよそ1/2に対しての課税で済んでいたものが、突然、給与所得として申告し直すようにということになり、こともあろうに過少申告加算税賦課処分されるという展開になったのでした。過少申告加算税賦課処分は違法ということで事なきを得たのですが、一時所得扱いは撤回され、給与所得としての課税という展開になったのでした。 

租税が課される根拠として「課税法律主義」と「租税公平主義」が2大基本理念とするならば、給与所得を規定する法律には、“次のような経済的利益も含まれます”という項に、“ストックオプションによる権利行使”という条文が記載されていなければならないはずです。課税庁の解釈や見解によって法律の適用が変更されるという事態はあってはならないことでした。

前述した、TKC全国会の創設者の故飯塚毅会長が、国会での意見陳述において、並みいる財務官僚を前に「租税正義の原則と公平負担の原則が貫かれていない現状は、国会議員、及び国会議員を補佐すべき財務官僚が無能である証拠である」と切り捨てたことが、未だに是正されていない好例です。

 相続税の盲点をついた揺らぎ

この揺らぎは2005年4月に「史上最高!贈与税で1600億円の申告漏れ」という見出しでマスコミをにぎわした「武富士事例」です。武富士の故武井保雄元会長から、長男俊樹氏へ贈与された海外法人株を巡る税務訴訟でした。事の顛末は、1997年6月に長男である武井俊樹氏が武富士香港法人代表として出国した時点が発端でした。そして同時期に、故武井保雄元会長が個人名義で所有する武富士株を、夫婦らが設立したオランダ現地法人へ売却したのです。そして、1998年12月に武富士が東証一部上場を果たし、オランダ現地法人が所有する武富士株も上昇したのでした。そしてさらに、1999年12月に当該オランダ現地法人の株式の90%を長男俊樹氏に生前贈与したのでした。

この問題は、「外国に居住する者が国外財産を贈与により取得した場合には、日本の贈与税は課されない」という、相続法の居住者・非居住者を規定する盲点をついてきたループホール(抜け道)でした。その後、2000年4月の租税特別措置法改正によって、「たとえ受贈者が非居住者であったとしても、贈与者・受贈者が共に贈与前に5年を越えて、海外に居住していなければ課税対象とされる」ことになったのでした。結果は、贈与税1,653億円の申告漏れで、無申告加算税を含む1330億円が追徴課税されたのですが、2007年の5月、東京地裁は改正以前の租税法に準じて、1,330億円の追徴課税を取り消す判決を言い渡されました。

この判決には後日談があります。前述の武井俊樹氏は延滞税を含め約1,585億円を全額納付して裁判を起こしたため、2005年の時点で判決が確定した場合は、国税庁に納付しておいた1,585億円の全額が返金されたうえに、国税庁は、還付加算金を含め約1,715億円を返還する必要があると言われています。金利が0.1%以下というこのご時世で、なんと4%近くの年利がついて、130億円近くの利息が武井俊樹氏に返還されることになります。1,585億円が、約1,715億円に増えて戻ってくるのです。

もちろん国税庁は高等裁判所に即時抗告したため、現在、係争中ではあるのですが、この問題は、「租税法律主義」に準じれば妥当な判決であり、租税法のループホール(抜け道)を見逃した国会議員、及び国会議員を補佐すべき財務官僚の失態以外の何物でもない事例です。国会議員は発生が予想される事態に備えて、法を整備しなければならないのです。「悪法も、また法なり」といって毒杯をあおって処刑されたソクラテスの覚悟のほどが、今の国会にあるのだろうか。 (つづく)

←その5に戻る

その7に続く→

・・・・・・・・・・

【杉山 彰(すぎやま あきら)プロフィール】

◎立命館大学 産業社会学部卒
 1974年、(株)タイムにコピーライターとして入社。
 以後(株)タイムに10年間勤務した後、杉山彰事務所を主宰。
 1990年、株式会社 JCN研究所を設立
 1993年、株式会社CSK関連会社 
 日本レジホンシステムズ(ナレッジモデリング株式会社の前身)と
 マーケティング顧問契約を締結
 ※この時期に、七沢先生との知遇を得て、現在に至る。
 1995年、松下電器産業(株)開発本部・映像音響情報研究所の
 コンセプトメーカーとして顧問契約(技術支援業務契約)を締結。
 2010年、株式会社 JCN研究所を休眠、現在に至る。

◎〈作成論文&レポート〉
 ・「マトリックス・マネージメント」
 ・「オープンマインド・ヒューマン・ネットワーキング」
 ・「コンピュータの中の日本語」
 ・「新・遺伝的アルゴリズム論」
 ・「知識社会におけるヒューマンネットワーキング経営の在り方」
 ・「人間と夢」 等

◎〈開発システム〉
 ・コンピュータにおける日本語処理機能としての
  カナ漢字置換装置・JCN〈愛(ai)〉
 ・置換アルゴリズムの応用システム「TAO/TIME認証システム」
 ・TAO時計装置

◎〈出願特許〉
 ・「カナ漢字自動置換システム」
 ・「新・遺伝的アルゴリズムによる、漢字混じり文章生成装置」
 ・「アナログ計時とディジタル計時と絶対時間を同時共時に
   計測表示できるTAO時計装置」
 ・「音符システムを活用した、新・中間言語アルゴリズム」
 ・「時間軸をキーデータとする、システム辞書の生成方法」
 ・「利用履歴データをID化した、新・ファイル管理システム」等

◎〈取得特許〉
 「TAO時計装置」(米国特許)、
 「TAO・TIME認証システム」(国際特許) 等

この記事は素晴らしい!面白い!と感じましたら、サポートをいただけますと幸いです。いただいたサポートはParoleの活動費に充てさせていただきます。