『わたしのつれづれ読書録』 by 秋光つぐみ | #44 『ホットロード』 紡木たく
2024年8月29日の一冊
「ホットロード」紡木たく 作(集英社文庫)
『青展』が始まりましたね。パークで開催される恒例エキシビションのなかでも、「青」という一つのキーワードによって、毎回新しい発見と解釈が見出される。開催される度に「青」の奥行きや広がりが増し、それらを堪能することができる素晴らしい企画。一鑑賞者としても学びの多い、テーマ性の際立ったエキシビションだと思うので、今年も多くの人に目撃してもらえたらいいなーと純粋に願っている。
『青展』によって「青」へのさまざまな感受性を知ることができる。だから私もこの機会に考えてみた。
私が「青」を感じる本、それは、紬木たくによる青春群像劇『ホットロード』。
大人にはなりきれない、すでに子どもでもない。
母親との確執によって、日々胸に痛みを抱える14歳の主人公・和希。ある晩、湘南の街で、仲間と群れながらも孤高の空気を纏う少年・ハルヤマと出会ったことで物語は動き出す。
ハルヤマと接することで、大人の世界の入り口のにおいを知り、近づくことをためらったり、ふりはらったりもしながら、少しずつ心を解放していく和希。そんな和希の存在が日に日に大きくなっていくことを自覚しているにも関わらず、夜の闇に溶けて今にも消え入りそうなハルヤマ。彼らのすれ違い、そして交錯する想いが刹那的に描かれる名作である。
80年代の社会背景や文化が垣間見える舞台・湘南、不良少女と暴走族の少年という人物設定はもちろん見せ場でもあるのだけれども、和希とハルヤマの二人の男女・人間としての物語は普遍のものとして語り継がれる、刹那にして永久性もある、唯一無二に光る何かがある。
互いを想うことで、見えない恐怖心と向き合い、それらを乗り越えて、成長していく二人の姿は、いわゆる ”ベタな少女漫画展開” とは一線を画す美しさ。
もう戻りたくても戻ることのできない青さ、”うぶ” であるそのときにしか得られない輝きが描かれる、情緒ただよう作品なのだ。
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