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麻美先輩留学おめでとう小説

麻美先輩、留学決まっておめでとうございます。私より年上の人が中途半端な時期に留学するのは勇気がいることだし、審査も厳しいはずだけど、通ってよかった。

さて、麻美先輩の餞につきまして、麻美先輩がnote有料化するといいのに、と言ってくださったので、これは有料にはしないけど、noteで小説を書かせていただきます。

【あたしは女王様】

自分で言うのもなんだけど。私は喪女のわりには良い線行ってると思う。彼氏もできたことあるし、大卒だし。だけど、大海を知ることもないだろうし、かといって井の中の蛙でいたとしても、その井戸の中の油を一生懸命足掻いてバターにして、大海へ飛び立つような専門性、あるんだろうか。法律を勉強したから法律事務所で働いて、結局お茶を出す仕事しかしなかった。それでいいのだろうか。

私の上位互換みたいな女の人を嫌でも見てきたけど、何の疑問も持ってなさそう。田舎で、旦那がいて、パートしてるだけでも立派で、だけどデパ地下で総菜買って、貯金がいつまでも貯まっていかず、結局旦那の貯金で暮らしていく生活。おお。こわ。でも、きっと私もこうなるんだろうな。

私も彼女らと同じように現状に疑問を持ちつつも現状に甘んじている。どういう経緯かは忘れたけど中華系女子アイドルのおっかけをしていたら、その子と繋がってしまい、中国語を勉強することになった。「麻美、話そうよ」と言われても断れない。可愛すぎて。中国語単語帳をひととおり覚えて、過去問解いて、中国語検定を受けて、中国に行って、アイドルと宝塚の歌劇みたいなお茶会をするのだ。

後輩の西の子のツイッターで「張愛玲めちゃくちゃ面白い」と言っていたので、帰りに読んでみようと思った。検索してみると台湾の女流作家らしい。

早速丸善に寄って買ってみると、作品内の世界観がゴージャスすぎて痺れた。当時の中国本土からブーイングが来そうなくらい、張愛玲がいかに贅沢をして暮らしていたのかがわかった。現に中国は10億人いるけど、目立つのはこっちに情報が入るのは富裕層の人々。それ以外の見過ぎについては何もインターネットに公開されない。ある意味で国家秘密なのだろう。

私がこよなく愛しているのは金持ちの親に甘やかされて甘やかされて、したたかな世間からという意味では浮世離れした、中華系女子アイドルである。彼女と付き合う上では、何の説教もしてはいけない。説教はある意味で里心ではあるが、その次元の親切さは令和に於いてもはや要らない。大学の文芸部では野郎どもにまみれてひたすら野郎どものボケにツッコんでいた自分ではあるが、そんな時代も浦島太郎もびっくりの昔々になってしまった。あの頃はちょっとお菓子食ってただけで後輩に「デブ」とか言われて本当失礼だった。あの頃は知らん。あの頃より、今は薔薇が百合がそこらじゅうに咲いている。今は好きな人がいればただただ甘やかす時代である。

かと言って、私は甘やかしても、向こうから説教することもある。その時は菩薩のような心持で、全部聞いて、「ごめんね私が悪かった」と言う。今日も、アイドルである「寧寧」はSHOWROOMの二番煎じみたいな中国アプリで配信をしている。ケーキ(ボタン)を押して投げる。

「麻美! ありがとう」
寧寧のライブには私しかいない。
「寧寧、今日は何した?」
「14時に起きて、ウェッジウッドの通販で物色したり、ウェイボー見たりしてて一日が終わった」
「そう、私も同じ感じだよ」

寧寧は西洋趣味があるらしく、5年前からのクラロリを全部網羅している。さすが金持ちだ。いやらしい言い方になってしまった。桐野夏生の「グロテスク」はこういう人に対してさげすむような書き方をしているが、寧寧のような人だと毒っ気がもはや全くないので、かわいいね~って思ってしまう。日本人って言葉の端々に小賢しさがあるから自分は苦手だなと思う。

「寧寧は今日何食べたの」
「今日は薬膳粥一食しか食べれなかった」
「ふーん。ヘルシーじゃん」
「最近お粥ばっかり。いい加減飽きた」

それから寧寧は自宅にあるカラオケで民謡を歌い、私はこちらに視線が来る度にいわゆるスパチャをした。寧寧はありがとうと言い、突然泣き出した。

「どうしたの?」
「私、昨日バイトの面接受けたけど、落ちちゃって」
「そんなの数撃ちゃ当たるよ」
「だけど、どんなに受けても受けても、受からなくて」

それから最後の1分前までいろんな言葉を駆使して励ましていたが、自尊心の欠如を自覚した寧寧にはあまり効かず。そのまま配信は終わった。

バイトなんか。受かって変な目に遭った方が、マイナスなんだよ。それを言いたいのに、うまく言語化できないし、言語化してこれだけど、これで寧寧に伝わるような気がしない。

寧寧の配信が終わった後、私は夜、職場に行く。

「あんたのチンコが小さいのは私に対する忠誠心がないからなのよ」

そう言って、鞭をブッサイクな男に叩きつける。

「今あたしにあんたの忠誠心、誓いなさいよ!!!!」

そう言って、客のチンコをしごいて、おちんぽみるくを出す。
何やってんだろうと思うけど、中国共産党の成り立ち、歴史を勉強する度に、風俗に活かされることばかりで目から鱗がはたはたと落ちていく。

【今あたしにあんたの忠誠心、誓いなさいよ!!!!】

私は果たして何に、忠誠心があって、何をすれば誓えるのだろうか。信仰の問題に発展するけど、遠藤周作は何も答えちゃいないね。私にキリストなんていない。ただ、キリストは厄介YouTuberだなっては思ってる。それだけ。