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神様の冠婚葬祭ライブ!

かつて、神様は森羅万象のドパミンを司る勇猛な実力者だった。しかし、どこでどう間違えたか、今では場末のライブハウスで夜な夜な配信ライブを行い小遣いを稼いでいる。10ユリイカを手に入れるため、神様は色々と手を尽くす。毎日何かを暴露して、毎日何かを披露して、毎日両性具有の陰部を露出している。陰部を露出するまでの過程を手を変え品を変え飽きられないように模索する。飽きられたらおしまいだと思いながら。

神様はこの現代において神をやるまでに、バンドマンとして身を窶しサブスクで自身のみことばを放つ。何より大事なのはライブ。ライブでグッズを売ること。そのために神様はライブで自身の陰部をライブする。神様は売れるところは余すことなく売った。性遍歴を語り、どういうシチュエーションで行われたかをポエトリーリーディングし、実際に当時を思い出して1人遊びをおっ始める。たまに観客に触らせて出すこともあるから、ストリップっぽいことをやっているなと思いつつストリップほどの様式美を確立できないまま、何年も過ぎていた。

神様はかつて、街になりたかった。街になり誰かの、できれば少女の居場所になりたかった。しかし、実際は街になることというのは吐き溜を受け入れることでもあった。自分に居心地のよさを感じている我が子供たちを見ているとこれほどに傷んでいるものなのか、と思う。彼女らは人生を行う際手数の少ない中で賢い方を選ぶにせよ愚かな方を選ぶにせよ、結局つまらないと思うのだがその意思は淘汰していく。結局笑うしかないのだ。

神様は都会にはなれなかったがドヤ街にはなれたかもしれない。そう思いながらも陰部をライブする。神様が街になるには少女たちがつどって他という傷を切り付け合って死ぬまで遊ぶことが必要なのだが。傷つけるどころか舐め合ってるだけではないか。神様は今日も陰部をライブする。

神様は絶望しながら果てることはもう慣れていた。いつもガソリンと硫黄を摂り針葉樹林を食べ、新たなるエピソードを捏造し、常にエロを念頭に生きてきたけどいよいよ限界だなあと思っていた。もう四十路も近いし。神様なのにこんなに品の低いものになったなら次生まれ変わる時それはもう厳しい評価になるだろうとひやひやしている。

翌日もイメージトレーニングを入念に行い、予定より一時間早く入ると、ライブハウスの支配人が言った。

「すみません、神様、来月このライブハウス潰れます」

神様はまた絶望した。泣き喚きたい衝動を堪えクールな笑みを浮かべ最後のイベントについて話を進める。なんと、最後のイベントで神様は死ぬことになった。実際死んだようなものだろう。やるとしたら最後に何をすれば一花火打ち上げることができよう。今まで神様として過ごしてきたけれど、何をやり残してきたか。やっぱり結婚かな。結婚式やってみるか。あとこのライブの日、誕生日だ。盛大に催そう。

神様は早速告知をし、拡散し、準備を進めた。すぐ当日はきた。本当ならもっと細かく設定したかったがやっつけ仕事になった。

「神様の、冠婚葬祭にようこそ~」

そう言って歌を歌い「これで終わるのか~」と思っていたら、観客の顔色が浮かない。

「みんな、元気ないね?最後だしはしゃがないと駄目だよ」

すると思いがけぬ反撃を食らった。

「神様、あなたは一体誰と結婚するんですか」
「私と結婚してください」
「いいえ、私です」
「待って、私ですよね?」
「ちょっと。私とですよね?約束しましたよね」

神様に届いたメールや手紙を読み返すと、みんなプロポーズしている。

「はっきり言ってください」
「私の気持ちどうするつもりですか」

「そうだねぇ」

観客は固唾を飲みながら神様の反応を伺う。

「決まってるだろ、僕は君の婚約者さ」

そう言って神様は観客一人一人とキスをして愛撫をし合った。傷つくファンもいたが、自分の番が回ってくると何も言わない。神様は神様の子らがつけていた赤い口紅だらけになった。子らは言った。「ハッピーバースデー、神様!」神様は39歳になった。神様はからからに干からびても頑張って捻り出した。全員分に神様のホワイトカクテルが行き渡った。観客はたちまち妊娠した。と言っても想像妊娠だけど。

神様はライブで自身の曲を11曲披露した。神様がマイクスタンドを撫でるたび観客は発情した。観客が興奮しているのではなく、興奮させられているのだ。神様が「涙」「怒り」「しあわせ」などと言ったワードを発すると、観客はなぜか涙し、憤慨し、多幸感を得る。神様の書く詞は誰一人として理解できた者はいないとしても、神様が歌うと再現される。神様は生と死と性について歌い、うっとりとした空気のままライブは幕を閉じた。

神様はライブを終えると、自分の役目は終わったのだと悟った。神様はシャワールームに行き石鹸の泡と混じってピンク色の靄として消え生活排水として流れていった。神様は次、汚い売春島の近くに住むマーマンになった。神様の業は深い。

神様が作ったゲームの基盤は、歌詞としてファンの間に受け継がれた。神様の子供になった者たちは、やがて神様と同じことをするようになった。かつて神様がしたように、彼・彼女らも自分の生を綴る。しあわせになるためではなく、自分もまた選ばれた者としての使命を果たすべく、誰かに良いようにつけこまれる。搾取される。いつか相手に気づいてもらうのを待ちながら。