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三嶋さつき 連載 『ひびときめき、きょうてりやき』 〈最終回〉

2022/07/26
火曜日


朝から大雨。
ピカピカ光って、雷まで鳴っている。
森は、昨日よりも足が痛そうであんまり動こうとしない。
表情も、いつもより元気がないかんじ。
すこし抱き上げてみようとすると、痛がってクンクンと鳴く。
かなしいし、かわいそうだ。

午後、都内に出る予定をすべてキャンセルさせてもらって、いつもの病院に連れていくことにした。
病院までの時間は、わたしの方も落ち着かなくって、不安で、仕事に身が入らない。
事務的なことなど、やれる範囲でこなす。

夕方、晴れてきたところで家を出る。
なんとかキャリーには入ってくれたので、車に乗せて行けた。
いつもの受付のおねえさんも、すごく心配してくれていた。

お世話になってる先生とは違う先生だったけれど、とても丁寧にようすを診てくれた。
レントゲンを撮ってもらった結果、両前肩が炎症しているとのこと。
原因は詳しくはわからないけれど、犬種としてそこまで強くはなく、運動も生まれてこの方してきたことがない子だったので、知らぬ間に痛めてしまったのだろう。
痛み止めとサプリメントをもらって、様子を見ることになった。そして、安静に。

きほん、家では常に安静な子だけれど、お散歩がだいすきだったのでしばらく満足に行けないことがかなしい。
すこしでもはやく、良くなりますようにと、おっきいおなかを撫でる夜。


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2022/07/27
水曜日


7時前にアラームで目が覚める。
森がベッドにあがれず、姿が見えないことが心配で、わたしもリビングに布団を敷いて寝たのだった。
森は、自分のベッドで寝ているよう。

ごはんを食べるときだけは、しっぽをふって足をひきずりながらも歩いてくる。
これがまたちょっと痛々しく、見ていてつらい。
自分も朝ごはん(ホットコーヒーとグラノーラを少しだけ)を食べて、早々に出発。
ひさしぶりに自転車で駅まで向かうことにする。たまには風を浴びないとー。
ほんとうに少しだけ、雨が降っているようだったけれど、暑すぎず、風が心地良い。
そして、すっかり夏の匂いがする。甲子園(テレビで観る高校野球)の匂い。

今日は、朝から都内である仕事の打ち合わせ。
7月頭ごろから、何回も担当の方に鎌倉に来ていただいたりして打ち合わせを進めていたのだけれど、今日はいよいよ本社へ。
大井町という駅ではじめて降りたけれど、駅前にいろいろあって便利そうだなあという印象。

いつもお世話になっている担当の方と、会社の方とデザイナーさんと。
緊張したけれど、とてもたのしく終えられた。
ブレストの段階から一緒に入らせていただくことがたまにあって、あーだこーだ、雑談のように会話するのはたのしい。
秋の終わりごろ世の中に出るものなのだけれど、どうか無事に、たのしんでつくっていけるといいなあ。
そして、どうかたのしみにお待ちいただけるとうれしいです。


たのしい打ち合わせが終わって、その後は蔵前のNui.へ作品たちをとりにいく。
体調を崩してしまって、しばらく行くことができなかったので。

お腹が空いていたのでエリックサウスのカレーを食べていたら、さやさんが颯爽と会いに来てくれた。
これまた、たのしみな作戦会議。むふふ。
今年の下半期も、あわただしく、たのしいものになりそうな予感がしています。
でも今年はちゃんと、自分とみつめあったり、取り入れたり、からっぽにしたりする時間も大事にできるといいな。
暑くて滝のように汗をかいたけれど、いい一日でした。


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2022/10/01
金曜

快晴、寒さで目が覚める。
外に出ると涼しい風も吹いている。
森の散歩に出ると、金木犀のかおりがした。
知らない間に秋が来てるみたい!

7月の日記がでてきて、そうか、いぬが怪我したのが2ヶ月ちょっと前。
そして、最終回がこんな時期になってしまいました。ごめんなさい。


最近朝晩は涼しいし、虫の音がよく聞こえてくる。
でも、昼間は夏のようにじりじりとする日差し。
湿気も少し多い気がする。
いま、まだ和歌山にいます。明日帰る予定。
今回1ヶ月くらい、和歌山で制作したり仕事したり、景色を見てぼんやりしたりしていた。
1ヶ月、ほとんど友だちに会うこともなく過ごしていたので、すごく遠いところに来てしまったみたいでホームシックになったりした。
実家なのに。

このあいだの火曜日、三重の岩田商店さんでの個展が終わり、来週からまたその巡回展が東京ではじまるということもあってばたばたとすごしているうちに、もう10月。

まず、9月の個展にお越しくださったみなさま、見守ってくださったみなさま、岩田商店の松本さんや松風カンパニーのスタッフの皆さん、本当にありがとうございました。
お昼、窓に絵を描いたりしてすごし、夜は上木食堂で美味しいご飯をいただく。
行きたいお店もまだまだたくさんあって、気になる、好きな場所がまた増えた。
短いながら、すこやかな滞在期間でした。

今回の展示はとくに、自分勝手に、名前を知らない・わすれてしまった花などを、いままでみてきた情景などを思い出しながらつらつらと描くようなものになっていると思う。

モチーフが花になったり、山や森になったり、海になったり。
そのとき、その季節、感じたもの、ときめいたものを表現しているような気がする。

何を描くか、どう描くかなんてわたしにとってはただの表面的なことでしかないのかも。
根っこにあるものは、昔を懐かしんで物想いに耽ったり、ときめいたという心もちを思い出しながら表現したり、あのとき吹いていた風のにおいを感じてみたり。
せわしなく、泥くさい日常のなかにある、その余白を表現したいというきもち。
まだ、ぜんぜん表現はしきれていないと思っているけれど、きっとこれからも大事に模索はしたいと思う。

来週からはじまる、にじ画廊での巡回展ではすこしだけ新作も出す予定なので、お近くの方はよろしければぜひ。



おわりに

ひびときめき、きょうてりやき
を、読んでくださっていたみなさま
支えてくださったパークギャラリーのみなさま
一年ちょっとの連載でしたが、本当にありがとうございました。
読んでるよーって、ちょこちょこ知人や仕事先の方などからもお声掛けいただくこともあって、すこし小っ恥ずかしいきもちにもなりながら、でもやっぱりうれしく、たのしく書かせていただきました。

たまに、丁寧な暮らしを送っているとか、ゆたかな生活だと言われることがあるんだけれど、実際の生活はとにかく泥くさい。
締切に追われていたり、晩ごはんが適当だったり、取り込んだ洗濯物が散らばっていたり、来月のカードの支払いに戦慄したり、いぬの散歩に行くのが面倒くさくなるときだってある。

それらの余白にある、目を離すとそのまま通り過ぎてしまうようなことを、ちゃんと捉えたいし、言葉にしたい。
たぶん誰にだって、そういう余白があるはずなのだ。
その余白って、きっと豊かだ。


鎌倉の森のリスは暑い夏を越えて帰ってきただろうか、ぶんぶん虫も飛んでいるだろうか。
これからきっとさらに秋めいてくるはず。
この夏ばたばたと過ぎていってしまった分、秋のことはちゃんととらえて、見つめて、吸い込みたいと思う。


三嶋さつき
イラストレーター、絵描き
http://www.satsukim.com

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