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台北でひとり ③ 『おれは現地の住民なんだっ!』

もう知ってるひとも多いと思いますが、台湾には『夜市』という文化があります。夕方くらいから路上にたくさんの屋台が現れて街中がフードコートと化します。東京23区で例えるのであれば、渋谷の宮下坂が夕方になると急に歩行者天国になり、屋台で溢れかえるくらいの規模感が平均だとして、中目黒の目黒川沿いでも長い夜市がはじまり、同時刻に吉祥寺のパルコの前、錦糸町の駅前、大きいので言えば秋葉原あたりの電気街(つまり PARK GALLERY 有する末広町)がまるっとぜんぶ巨大な屋台村になるイメージです。

りんご飴やたこ焼きに代表される日本の屋台とちがい、ちゃんとバラエティに富んだ夕飯、スイーツが提供される屋台が立ち並び、地元の人と観光客で毎晩賑わっています。

みんな楽しそう。

しかも毎晩ね。すごい。

1日目の夜は、いま泊まってるホステルから歩いて10分のところにある寧夏夜市へ。比較的こじんまりとした夜市ではありますが、それこそ宮益坂くらいの長さはあると思います。普段使いにはちょうどいいサイズと混み具合、メニューの品揃えという印象。まわりに飲食店(屋内 / エアコン完備)も多いので、屋台の雰囲気にピンと来なくとも大丈夫。

日本人には見慣れない環境なだけで、日本の中途半端な中華屋で食べるよりは俄然おいしい。しかも安い。

ちなみに今回の目当ては「鶏肉飯」

似た食べ物で「魯肉飯(るーろーはん)」という日本で言う『牛丼』みたいな国民食があって日本人にもファンが多いと思いますが、これはそれの鶏肉バージョンという感じです。

どん。

目の前の鍋でぐつぐつと煮込まれた鶏肉の身をほぐしてごはんの上に乗せ、特製のタレをかけただけ、とも言えますが、これがまた絶品。口の中で鶏肉がほろほろと崩れて、スープのうまみがお米と一緒にじゅわっと口の中に広がります。八角の効いた甘ダレの魯肉飯と比べると後味がさっぱりしているので、癖もないですし箸が止まりません。それに一杯たったの120円。

ただ、いままでの夜市では、できた料理を受け取って、近くの共同テーブルに行ってひっそりこそこそ友達とあーだこーだ感想を言い合いながら食べるという、例えるなら高速道路のサービスエリアのフードコートに似た感じの食事スタイルなのですが、この日は『ひとり』なもので、違いましたね、たった3席しかない鶏肉飯屋の屋台のカウンター(おじさんが調理する目の前)で食べたくなってしまったんですね。うしろ観光客とかすごいのに。つまり

『おれは現地の住民なんだっ!』
『I'm Taiwanese!』

って感じ。設定は25歳くらい。恋人もいなければ、定職にもつかず、地元でくすぶってる感じ。で、食べました。

『観光客なんて知らねーさっ!』

っていう感じですね。

ここで手順。

① まず、鶏肉飯の発音を google 翻訳で覚えます
② 鶏肉飯屋の椅子の空き状況を確認します
③ 料金も事前確認して手のひらに用意しておきます
④ 向かう(戻る)途中ほかの屋台は見ません
⑤ 店のおやじの目も見ません

で、屋台めがけておもむろに歩いて行き、ドガッと椅子に座ります。「ここ座ってもいいですか?」的な感じを出すのは観光客。だっておれ住民なので。

「鶏肉飯」

で、店主にオーダーを聞かれる前にこっちから言います。いつものやつ、と言うように。

するともちろんなんにも言わず「鶏肉飯」がでてくるわけですね。で、あとは手のひらの40元をパラっと店主に渡すだけ。これで住民完成。あとは追加で「チンツァイ=青菜」とひとこと(ここは『いつものやつって言ったんだから忘れないでよおじさん!』という演出なので、ちょっと大声で)。すぐに隣の席に同じ年齢くらいの若者が来て、まったくおんなじそぶりとトーンで鶏肉飯を頼んだのでわたし興奮。話しかけようと思ったけれど絶対に通じない!

あとは背中の方を行き交うさまざまな観光人種のるつぼに向けて、

『おれは現地の住民なんだっ!』
『観光地になる前から通ってるんだもんね!』

というオーラを出し続けながらゆっくりと鶏肉飯のスープに溶け込んでいったつもりだったのですが、ふと通りかかった日本人カップルに、

「この店おいしいですか?」

と話しかけられて、ぼくは鶏肉飯を口いっぱいに含みながら慌てて

「おいひいです〜」

と笑顔で答えてこの夜は終わり、です。

台北でひとり。